2.小さい爺さんが神様とかいう

 次の瞬間には、真白な空間にいた。ユリウスの姿もない。

 ぼんやりと空間を眺める。

 目の前に、小さな爺さんが浮いていた。


「や! 異世界転生コースにようこそ~」

「異世界転生コース?」


 反復した言葉に小さい爺さんが頷く。


「簡単に説明するとね、君は死んで、魂が輪廻に入り、異次元の別の体に転生しましたよ、というお話。だから、頑張ってね~。それでは、いってらっしゃ~い!」


 小さい爺さんが旗をパタパタ振る。視界が霞んで滲んだ。

 慌てて爺さんを握り潰す。


「ちょっと、待たんかい。説明は、それだけか?」


 夢の国のアトラクションみたいに送り出されても困る。大事な話が、何一つない。


「待って、やめて、離して、死んじゃう。これでも神なんだから、崇め敬って」


 ぱっと手を離した。


「神、だと……?」


 宙に浮く小さな爺さんを、じっと見つめる。


「そうだよ、神だよ。君、前世で作家さんだったし、説明なしにいけるかなぁと思って転生先の体に魂を移したのに、全然適応力ないんだもん。仕方なく、こっちに呼んだよね~」


 神と名乗った小さな爺さんは、むっすりしながら白い衣服をパンパンして整える。            

 全然頭が付いていかない。付いていかないなりに必死に考える。


「私は、つまり、死んだわけで? 自分が書いた乙女ゲームの世界に転生した、と?」

「そう、そう。自分が作った世界で次の人生送れるとか、楽しいと思うんだよね~。だって色んな設定とか自分で作った世界だよ! 神と一緒じゃん!」


 開いた口が塞がらなかった。


「作家は神じゃないし、仮にその世界が本当に存在したら、私が作った設定なんか世界の一部でしかなくて、知らない常識とか山ほど存在すると思うんだけど」


 神様とやらが、舌打ちする。


「夢がないなぁ。君、もっと可愛げを持った方が良いよ。女の子なんだから」


 もう一度、小さい爺さんを握り潰す。


「そういうの、今の日本じゃセクハラだからな、この老害神が。そもそも転生なら赤ん坊スタートじゃないの? そこそこに育ったお嬢さんの体にいた気がするけど?」


 神が顔を逸らした。

 明らかに気まずい顔をしている。


「神にも色々事情があるの。君には使命感を持って転生してほしいっていうか。ちょっと世界立て直してきてほしいっていうか」

「立て直す? あの乙女ゲの世界を?」


 こくこくと、小さい爺さんが頷いた。


「ちょっとした手違いで均衡が崩れちゃってさぁ。このままだと破滅しちゃうんだよねぇ、多分。君、原作者だから、何とかできるよね? シナリオ通りじゃなくても良いからさ。とりあえず、滅亡しなければ、それでいいから」


 握る手に更に力を加える。

 

「勝手な事情で人のシナリオをぶっ壊しておいて、丸投げ? シナリオ通りじゃなくていいから、何とかしろ? 作家に喧嘩売ってんのか、爺」

「待って、ギブギブ、ごめん、ギブ」


 小さい爺さんが、握る手をパンパン叩く。

 仕方がないので、ちょっとだけ手を緩めた。


「悪いと思ってるよ~。神だって、たまには間違うんだよ、許してよ。とにかく君は、ノエル=ワーグナーっていうモブの娘に転生してるから。他の情報は現地で調達してね。もう時間がないから」


 視界が霞がかってきた。意識が遠くに持っていかれる。


「転生的にも神的にも禁忌とか縛りとかないから、自由にやっちゃって~。あとは、よろしくね~。あ! 転生特典、付けとくから~」

「説明が足りねーよ! 爺!」


 悪態は届かず、意識は遥か彼方へ飛んで行った。 







=============================================


お楽しみいただけましたら、♡や★していただけると嬉しいです。

次話も楽しんでいただけますように。

お読みいただき、ありがとうございました。        (霞花怜)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る