第7話
「ミーニャの修行に私が手伝う?なら、私の修行もミーニャに手伝ってほしいわ。どうしたら私が作ったお菓子を食べても体調を崩さなくなるのか薬師の見解で教えてほしいわ。」
ニルヴァーナさんの提案はサーシャさんに快諾されたようだ。というか、サーシャさんが何故だかとても乗り気だ。
かく言う私は少し尻込みをしている。
だって、サーシャさんに私の薬の実験台になれと言っているのと同じなのだから。まあ、その代わり私がサーシャさんのお菓子の実験台になるってことみたいだけど。
……ん?ちょっと待って。
これってもしかして、ニルヴァーナさんが私をサーシャさんに押し付けようとしているってことじゃあ。
「サーシャちゃんが良いなら決まりだね。二人で一人前になれるように共同研究をするといいよ。」
私の返事も聞かずにニルヴァーナさんとサーシャさんは話しをどんどんと進めて行く。
「えっ!?ちょっ……えっ??ニルヴァーナさんっ?サーシャさんっ!?」
「あ、私のことは呼び捨てで良いわよ。美人な子に呼び捨てで呼んでもらえるなんて光栄だわ。うふふ。ミーニャと一緒に研究できるの楽しみだわぁ。」
状況についていけない私に、サーシャさん……サーシャはにっこり笑いながら抱きついてきた。
ふわっとサーシャさんの臭いが私の鼻にまとわりつき……、
「クサッ!!」
思わず鼻をつまんでサーシャから離れた。
消臭剤では取り切れなかった美容液の臭いがまだサーシャにしつこくまとわりついているようだ。
「ちょっ!!失礼ね!ミーニャが作った美容液の臭いよ!!もうっ!もっと臭いを嗅がせてあげるわっ!」
「えっ!?ちょっ……やめっ!!」
サーシャが、私にぎゅっと抱きついてくる。
サーシャの発育の遅い胸が私にぎゅっと押し付けられる。
サーシャから臭ってくる美容液のなんとも言えない臭い。いくら慣れた臭いだからと言って私だって臭くないわけではない。
サーシャから離れようともがくが、もがけばもがくほどサーシャがひっついてくる。
そして私の胸元に顔をぐりぐりと押し付けてくる。まるで臭いを私に擦り付けるように。
「やぁっ……ちょっと……ダメぇ……。」
サーシャに触られた部分がくすぐったくて仕方がない。
なんだかちょっとだけ変な気分になってしまう。
臭いのに……。
「あぁ……ミーニャの声とってもいい。」
「ちょっとぉ……ダメだってばぁ……。」
なんかサーシャ変なスイッチ入ってない?
身体をくねらせながら、サーシャの手から逃れようとするが、サーシャってば意外と力強くて逃げることができない。
「……やめんかいっ!!」
「サーシャちゃん……それ以上は可愛そうだからやめてあげてくれんかのぉ……。」
「いたぁっ……。」
ニルヴァーナさんとガマ爺からサーシャに待ったがかかる。それと同時にニルヴァーナさんがどこからともなく取り出したでっかいハリセンでサーシャを叩いた。
っていうか、なんでハリセン?
どこから取り出したのだろうか、と気になることはいっぱいある。
「戯れるのは二人だけのときにしとくれっ!」
「そうじゃ。サーシャちゃんもミーニャちゃんも可愛いからのぉ。見ている方は目の保養に……じゃなかった、目の毒じゃからのぉ。」
ニルヴァーナさんは目を吊り上げながら私たちを……主にサーシャを見ている。ガマ爺は私たちのことを生ぬるい目で見ていた。
ニルヴァーナさんに叩かれたことで、サーシャは叩かれた頭をさすりながら私の身体をしぶしぶと放した。
「……ふにゃぁ~。」
サーシャから解放された私は腰が抜けたかのようにその場に座り込んでしまう。
なんか開けちゃいけない扉を開けかけてしまったような妙な感覚だった。
「……ミーニャの腰が砕けとるわい。まったく、サーシャちゃんは限度をわきまえておくれ。」
「はぁ~い。」
ニルヴァーナさんに叱られたサーシャはまったく反省した姿は見せずにのんびりと返事をした。
こうして半ば強制的にサーシャと私の協力体制が作られたのであった。
サーシャは悪い人ではないのだけれども少々強引なところと、ことあるごとに私に触れてくるからちょっと身構えてしまう。
☆☆☆☆☆
「ミーニャ!今度こそどうかしら?けっこういけてると思うのよ。」
サーシャが出来立てほやほやのアツアツアップルパイを片手にやってきた。ウキウキとした表情をしている。
「味見したのかな?」
「まだよ。一緒に味見しましょう!」
私が問いかけるといけしゃあしゃあとサーシャは答える。
一人で味見するのが怖かったんだと思われる。
でも、私もサーシャに薬を作るのに協力してもらっているから何も言えない。
「……薬を用意してきます。」
私は作りかけの薬を放置して、解毒薬を取りに行く。
ニルヴァーナさんが最初にガマ爺さんに渡した薬は実は解毒薬だったのだ。つまり、サーシャの料理を食べた後に解毒薬をすぐ飲めば軽症ですむのだ。……たぶん。
正直、共同で修業を始めたがまだ何をどう協力していいのかわからなくて、お互いがそれぞれ作った薬やお菓子を味見したり臭いを嗅いだりしているだけだ。
あんまり共同作業という感じはしない。
「お待たせしました。」
私が薬を持って戻ってくるとサーシャが私の作りかけの薬を凝視していた。
まだ薬草をすりつぶしているところなので、特に変わり映えもないと思うけど。
「ああ、ミーニャお帰りー。ねぇ、これ何をしているの?」
サーシャが私に抱きつきながら薬研を指さす。
サーシャはスキンシップがとても多い。私に会うとすぐに抱きついてきてなかなか離れようとしない。
寂しがり屋なのだろうか。
「薬草をすりつぶしているんだ。薬を作るにはまず薬草とかの材料をすりつぶさないといけないからさぁ。これが結構大変なんだよね。」
「へぇー。なんだかちょっとお菓子作りと似ているわね。焼いたりするの?」
「焼いたりはしないよ。乾燥させたり、沸騰したお湯に入れたりはするかなぁ。その時作る薬によって違うんだ。」
「ふぅーん。面白いわね。ねえ、私の作ったアップルパイを食べ終わったらさ、ミーニャが薬を作るところを見せてくれない?どうしてあんなに味も臭いも見た目も悪くなっちゃうのか調べるには作ってるところを見た方が早いかなって。幸い、私の作るお菓子は体調を悪くするけど味や見た目や臭いには問題ないしさ。ちょっとはアドバイスできるんじゃないかなって。どうかな?」
「あ、それいいかも……。」
サーシャの提案は私にはとても魅力的に思えた。
確かにサーシャの作るお菓子はどれも毒だけど臭いや味はとってもいいから。もしかしたら、サーシャのアドバイスで皆に使ってもらえる薬ができるかもしれない。
「よし!じゃあ、まずはアップルパイを……。」
私たちはサーシャの作ったアップルパイを食べ、腹痛と吐き気に苦しめられた。その後、私の作った解毒薬を二人で飲んであまりの臭いにその場に倒れこむのだった。
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