クリスマスにサンタはいない

 僕は彼女の首を絞めた。

 きゅうという音が鳴り、彼女はこと切れた。

 ぶらぶらりと彼女の手が揺れている。

 

 ***

 

 **

 

 *

 

 きっかけは、彼女だった。

「別れよう」

 ディナーの最中、唐突に彼女が言った。

「え? なんで……」

「私、もう、嫌なの。あなたはいつも忙しいし、一緒に過ごしたいクリスマスも、仕事でいないじゃない」

 彼女の顔は険しくなっていた。

「そんな、だって、しょうがないじゃないか。仕事なんだから」

「あなたは、いつだって、そう!」

 彼女はテーブルを叩き、立ち上がった。サラダが入ったボウルが跳ねた。

 椅子にかかっていたコートを羽織り、彼女は身支度をしていた。

「待って」

「帰る! 別れる!」

 部屋を出て行こうとする彼女を必死に引き留める。

「話を聞いてくれ」

「嫌よ! 何度も修復しようとして、無理だったじゃない」

「いいから、聞いてくれ」

 僕は腕を掴んだ。

「痛い!」

 彼女は叫んだ。

「何するのよ。離して」

 腕を振りほどいたので、彼女の手の爪が、僕の顔に当たった。出血した。

「どうしてくれるんだよ。顔は商売道具なのに」

 僕は非難した。

「そんなにも顔が大事なら、美人な有名女優とでも、付き合えばいいじゃない? 会う機会もあるでしょう?」

 彼女は冷たく言い放った。

「僕には、君しかいないんだ」

「嘘よ! 大事にしてくれていない!」

 彼女は僕の脛を蹴り、出て行こうと玄関のドアに手をかけた。

「待ってくれ」

 僕は再度、腕を掴んだ。

「嫌よ!」

「話を聞いてくれ」

 僕の両手は彼女の首にあった。


 *


 **


 ***


 ぶらんぶらんと彼女の手が揺れている。

 彼女はもう、呼吸をしていない。


 僕は、こんな状況にも関わらず、仕事の心配をした。

 ただでさえ人員が足りないのに、僕が行けなくなると、誰が穴埋めできるのだろうか。


 スマートフォンが鳴った。

 上司からだ。


「もしもし」と僕。

 あはは。

「仕事の件だけど、クリスマスは、本当に大丈夫か?」

 あはははは。

「はい……」と僕。

 あはははひゃはははひゃ。

「どうした? 元気がないぞ」

 あははははひゃひゃはははは。

「すみません」と僕。

 あっはっははははははは。

「頼むよ。なんていったって、君は、

 なんだからな」

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