07 ■ ダンジョン授業 ■
今日は午前から午後までぶっ通しで、2クラス合同ダンジョン探索授業だ。
ちなみに選択授業だ。
学院が授業の為に買い取って所有している探検されつくしたダンジョンに行く。
なので、ダンジョンと言っても、割りと安全性は高い。
この世界のダンジョンにはいくつか定義というか種類があるのだけれど、このダンジョンは、主(ボス)がいるタイプだ。
主(ボス)が作り上げていて、主(ボス)が倒されていなくなると崩壊して消えるダンジョン。
また、ダンジョンの中にも稀に異界のゲートが突如出現することもあるので、ダンジョン=異界でもないらしい。
よって、このダンジョンは主が倒されていないから継続している。
主が封印状態にされて、見学できるようにもしてある。
危険なようにも感じるが、もう封印されてから何十年も経っている。
たまに封印管理されてもいるし、それで問題は起こってないらしい。
したがって確率的に言って安全。
このように、主(ボス)を封印できた場合、安全管理ができる機関にならば、ダンジョンは販売される事がある。
たいていは討伐されるから、めったにないけれど。
人間は売れるとなるとなんでも売買しちゃう生き物なんだね。
さて、主(ボス)は封印状態にあれど、主(ボス)は生きている、となると魔物は湧く。
それは倒しながら行かないといけない。
それがこの授業の醍醐味の一つではある。
私は苦手だけど。
戦闘が得意な生徒にとっては腕の見せ所だったり、良い点数が取れるチャンスだったりする。
「3人組つくってー」
私は補助系枠だから、どこか入れそうなパーティがあったら入れてもらおう。……と思ったら。
「部員。行くぞ」
ヴァレン部長が傍に来た。
「おお部長。パーティ入れてくれるの? 助かるよ。 ……あれ? 部長は学院支給の装備じゃないんだね」
「我が家は冒険者ギルドに登録させられて冒険者業もやらされる。ダンジョンは自分の装備が一番落ち着くからな」
「自分の装備が揃うほどダンジョン行ってるの?」
「行ってる、というか行かされるというか……。錬金術の素材を自分で取りに行く場合もあるからな」
そしてそこへ。
「僕も混ぜて」
エリアル王太子殿下が加わった。
嘘でしょ……。
「断る」
殿下の申し出を断らないで!?
「ありがとう。助かるよ」
断られてるのに承諾されたことにして無理矢理入った!?
「ちっ。空気に徹するなら許してやる」
殿下に対して舌打ち!? 空気!? ほんと何言ってるの!? やめて!?
私がガクガクブルブルして青い顔をしていたところ。
「大丈夫か、アイリス。怖いのか。大丈夫だ癒し系のオレが横にいる」
部長に手を繋がれる。違う、違う、そうじゃない。
「ヴァレン、怖いから僕とも手を繫いでくれ」
殿下……っ! どうしてそんなにヴァレン君が大好きなんですね!?
「嘘をつけ、気持ち悪い失せろ」
だから、殿下に対しての口の利き方ー!
罵倒されている割には楽しそうにパーティに収まるエリアル殿下に、機嫌の悪そうな顔をしつつも追い出しはしないヴァレン君。
殿下いはく、ヴァレン君のお父さんのブラウニーさんと国王様が懇意にしていて、王宮に呼ばれたり、ヒースにお忍びでくることがあるらしく、その時に同じ年頃だということで子供を連れてこられて子供同士も仲良くなったらしい。
なるほど、小さい頃から仲良しなんですね。
なんとなく関係性がわかってきたようなわからないような。
※※※
ダンジョンは中央に大きな吹き抜けがあり、その周りを囲むような岩壁に螺旋階段が設置されている。
前のパーティとは間隔を空けて、その螺旋階段を降りていく。
来るの初めてじゃないし、手すりもついてるけど、やっぱ怖いなぁ……と思いつつも怖いもの見たさで覗き込んだら、手すりがぐらついた。
「わ」
「お前、なんでこの授業選択してんた。危なっかしい」
私の片方の手を握ったままだったヴァレン君に引き戻される。
されるがままに手を繫いでたけど、役にたった……。なんか悔しいな!?
