二〇二三年一二月一〇日のGJ部 前編

 いつものファミレス。いつもの日曜。

「あー、いてて……」

 腫れたほっぺたを押さえながら、京夜はいつもの席についた。

「だいじょぶか? それ?」

 真央が心配してくれる。まだ腫れてる理由を話していないけど。あえて聞かずにいてくれる。

「ケンケンが〝妹さんをください〟なんて言いやがるので、一発殴らせろと言いました」

「あいついま人類最強クラスじゃね? よく殴りにいったなー」

「クロスカウンターもらいました」

「しかし、あの二人もようやくゴールインするのかー。紆余曲折あったよなー。三回? 四回? くっついたり離れたりしてたっけー」

「五回です。中学と高校と大学で一回ずつ。社会人になってから二回。……最近、ゼクシィ通り越してたまごクラブとか読んでるんですけど。僕。どうしたらいいんでしょう?」

「祝福してやれ」

 いつものウエイトレスのお姉さんがきて、いつものお子様ランチとハンバーグセットを頼む。

 お姉さんを見送る頃には、京夜も落ちつきを取りもどし、いつものまったりとした時間が流れるようになる。

「今日は玲央レオがいなくて……、二人だけだと、なんか新鮮な感じですね」

 娘の玲央が生まれてこの一年、ずっと三人だった。

 二人だけだと、なんか不思議な感じ。結婚前の恋人時代に戻った感じ……?

 という目を真央に向けてみるのだが、あちらはなぜか、腕組みをして重々しい感じ……?

「まだ一歳とはいえ、こんな話を聞かせるのはよくないだろうしな」

 ……ん?

 ん? ん? ん?

「おまえ。私に報告すること、あるだろ」

「え? なんですか? なんなんですか?」

「おまえが自分から言い出してくれるのを待っていたんだ。だがまさか、このまま隠し通せると思っていたとは……。情けない」

「え? え? え?」

「タマがおめでたになったよな。紫音のとこは、もうすぐ立っちする頃か。綺羅々んとこは、狼たちに預けてるみたいだが」

「あっ、あっ、あっ」

「それで全員、シングルマザーなんだよな。――なんてスゲェ偶然っ!」

「――すいません!」

 京夜はテーブルに額を打ち付けた。

 思い直して、地べたに飛ぶと、そこで土下座を決めた。

「いや。いや。怒ってはいないんだ」

 真央は言う。手をぱたぱたと振る。

「まあ仕方がなかったんだと思うぞ。――紫音には泣き落としされたんだよな。んで綺羅々は物理的にホールドされて、タマは酔い潰されて気づいたら朝ちゅんだったと。うんまあ仕方がないんじゃないか」

「ど……、どうしてそれを……?」

 なんでそんな詳細に知ってるのーっ!?

「私が許可を出したからだ」

「え? え? え?」

「とりあえず、席に戻れ。――な? みんな迷惑してるぞ?」

 真央に言われる。土下座をといて、席に戻る。

 ウエイトレスのお姉さんがお冷やを注ぎにきたー!

「私も悩んだよ? でもさー……、なんかあいつら? あのまんま、独身のままでいそうじゃん? なに? あいつらが初恋と片思いをこじらせたまま、お婆ちゃんになって、お一人様の老後を寂しく過ごしてゆくのに、私が一人だけ、子と孫にたくさん囲まれて幸せに暮らしているの? ありえねえダロ」

「いや……、まあ……、なんといいますか……」

「それに、すでにシェアしていたようなものじゃん。……日曜は私だケド。月曜と火曜と水曜と木曜と金曜と土曜は、それぞれ別なワケだし」

「えっ? それも知ってたんですね……。あはははは……」

 週一で顔を合わせ、ランチを一緒にとっていた。

 月火水木金土の順で、紫音さん、タマ、綺羅々、霞、恵ちゃん。あとなんでか、森さん――。

「知られていないと思っていたダンナが……、ほんと、情けない」

「すいません」

「そういうの、いいから。……ほんとなら、ここから離婚だのなんだのと込み入った話になるワケだが。そこいらへんの愁嘆場は、一切、すっ飛ばすぞ。そして結論を言う。沙汰を下す」

「は、はい」

 京夜は居住まいを正した。なにを言われても甘んじて受けるしかない。すべての責任は自分にある。

「増築すっぞ。うちの屋敷を。あと三部屋ほど」

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