1話完結短編

金木犀_

1.

ああ、


また穢れた。


こうやってどんどん


心も蝕まれていくんだろうな。




いつだったかな。


1年前とかそれぐらいに突然、




「ねぇそこのお嬢ちゃん。」




と声を掛けられた。


男女問わず目を引くような


艶やかな服装に、


うふふという魅惑的な笑い方の、


誰でも引き寄せる魔性みたいな


そんな女性だった。




「お金に困ってたりしない?」




「え、いや、あまり困っては、、」




「私簡単にお金が入ってくる方法知ってるの。」




「なんかの勧誘ですか?風俗とかキャバクラとかそういうの全く興味ないんで。」




「そんなんじゃないわよ。まあ勧誘だけど。

 騙されたと思って付いてきてみなさいよ。

 いいから。」




「っ、ちょっと!?」




何がしたいんだこの人。


こんなどこにでも居る可愛げの無い普通の人間に声掛けて。


え本当に私どうなるの?


どうかなんかの店に売り飛ばされることがありませんように、、


そう静かに祈りながら強引に手を引かれた先には、




セレブとかそういう人たちが集まるようなクラブだった。




「じゃあお嬢ちゃん。またね〜」




という言葉を残した後私を突き放し転ばせた。


周りに居る人達の目がこちらに向く。


冷やかすような笑い声が耳に届く。


恥ずかしいという感情がぶわっと湧き上がる。


一刻も早くここから消えたい。


そう思って出口に走りドアの手すりを掴もうとしたその時。


左手を掴まれて勢いよく後ろに引っ張られた。




あ、死ぬのかな私。


そう思いながら重力に身を委ねて倒れた時に


背後からぎゅっと、誰かに抱きしめられた。


後ろを振り返ると、


かっちりとした、いかにもハイブラというような黒いスーツに身を包み、優しい眼差しでこちらを見る男性の姿があった。




「ねぇ君。大丈夫?というかなんでこんな所に君みたいな子が居るんだ?」




「あ、、わた、しも、急にここに連れてこられて、気付いたら突き放されてて、何が起きてるか分からなくて、、。その、ごめんなさい。」




少しつっかえながらもその男性に状況を説明し、頭を下げたが、すぐに頭を上げられ、




「君、疲れたでしょう。一緒にあの部屋へ行こうよ。」




と言われた。


男性の指す部屋を見るとピンクのライトがじんわりと光る、


いかにも、っていう部屋で。


嫌な予感しかしなかったため、


やんわり断ろうと




「え、あ、いやいいです、この後用事もあるので、、、」




と言ったが、




「いいから早くこっち来いよ。」




と、とても強い口調で言われた。


怖かった。


何も出来なかった。


というか抵抗しようと体を捩って声を上げようとしたけど、


鋭い目つきに、想像も出来ないような声を上げる男性に身も心も怯んでしまい、


思うように体を動かすことが出来なかった。




「っ、うわぁ!?」




その部屋に投げられた瞬間男性が私に跨ってきて身動きが何も取れなくなってしまった。




怖かった。


自分でも何が起こってるのかよく分からなかった。


こんな経験あるはずも無く、


初めて会って、


なんの感情も持っていないはずなのに、


なんでこんなに反応するのか。




抗えなかった自分に今更ながら後悔する。




どのぐらい経っただろうか。


その男が気が済んだような態度も示して、


ある程度片付け終わった時に




「はい、これ。付き合ってくれたお礼。それじゃあさようなら。」




とその言葉を残して


何かを机に乱暴に投げ、


男は消えて行った。


よく見てみると


まあまあな厚みのある札束ではないか。




「、、、20万!?」




ん、、、?


あれ、


今私、、




パパ活してたようなもんなの?




そう考えた瞬間吐き気がしてトイレへ駆け込んだ。


色んなことが起きすぎて頭が整理出来なかったが、


我ながらに最低なことをしたなと思った。


身体を売って金を得たっていいことなんてないのに、


こう思うようになったのも夜の新宿歌舞伎町で道に迷ってしまった時、


色んな店のキャッチが




「ねぇお姉さん暇ー?」




「絶対楽しいから来てよ。ねぇ、」




とかいうことを言いながら肩や腕などを馴れ馴れしく触ってくるのにとてつもない嫌悪感を感じたことがあり、




「触んないでよ気持ち悪い!!!!」




という言葉を歌舞伎町に響かせて、


その場に居た全員を引かせてながら気分が悪くなって新宿駅まで走り、


戻して処理が終わった瞬間に倒れてしまったことがあった。


もとはそこまでなんの思いもなかったがそれを発端にどんどん嫌悪感が湧いてきて


男性との会話が次第に減っていき、


夜出歩くのが怖くなってしまった。




が、今日は急用が入りその矢先、


最悪な事態が起こってしまった。




もうこれ以上何か起こる前に帰ろうと勢いよく店を出て走り出そうとした時、


後ろからガッと肩を引かれ引き戻された。


恐る恐る後ろを見ると私の事を突き放したあの女性の姿があった。




「あ、貴方のせいで私、、」




「まあまあそう怒る前にさ。いくら貰ったのよ。」




「え、、何をですか?」




「お金に決まってるじゃない。どうせあの黒いスーツ着た人から貰ったんだろうけど。あ、あの人要注意よ。遊び男だから。で?金額は??」 




「、、20万です、」




「あら、あの人が、笑 良かったじゃないこんなに貰えて。」




「いえ、このお金貴方にあげます。というかあの人に返しといて下さい。それでは。」




「ぇ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」




「、貴方に話すことなんてもうないんで。さような、、」




「無理だね。」




「は?」




「折角見つけた「私」を話すわけにいかないじゃない。」




「何言ってるんですか??」




「残念だけどもう貴方私から抜け出せないから。」











私と同じ人生を歩んでもらうんだから________











その女の言った通り私があの女から抜け出せることはなかった。


抜け出すも何も、最初はいやいや付き合っていた女の遊びにも徐々に快感を覚えていき、


気付けばあの女をそっくりそのまま映したような、




妖艶で、


大胆で、


でもどこか恨めない、


男女問わず惹くような


そんな人間になっていた。




今日も穢れて。


報酬を得て。


また穢れて。


同じ日々を繰り返しているようだけどどこか違う、


そんな日々を送るようになった。




嗚呼。早く私も、




「私」を見つけなきゃ。











______________________________________


こんにちは。


作者です。


短編集出してみました。


初回からこんな話っていう


変なスタートですが、


ご愛読頂けると幸いです。




それでは、また次回。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る