第21話 未来の荷物到着と搬入1

 来客を知らせるチャイムが鳴ったのでドアホンに向かおうとしたのだが、未来が乗ってるから立ち上がることが出来ない俺。


「あの~、未来さん?

 来客が来たようだからドアホンに向かいたいんだよね。

 ……だから降りてくれると非常に有難いんだけど」


「……私を抱っこして立ち上がれば良いと思わない?

 そしたら私が降りる必要がないし葵に抱きついていられるから」


 呆気からんとした表情でそう言ってのける未来。


(そんなに俺に引っ付いていたいのかよ…)


 なんて言いたかったが来客を待たせるわけには行かないと思い、未来を抱っこしたままソファーから立ち上がる。


「……葵のが私の敏感なとこに当たってる♡」


 ……やっぱ降ろしてやろうかと思ってしまう俺。

 つうかさぁ、いい加減にショーツを履いて欲しいんだよねぇ…。

 乾燥機付き洗濯機に放り込んどいたから、もう乾いてるはずだから。


 そう思いながらドアホンに近付き、通話ボタンを押す。


「503号室の牧野です」


『お疲れ様です牧野様。

 牧野様に引越し業者の方々が見えられてますが、このままご案内しても大丈夫でしょうか?』


 未来を抱っこしたまま応対してるというのに、そう聞いてくる女性コンシェルジュの秋山あきやまさんは全く動じていない様子だ。


「はい、お願いします秋山さん」


『かしこまりました。

 では今から牧野様の家に向かいますが、その前にに一言だけ。

 今抱っこされてる未来様とのご婚約、誠におめでとうございます。

 牧野グループの社員の一員としてお祝い申し上げます』


 そう俺にドアホン越しに頭を下げながら祝いの言葉を述べる秋山さん。

 自身が言ったように彼女は牧野グループ本社内にある秘書課に勤務する社員さんだ。

 それと同時に父である会長から直々に指名された俺の秘書でもある。

 どうしてそうなってるかについては、何れまた説明したいと思う。


 そんな秋山さんの容姿は肩までの長さの茶髪をポニーテールで纏めており、身長が150cmと小柄な上に童顔のせいで見た目が幼く見えがち。

 だけど顔立ちは整ってる美女で、テーラードジャケットとフレアスカート(上下共に灰色)をビシッと着こなしている。

 そして出るとこはしっかりと出ており、綺麗に着飾ってる為に異性からとてもモテているらしい。

 本人的には恋愛に全く興味がない(胸ばかり見てくる男性全般が嫌い)らしく、仕事に人生を捧げると言っていたね。

 あ、年齢は24歳って本人から聞いてるよ。


「お祝いありがとうございます!」


『お礼を言われるほどではありませんよ。

 では今からお伺いいたします』


 その言葉を最後に通話は終了した。

 画面が暗くなったのを確認した俺は未来を見て言う。


「今からコンシェルジュの秋山さんが未来の荷物を運んできた業者さんを伴って家に来るから……下を履いといてくれよ?

 もうとっくに乾いてるはずだから」


「……分かったわ。

 葵以外に見られたくないから履いてくるわね」


 俺の注意?に渋々と言った感じでそう返事した後、俺から降りてから未来は洗面所へ向かっていった。



 それから少しして玄関のチャイムが鳴ったので、下を履いてから戻ってきた未来を伴って玄関へと向かい、ドアを開けた。


「こんにちは葵様、未来様。

 未来様宛のお荷物を運んできた引越し業者をお連れ致しました」


「案内ありがとう、秋山さん」


「いえいえ、これが私の仕事ですのでお礼は不要に御座います」


 ここまでやり取りしたとこで未来に秋山さんのことを紹介してないことに気付く俺。

 画面越しにしか見てないせいか、この女性は誰なの?って感じで秋山さんを見てから俺に視線を向けてくる未来。

 それに気付いた秋山さんが未来の方を見て一礼してから口を開く。


「これは私としたことが失礼致しました。

 水無月 未来様、初めまして。

 私は牧野グループ本社の秘書課に勤務している秋山 美雪みゆきと申します。

 葵様のお父様……会長直々の命により、このフロンティアでコンシェルジュを勤める傍らで葵様の秘書もしております。

 以後、お見知り置きくださいませ」


 そう自己紹介してから再び未来に一礼する秋山さん。

 それに対し未来も秋山さんに一礼してから口を開く。


「こちらこそ初めまして秋山さん。

 既にご存知だと思いますが、隣にいる牧野 葵の婚約者になった水無月 未来と申します。

 以後、お見知り置き頂けたらと思います」


 そう言って一礼する未来。

 その様子を傍で見ていた俺は、未来が秋山さんに対して牽制したのだと感じた。

 だけど牽制する必要なんてないんだよねぇ。

 だって秋山さんは───


「え~と、未来様?

 そんなに牽制しなくとも葵様を未来様から取る気はありません。

 だって私、既に結婚していて2児の母親となってますので。

 だから何の心配もする必要はありません」


 今言ったように彼女は既婚者であり、可愛らしい双子の姉妹を育てる立派な母親でもある。

 だから未来の秋山さんに対する牽制は……ハッキリ言って無意味である。


「た、大変失礼致しました!」


 自分の牽制が意味をなさなかったことに顔を真っ赤に染める未来。

 それでも失礼をしたことには変わりない、ということで秋山さんに素直に頭を下げて謝った未来。


「自己紹介から牽制されるとは思わなかったですが、気にしてませんので謝らなくとも大丈夫です。

 それよりも引越し業者の方をあまり待たせるのもなんですので、そろそろ搬入作業を始めても大丈夫でしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ」


「分かりました。

 ではお願いします」


「了解しました!

 それでは搬入作業を始めさせていただきます。

 よし、行くぞ!」


「「「はいっ!!」」」


 このやり取りを経て未来宛に到着した荷物の搬入作業が開始されるのだった。


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