第17話 それを今言うのだけは止めてくれ!!

 この話の内容は【未来の荷物が到着するまで爆買い無双する葵2】の終わりの話になります。


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 未来にこのダイヤモンドを使って作成した婚約指輪を贈りたい…。

 その思いで姉さんが台座に被せられていた布を取ってダイヤモンドが姿を現した段階でスマホを操作し、電話を掛け始める俺。

 その間にダイヤモンドの値段が発表され、隣にいる未来が「ダイヤモンドって、こんなに値段がしたのね…」って驚愕した表情で呟きつつも画面に映るダイヤモンドを見つめていた。

 それを横目で見てからスマホを耳に当て続けながら視線をテレビ画面に戻す。

 すると番組スタッフらしき女性が固定電話を片手に姉さんに近付き、一言二言話してから持っていた固定電話を姉さんに手渡す。

 その固定電話を女性スタッフから手渡された姉さんが応答ボタンを押してから左耳に当てる。

 その動きと連動するかのように俺が耳に当てていたスマホから聞こえていた呼び出し音がしなくなった。


『こんにちは! そして初めまして!

 当番組MCの牧野 綾香と申します!』


 姉さんの声がスマホとテレビから同時に聞こえてきた。


「こちらこそ初めまして。

 何時もテレビで拝見してますが……まさか生の声を電話で直接聞けるとは思ってなかったですね」


 今俺が言ったことがそのままテレビから聞こえてくる。

 生放送中だから当たり前の話なんだけどね。


『それは嬉しい言葉ですね!

 吃驚されているようで、サプライズした甲斐がありました♪

 最初にお電話して頂いた方と私が直接会話することになってましたので♪

 と言うことで私が今話してる貴方がダイヤモンドを購入する権利を獲得しました!

 おめでとうございます!』


 サプライズ、と言われても俺的には複雑な思いだ。

 だってよく顔を合わせて直接会話するし、家族なのだから。


「ははっ、確かに吃驚しましたね。

 それに私が最初に電話を掛けた人だったことにも吃驚していて、夢を見ているんじゃないかと思っていますね」


 姉さんには今話している相手の俺が弟だということには声で気付いてるだろうけど、敢えて初めて話す風を装ってそう言った。

 流石に生放送中に女優と今話してる相手が弟だとバレるのは不味いだろうからね。


『夢ではなく現実ですよ~!

 夢だと思ってしまうのも無理はないかと思いますが、これは紛れもなく現実です!

 だから初めて風を装わなくてもいいからね、弟君♪』


 思わず声に出して叫びそうになり、慌てて口を抑える俺。

 気を使った俺の思いを一瞬にして無に返しやがりましたよこの超大バカの愚姉は!

 あ~あ……どっかの馬鹿な姉の発言で未来が驚愕した表情で俺を見てるじゃないか!


「…はい? 弟君って誰のことでしょうか?

 私に女優の姉は居ませんが?」


 あくまでもシラを切る俺。

 その俺の言ったことに対して疑いの目を向けてくる未来。


『……あくまでもシラを切るつもりですか。

 それならば私にも考えがあります!』


 ……一体このバカは生放送中に何をするつもりだ?

 嫌な予感が頭をよぎる。


『あれは当時の私が高2で弟君が中3の時の話になります。


 その日は休日で弟君が何処かに出掛けてるのを見計らい、私は弟君の部屋に侵入しました。

 あ、私は超が付くほどのブラコンなので!』


 何をサラッとダウトなことを言ってんだこの姉は?

 生放送中だってこと、理解してますか~?


『すると入って直ぐの所にある机の上に怪しげなノートが置いてあるのを見つけた私。

 弟君のことを何でも知りたい私は迷うことなく机に近付き、置かれていたノートを開きました』


 おい…それってまさか……あのノートのことじゃないよな?

 ラノベに憧れて書いていた小説の下書きノートのことじゃないよな?


『そして中身を見て私は、プッと吹き出してしまいました!』


 おいコラ愚姉……次に会ったら覚悟しとけよっ!

 マジでガチの説教地獄してやるからなっ!


『何せそのノートに書かれていたのは……今放送中の大人気──』


「ちょっと待とうか姉さん!!

 私…いや、俺が牧野 綾香の弟で今現在通話中の相手だって認めるから!

 だからそれを今言うのだけは止めてくれ!!」


 そこまで言いかけた姉さんを俺は全力で止めに入った。

 流石に今それをバラされるのは非常に不味い……色んな意味で。

 俺が女優の牧野 綾香の実の弟だと言う事実よりも不味いことだからな。


『ふふんっ♪ 私の勝ちね♪』


 不敵にニヤッとした顔でそう言う姉さん。

 くっそ~!あの勝ち誇った顔が憎たらしいっ!

 憎たらしいけど、姉さんがバラそうとしたことに比べたら些細なことである。

 姉さんがバラそうとしたことに関しては、機会があれば語ろうと思う。

 ……そう遠くない内に機会がありそうな気もしなくもないがな。


『という訳で今通話してる相手の正体は、なんと私の実の弟君なのでした!

 皆さんは驚いてる所ですかね? 私に弟がいるって言う事実に。

 ですがこれは嘘偽りなく本当のことです! 事実です!


 さて、私に弟が居ることがバレた所で……コチラの台座の上に置いてある0.5カラットのダイヤモンドは購入しますか? それとも購入を見送りますか?

 購入権は未だに弟君にありますよ?』


 色々とツッコミたいし言いたいことは山ほどある。

 だけどそれは後からでも直接言えば済む話だ。

 だから今は姉さんの問にどう返答するかを考える必要があった。

 ま、考えるまでもなく答えは既に決まっている。

 なので俺は勿論、こう姉さんに答える。


「はい、購入します。

 どうしてもこのダイヤモンドを使って作成した物を贈りたい相手がいるので」


 そう……他でもない未来の為にも購入する以外の選択肢など初めから俺にはなかったから。


『お買い上げありがとうございます!


 無事に購入が決まった所で、そろそろお別れの時間となりました。

 果たして弟君が誰の為にこのダイヤモンドを購入したのかが気になるところですが……それを聞くのは野暮というものですね。

 ですので私は…と言うよりも1人の女性としても聞くつもりはありません。

 今ご覧になられている視聴者の皆様も余計な詮索・あることないことをSNS上で呟いたり拡散したりすることは絶対にしないよう、重ねてお願い致します。

 それではまた次回のこの時間にお会いしましょう!

 ばいば~い♪』


 そう姉さんが締めくくり、番組は終了した。

 それを見届けた俺はダイヤモンドを無事に購入出来た事にホッとし、肩の力を抜いてソファーに体を預ける。

 だけどそれも束の間、俺の太ももの上に移動してきて俺を見てくる未来。

 その目には洗いざらい説明して、と言う強い意志が込められているような気がした。

 そんな未来にどっから説明をしたもんか……と、頭を悩ます俺。

 その時、来客を知らせるチャイム音が部屋の中に響き渡るのだった。


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