02_15__お守りに願いを③
●【旧主人公】宇治上樹
お守り制作の後は、近くの
他の体験学習が終わるまで、一時間ほど余裕があるらしい。
折角の空き時間だし、この手の贈り物はタイミングを逃すと途端に切り出しづらくなるので、早めに渡しておこう。
「ほい。よかったらどうぞ」
「わぁ!いいんですか!? ありがとうございます!」
我ながら雑にお守りを差し出すと、クレアはコチラが申し訳なくなるくらいの笑顔で受け取った。
「あ!『仕事守』ですか。私にピッタリですね!」
「俺の平和な高校生活のためにも、ぜひ頑張ってくれると助かる」
「もちろんです!お守りも大事にしますね」
俺みたいなひねくれ者には直視しづらいくらいの明るい笑みだ。
素直に感情を表に出すところはクレアの美徳だと思うし、羨ましくさえある。
「実は、私も樹さんに作ったんです!」
「お、悪いな」
てっきり今日の記念に作っているのかと思ったら、俺用だったらしい。
手慣れていない分時間はかかったみたいだが、初めてとは思えないくらい綺麗な出来栄えだ。
ちなみに、お守りの文字は――
「『無病息災』か」
「はい!樹さんはずっと健康でいてください!」
「アッ、ハイ。アリガトウゴザイマス……」
クレアの物言いはストレートだから偶にドキリとするな……。
誠意はあっても他意はないだけに、勘違い製造機になりそうで怖い。
俺は熱くなった頬を手で冷やしつつ、もう一体のお守りを渡すため、周囲を見渡した。
俺たちだけではなく、そこかしこでお守りの交換が行われている。
富田さんの講演の後では、渡す側も受け取る側も意識してしまうのだろう。
境内が甘酸っぱい青春オーラで一杯だ。
少し離れたおみくじ売り場に、お目当ての赤羽先生が立っていた。
気の抜けた様子で自分の手のひらをボーっと見つめている。
何かのおまじないなのか、親指を内側に巻き込む形でギュッと握った。
「赤羽先生」
「ん?」
「もしよかったら受け取ってください」
お守りを差し出すと、先生は驚いた様子で目を瞬いた。
「君から貰えるとは意外だな」
「そうですかね? まぁ、色々とお世話になっていますから」
高校では珍しい浪人生のため、先生は入学当初からさりげなく気を回してくれていたし。
「先日教えてもらった参考書も分かりやすかったです」
「そうか。役に立てたなら良かったよ。……フフッ、『健康祈願』か。淡白なフリして中々積極的なアプローチじゃないか」
「気に入っていただけたなら、ぜひ数学の成績には色を付けてください」
「OK。その代わり君の内申点は、乙女心を弄んだ罰で引き下げておくよ」
そんな殺生な……。
「先生は既にたくさん貰っているじゃないですか」
開いたバッグの口からは、色とりどりのお守りが見え隠れしている。
いっそ先生がお供え物をされる縁起物みたいだ。
「アハハ……。考えることはみんな似たり寄ったりだな。三体も作れると一体は余るらしい。福があると信じて、ありがたく貰っているけどね。ただ、こんなにたくさんあって、恋愛関係のお守りが無いのはなぜだろう? 折角だし一つくらいは欲しくなってきたよ」
「みんな赤羽先生には不要だと思っているんじゃないですかね?」
偏見かもしれないが、異性関係で不自由している光景が思い浮かばない。
「つか、センセーは彼氏いるじゃん。前に駅で見かけたぜ?」
「「えぇ!?」」
更科がさらっと爆弾を投下し、周囲の女性陣が色めき立つ。
咄嗟のことに赤羽先生も取り繕う余裕がなかったようで、引き攣った顔で視線を逸らした。
「あー……、見られていたか」
「先生も身に覚えがあるってことはホントなんだ!ねぇ!先生の彼氏ってどんな人だった?」
「お、おぅ」
目を輝かせる女子たちに詰め寄られ、さすがの更科も気圧されている。
「確か、百九十はありそうな長身にガタイも良くて、短髪に垂れ気味の目が印象的だったな。あと、なんだっけ、あれ――」
更科はこめかみを押しながら、「シュウマイ? いや、チンジャオロース?」と謎に料理名を呟いた。
「突然中華料理が食べたくなったのか?」
「違ぇよ!……思い出せねぇからいいや。とにかくスゲー顔が良い男だったぞ」
「いいなぁ! 先生、そんなワイルドなイケメンとどこで知り合ったんです!?」
「ハハハ……、勘弁してくれ」
赤羽先生もプライベートを知られるのは気まずいらしい。
苦笑いしながら、口の前でバツを作った。
「彼氏持ちのくせに、恋愛のお守りが欲しいだなんてバチが当たんぞ」
「サッシ―は分かってないなー。その彼氏さんと上手くいくことを願ってお守りが欲しいって意味に決まってるじゃん!」
「……成る程。そういうもんか」
人生の教訓を学んだかのように真顔で頷く更科が面白い。
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