「ありがとう……。んー。いやその。この吹き抜けの最下層にある桃干潟に行ってみたくて……この授業の最後のほうで行けるらしいじゃない?」
「ああ、桃干潟。たしかに見た目は綺麗だから資料などでみたら惹かれるかもしれないね」
エリアル殿下が答えてくださった。
「そうなんですよ。授業とかでもなきゃ、私は多分、一生お目にかかれないかと思って……」
通称桃干潟。
すこし独特の匂いがする、乳白色と桃色の泥が入り混じったパステル色の泥が広がる干潟。
そんな可愛らしい色の泥があるのかと、図鑑で見た時、実際一度、この目で見てみたいと思ったのだ。
しかし、その為には何回かあるダンジョン探索授業に参加しなくてはならない。
両親には黙っている。絶対反対されるからだ。
私はグラついた手すりを土魔法で補強して修理した。
戦闘はからきし駄目なので、こういうことで授業点数を稼ぐ。
古いダンジョンなので、老朽化しているところもある。
業者もたまに入って手入れするけれど、土属性魔法の生徒が大体それを授業で補強する役割を担う。
それが戦闘できない子にとっては、点数になったりもするからね。
それにしても、ものすごく楽なパーティに入れてもらえてしまった。
「最近昼休みいないじゃないか、ヴァレン」
「オレは忙しい」
雑談しながら、この人たち。魔物を片手間に倒している。
ヴァレン君は、魔力を小さい球にして飛ばしたりして魔物を倒している。
「消える魔球」
自分が放った魔力球を指さして、真顔で説明してきた!
たしかに魔力だから使用したら消えるけれども!!
「なんかそれ、違う!!」
殿下は光の剣のようなものを数本、常にフヨフヨと浮かせて……それ、自動ですかね?、魔物が来たら、その剣が多分自動で叩き落としている……。なんてチート。
しかし、 ヴァレン君の魔球発言を受けた殿下が。
「1本打法」
「えっ」
剣の数減らした!! 殿下ー!?
あなた達何やってるんですか!? 男子ぃ!!
公園で遊んでるお子様ですか!? あなた達は!!
魔物を気にしないでいいぶん、他のことで疲れる。
それにしても魔物大きいし、正直グロい……。
土いじりやら庭で虫には慣れてるほうだけど、それでも人間サイズとか勘弁してもらいたい。
このダンジョンにいる魔物で一番多いのは、『デーモンフライ』と呼ばれてるこの魔物で、トンボとハチを足して2で割った感じの見た目をしている。
実は桃干潟にも魔物ではないけど特殊に進化した食虫植物の『フライトラップ』がいる。
デーモンフライの天敵だ。
食虫植物はデーモンフライを食らう。
デーモンフライは桃干潟にいる泥だらけの魚をたまに狙いにいくらしくそこで運が悪いと食虫植物に捕まる食物連鎖になってるらしい。
「そういえば君はヴァレンと仲がいいのかい? ……えっとアイリス=ジェード伯爵令嬢だったよね」
「あ……はい。えっと部活で」
「同じ部活だから、仲良くて当然だ」
「えっ」
ヴァレン君に、会話を奪われ肩を組まれた。
「えっ……そうなのかな? まあ、仲は悪くな」
「仲良しだ(強調)」
「あー……うん、そうかも(負けた)」
さては、ロイヤルズを祓う呪術師に私を仕立てようとしているな……。
そんな仕事は請け負った覚えはないんだけど!
「部活? ヴァレン部活入ったのかい? 僕も入れてくれよ」
「駄目だ、もういっぱいだ。だいたいお前生徒会あるだろ」
二人しかいないよ!? スカスカだよ!?
「アイリス君、入ってもいいかな?」
「おい、無視すんな」
「あ……それは構いませんけど。園芸部なんですけど大丈夫ですか?」
「部長はオレだ! オレが決める。絶対だめだ」
「え、ええー……」
「…………」
殿下が無言になって、ヴァレン君と私を交互に見た。
なんだろう。
「あー……なるほど。そうか、うん。わかったよ、ヴァレン」
なんか生温かい笑顔だ!? どうされたの!?
そしてそれ以降、殿下は入部したいとは言わなかった。
その後の授業は、ダンジョン内の大きな洞穴を利用した魔物の展示室の見学をして終了となった。
レプリカだらけではあったけど、あまり見るのに気持ちいいものじゃなかった。
冒険者の人は大変だね。こんなの相手にしなきゃいけないんだ……。
桃干潟に釣られてこの授業とっちゃったけど……正直メンタル的にきつい。
それはそうと、ヴァレン君と殿下って本当仲良いんだなぁ、と感じた。
言葉も態度も悪いけれど、ヴァレン君が殿下を見る目は本当にめんどくさがってる感じではなかった。
実は、好ましく思ってるんだろうな。
そして殿下もヴァレン君のその態度を難なく受け入れてる感じがする。
そういう友達がいるって、なんだかうらやましいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます