清楚系幼馴染に私で童貞捨てたくせに...と言われた話。
犬よし
突然の一言
放課後、教室の窓際に座る
視界の先には、夏の匂いを運ぶ風に揺れる木々と、真っ青な空が広がっている。その景色を見ながら、一樹は不思議な感覚に囚われていた。心はどこか浮かない。周囲の騒がしい声も、彼には遠くから聞こえるような気がして、時間が遅れて流れているような感覚に包まれていた。
午後の授業が終わり、クラスメイトたちはぞろぞろと帰る準備を始めている。だが、一樹はその場から動こうとしない。体調は悪くない。むしろ元気だ。しかし、どうにも気分がすっきりしない。教科書を無造作に机の上に広げたまま、片付ける気力もなく、ただただ空を見上げている。
「何もしたくないな……」
一樹は小さく呟きながら、静かな時間を楽しんでいた。心のどこかで、この静けさがいつまで続くのか気になりながらも、それを壊すのが怖かった。
その時、教室のドアがきしむ音を立てて開かれた。振り向くことなく、一樹は視界の隅で誰かが入ってきたことに気づいた。足音が近づき、低い声が響いた。
「やっぱりここにいましたね。」
その声に、一樹は少し顔をしかめる。それは、慣れた声。幼馴染の
「……なんだ、海咲か。」
一樹は面倒くさそうに答えたが、心の中では少しだけホッとした自分がいた。海咲は長い付き合いで、どこか無理なく自分のそばにいるのだ。
教室に足を踏み入れた海咲は、黒髪を軽く揺らしながら、一樹の隣に立った。整った顔立ちに、少しだけ照れたような表情を浮かべている。その笑顔を見ると、まるで空気が一変したように感じる。まるで教室全体に新鮮な風が吹き込んだかのようだ。
「何しに来たんだよ。」
一樹は反射的に、いつものように問いかけた。海咲は少し顔をしかめ、肩をすくめながら言った。
「今日、一緒に帰りませんか?」
普段なら、こういった頼み事もすんなり受けるのだが、今日はなぜか違和感があった。海咲の言葉には、どこか照れくささが混じっているように聞こえる。その微妙なニュアンスに、何かを感じ取ってしまう自分がいるが、一樹はそれを深く考えないようにした。
「別に…。」
一樹は淡々と答えると、再び窓の外に目を向けた。だが、心の中で何かが引っかかっている。海咲がこうして甘えるような口調を使うのは珍しいことだ。
「そうですか…。」
海咲は少し寂しげな顔をしてから、しばらく黙っていた。時間が経つごとに、教室はさらに静かになり、二人の間に微妙な沈黙が流れた。その沈黙を打破するように、海咲が突然話し始めた。
「でもその前に、お願いがあるんです。」
一樹は思わず眉をひそめた。海咲が頼み事をしてくる時は、大抵面倒なことが多い。しかも今日は何となく、彼女の顔に余計な真剣さが浮かんでいる。
「また面倒か?」
一樹は気を抜いた顔をして尋ねた。海咲は少しだけ肩をすくめ、少し照れたように言った。
「生徒会室に書類を届けてほしいんです。先生に頼まれたんですけど、私、ちょっと忙しくて。」
「また書類かよ…。」
一樹は目をつぶり、軽くため息をつく。けれど、海咲の期待を込めた目がどうしても無視できなかった。
「ちなみに拒否権は?」
一樹は半ばあきらめながら尋ねた。海咲は微笑みながら答える。
「ないですよ?」
その笑顔は、まるで心の中で何か決意を固めたかのように見える。そう、海咲はただの頼みごとではない、何か重要なことを言いたいのだ。だが、彼女が真剣に頼むことにしては、その顔がどこか愉快で、なぜかコミカルに感じられた。
「じゃあ、行くか。」
一樹は結局、海咲の頼みを引き受けることにした。そして再び窓の外を見つめると、どこか落ち着かない気持ちを抱えたまま、彼は立ち上がる。
その時、海咲が急に静かに言った。
「……一樹君って、私で童貞捨てたくせに、冷たいですよね?」
その言葉は、まるで雷が落ちたような衝撃だった。一樹は驚きのあまり、言葉を失い、目を大きく見開いた。周囲の空気が一瞬、静止したように感じられ、教室全体が凍りついたかのようだった。
「ふふっ…冗談です。」
海咲はすぐに、笑顔を浮かべてその言葉をフォローしたが、その焦りが見え隠れしていた。彼女は軽く肩をすくめ、何事もなかったかのように教室を後にした。
一樹はその背中をぼんやりと見つめながら、呆然としていた。口が乾き、心臓が速く鼓動しているのを感じる。頭の中では、彼女の言葉がぐるぐる回り続け、何が本当で何が冗談だったのか、分からなくなっていた。
「…あいつ、何言ってるんだ。」
一樹は呟きながら、頭を掻く。その言葉が引き起こした波紋に、彼はしばらく捕らわれ続けるのだった。
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ここまで見ていただきありがとうございます。
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