34.動き出した魔手

 リヨンの死から半月が経った。

 ノエルは焦りを感じていた。

 安全だと腹をくくっていた学院内で、呪いの死亡者が出たのだ。

 しかも、立て続けに三人だ。


(オートで自然発動した可能性もなくはない。でも、このタイミングは) 


 学院は普段から強力な結界に守られている。外部からの魔法攻撃には、ある程度耐える仕組みだ。本来なら、呪いのリモート操作が学院内に届くはずはないのだが。


(結界の綻びでも見付けたか、部分的に破壊したのか。どちらにしろ明らかに教会側からの、ノアからの威嚇だ。いつでも殺せると言いたいんだろう)


 しかも、現状を受けて、国が動き出した。

 結界の確認と修復という名目だが、実際は『呪い』の現状確認とみて間違いない。

 宰相自ら視察に来るという。


(ユリウスが王室に報告をしているなら、国はすでに呪いの正体も教会の実情も把握しているはずだ。牽制くらいしてくれるだろう)


 だが、大きな動きは期待できない。教会は有事に備えてアイザックという人質をとったのだから。国は教会を監視しつつ、ノエルたちの動きをあくまで静観する立場をとるだろう。


(リヨンがラスボスだったら、間にノアを挟めたのに。国と直接やり取りする必要もなかったんだけどなぁ)


 ゲームシナリオでは、リヨンに全責任を被せたノアが総てをうやむやにしてくれる。

 だが、教会の頂点ノアと直接対決する構図になった以上、国との話し合いは免れない。


(レイリーにあんな話をしておいて、ごめんって感じだけど。間に入ってくれる偉い人が思いつかないんだよね)


 国王は恐らく総てを把握している。

 ユリウスは、国の大事にのみ集う国王直属の魔術師部隊、聖魔術師の一人である。報告を怠るはずがない。

 ノエルの計画の総てが筒抜けだと考えていい。その上で反対されないのだから、ノエルの計画は支持されているのだと思っている。


(ついでに禁忌の中和術も許してもらえるといいな。ユリウスがそこまで報告しているか、わからないけど)


 ユリウスは最初からノエルに禁忌術を勧めていた。そのあたりの守備は整っていると信じたい。


(そういえば、ノアも聖魔術師の一人なんだけどな。あの設定、どうなっちゃうんだろう)


 聖魔術師は、物語の後半で活躍する。本来なら、聖魔術師の設定自体が後半まで活かされないはずだった。ノアも後半では聖魔術師として討伐部隊に参加している。


(とにかく、今はノアを退ける。その上で、成果を手土産に国との交渉に臨む。今、私にできることは、自分のレベルアップと根回し、裏方作業だ)


 パン、と頬を叩いて気持ちを入れ替えると、冬の庭に向かった。

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