第8話 未来と夕飯……のはずが

「………………」

「………………」


 き、気まずい……。

 父さんとの通話以降、互いに何の言葉を発することもない状態が30分もの間、続いている。

 時々互いの視線が交わっては逸らす、なんてのも続いている。

 こうなってるのも全て父さんが言った爆弾発言のせいだ!

 主に水無月家の母方の血筋だとかと言う言葉のせいでな!

 俺と未来は思春期真っ只中なんだから、もう少し言葉はオブラートに包んで欲しかったぜ……全く!

 この気まずい空気をどうにかしたいと思い、太ももに座り続けている未来に声を掛ける。


「と、取り敢えず夕飯を作らないか?」


「………………」


 俺がそう聞くと未来が俺を見る。

 だが言葉を発することもなく頷きさえもなく、無言。

 顔だけは相変わらず朱に染まってる。


「……降りてくれないと夕飯、作れないよ?」


「………嫌」


 速攻で未来に拒否されてしまった。

 これでは何時まで経っても飯を作ることも出来ない。

 これは弱ったなぁ……って思っていると、未来が呟く。


「ねぇ葵……私ね、実は料理下手なのよ」


「……はい? 料理、下手?」


「うん……お母さんからキッチンに立つことを禁止されているくらいのね」


 未来からまさかのカミングアウトを告げられる俺。

 彼女は一体、どんなダークマター(※葵が想像した料理イメージ)を作ったというのだろうか。


「……まぁ、人には苦手の1つや2つはあるって言うしな!

 だから未来が料理下手でも俺は気にしないよ?

 これから一緒に料理していけば、きっと上達出来るさ!」


 そう励ますと、未来は「本当に?」と言いたげな表情で俺を見てくる。


「葵がそう言うなら……一緒に料理するわ!

 上達して葵に私の手料理を食べてもらいたいから!」


「一緒に頑張ろうな、未来」


「ええ!」


 俺の励ましにやる気を出した未来が太ももから降りる。

 その足でキッチン前に進んだ所で振り返って俺を見る未来。


「葵も早く来て!

 料理、私に教えてくれるんでしょ?」


 そう言って可愛い仕草で手招きする未来に苦笑しながら俺もソファーから立ち上がり、キッチンへと向かった。



◇◆◇◆◇



 それから30分後。キッチンカウンターの上には、見栄えは悪いが出来上がった料理が並んでいた。

 作った料理の内容は、肉じゃが・鮭のバター焼き・カブの味噌汁の3品。

 俺の指示の元、未来が頑張って調理した料理達だ。


「未来、よく頑張ったな」


 頭を撫でながら未来の頑張りを労う俺。


「えへへ♪ これも全て葵の指示が良かったからよ」


 俺に褒められながら頭を撫でられた未来はご満悦の様子。

 それがまた可愛かったけど。


「よし、冷めない内に料理をテーブルに運んでしまおうか」


「分かったわ♪」


 未来と手分けして出来たての料理が盛られた皿をテーブルへと運んでいく。

 それと並行して俺は炊飯器で炊いた米を茶碗に2人分盛り、料理と同じくテーブルへと運んだ。

 無論、2人分の箸も忘れずに食器棚から出してテーブルに持っていった。

 それから2人仲良く並んでテーブル前に座る。

 椅子はないから床の上に敷いた座布団に座った形だけど。


「よし、食べよう。 いただきます!」

「いただきます!」


 俺が最初に手をつけたのは味噌汁。

 ズズっと一口飲んで頷く。

 俺が何て言うか心配げに未来が見ていたからだ。


「美味しいよ、未来が作った味噌汁」


「はぁ~。 葵にそう言って貰えて、ようやく安心出来たわ」


 俺の感想に安堵の溜め息を吐きながら未来は言った。


「心配する気持ちは分かるが、自分でも味を確かめないとな?」


「それもそうね。

 ……本当に私自身の手で作ったのか疑わしいくらい、美味しい♪」


 一口飲んでからそう言う未来。


「はは、それだけ未来が頑張ったってことだよ。

 回数をこなしていけば、おのずと成果がついてくるさ。

 ま、こう言ってる俺も最初は全く料理を作ることも出来てなかったんだけどな。


 初めて料理を作り始めたのは小学5年の頃だった。

 本当にあの時は失敗の連続だったのを今でもよく覚えている。

 包丁を持てば野菜をまな板ごとぶった切る、なんてベタなことも俺はやらかしてたから。

 ま、その度に母さんに鉄拳制裁されてたんだけどなw」


「葵も初めはそうだったのね。

 ……って、小学5年の頃から!?」


「ああ、母さんの教育方針でな。

 『今は男でも料理をする時代……だから葵も出来るようにならないとね♪ 料理男子はモテるわよ?』何て言ってな。

 ま、モテた所で俺が自由恋愛出来ない立場にあることを、母さんは後になって思い出してアタフタしてたけどw」


「ふふっ、葵のお義母様は抜けてるところがあるのね」


「確かにその通りだ。

 だけど俺は感謝してるんだ、母さんにね。

 今こうして料理が苦手な恋人に教えれるくらいに上達したんだから」


「そうね。 そのお陰で料理下手な私でもこんなに美味しい食事を作ることが出来た。

 だから葵、これからも手取り足取り私に教えてね?」


「おう、任せとけ」


 ドンッと胸を叩いて俺は未来にそう言った。


「さて、話に夢中になってると折角の未来の手料理が冷めてしまうから、その前に食べないとな!」


「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるのね♪

 それじゃあ葵…はい、あーん♡」


 俺の褒め言葉にニコリと笑った未来は肉じゃがに入ってる人参を箸で摘み、それを俺の口元に寄せてくる。


「あ、あーん…」


「どう? 美味しい?」


「ああ、美味いよ。 未来が食べさせてくれたから尚更にな」


「そんなこと言われると……キスしたくなっちゃうわ♡」


「そ、それは後でいいんじゃないかな…」


「嫌よ♪ だから葵……んっ♡」


「ま、待てみら……んーーーっ?!!」


 俺の静止を無視して未来がキスをしてくる。

 だがそれだけに留まらずに……何と未来は俺の口の中に自らの舌を侵入させてきた。

 俗に言う大人のキスを……俺は未来にされてる。


「ん……ちゅ、ふあ……ん、ぁ、ちゅ……はぷっ、ん、ふぅ……ちゅりゅ……ちゅ、りゅむ……♡」


 俺の首に腕を回しながら激しく舌を動かしながらディープキスに夢中の未来。


(このままでは俺の理性が……)


 そう葛藤しながら未来に蹂躙され続けること約10分。

 ハッとして我に返った未来は慌てて俺から顔を離す。


「ご、ごめんなさい……」


「い、いや……」


 そのやり取り後、すっかり冷めてしまった料理を急いで食べ進める俺と未来。

 さっきの行為で火照ってしまっていることを誤魔化すが如く……。


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