第24話 報告
* * *
翌日、十二月十八日月曜日、俺は椎名と時間を合わせて登校した。
それを見た
「俺たち、付き合うことになった」
「今度ダブルデートしよー」
俺と椎名がそう言うと、宗谷と赤木さんは大層喜んだ。他人事なのに、まるで自分たちが付き合い始めたみたいな反応だった。
「おめでとう! ついにこの日が来たな!」
「うぅ……長い道のりだった……っ」
こうして他人の幸せを素直に祝えるのだから、宗谷と赤木さんは純粋で優しい心を持っていると思う。お似合いで良いカップルだ。
しかし、赤木さんは長い道のりだなんて言っているが、俺と椎名が交流を始めたのはせいぜい二、三ヶ月前。長い道のりとは言い難い。
ちなみに、宗谷が身長百八十センチオーバーの野球少年であるのに対し、赤木さんは百五十前後の小柄な女の子。少しクセのあるロングの黒髪と、ほわほわした雰囲気が可愛らしい。部活はしていないが、趣味で写真を撮っているらしい。
「ま、付き合い始めたからって、俺と椎名はそんなに変わらないけどな」
「あたしら、未だに名字呼び出しね」
「なんでまだ名字呼びなんだ? 名前で呼び合わないのか?」
「せっかく付き合い始めたんだから、名前で呼んだ方がいいんじゃないかな!?」
宗谷と赤木さんは心底不思議そう。
カップルだからって、名前呼びしないといけない決まりはないだろうに。
「その方が慣れてるし、
「何それ? まぁ、確かに
だよなぁ、と俺と椎名が同意し合っていると、宗谷たちがふむふむと頷く。
「……既に熟年夫婦のオーラが出ているな」
「今更名前の呼び方を変えたところでドキドキもしないから、いちいち変える必要性を感じていないんだね……」
「そこまで馴染んでねぇよ」
「熟年夫婦は言い過ぎー。幼馴染でもないのに幼馴染みたいな感じはあるけどさ」
椎名が俺の手を握ってくる。俺も椎名も、特に顔を赤らめるような反応はしない。
「これから宜しくね、ダーリン?」
「うわっ、気持ち悪っ。椎名はダーリンとか言うキャラじゃないだろっ」
「彼女に向かって気持ち悪いとか言うな! ちょっとはデレろ!」
「……これから宜しく、マイハニー」
「うわ……っ。確かにキモイわ……。ぞわぞわして吐き気がしてきた……」
「それは拒否反応強すぎだろ! お前が始めたことなのに!」
俺と椎名がバカなやりとりをしていると、宗谷と赤木さんがふくふくと笑った。
「お前らには、呼び方なんて関係ないんだな」
「形から入らなくても、もうお互いが特別な存在なんだね」
……俺と椎名、偽装カップルなんだけどな。カップルに見えるのは良いことなのだが、全く疑われないのもいかがなものだろう。
俺は時雨先生と付き合っていて、時雨先生のことだけが好きなのに。
「ねぇねぇ、二人はもう、キスしたの?」
赤木さんが小声で尋ねてきた。答えたのは椎名。
「してないねー。別に今すぐしなくてもいいかなって」
「そうなの? 一緒にいるだけで幸せ?」
「そうそう。そんな感じ。ね? 夜明?」
若干圧力のある、ね? だった。
「まぁ、そうだな。今は一緒にいられるだけで満足だよ」
「……流石、熟年夫婦。あっさりしてるようで、深い絆を感じるよ……」
深い絆、あるのかな? 椎名が大事な存在だというのは、確かだけれど。
「なぁ、十二月二十四日の午前中くらい、四人で一緒に遊ばないか?」
宗谷が提案。
「……俺はいいよ」
「あたしも」
「うん、それ、楽しそう!」
「午後は別れて、それぞれのデートを楽しむってことで!」
本当は時雨先生と過ごしたかったな。
そんな思いは、決して表には出さない。
俺たちの関係は、決して他人に知られてはいけない。
色々な思いを押し込めて、俺は他の三人のノリに合わせて笑顔を作る。
高校生らしい、キラキラした青春の一ページ。
悪くはないさ。こんな瞬間も。
俺は恵まれている。それは間違いない。
でも……欲しいものに手を伸ばせないもどかしさは、ある。
やがて、予鈴が鳴る。俺たちはそれぞれの席につき、担任教師が入ってくるのを待つ。
(輝かしい高校時代が早く終わってほしいなんて、考えるもんじゃないよな……)
自分でももったいないことを考えていると自覚していたが、溜め息は出てしまった。
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