5.主人公が茶会に誘ってくれました
この世界に来て一週間が経った。
ノエルはまだ療養として部屋に籠っていた。
バルコニーに立ち、外の景色を眺める。
この部屋は学院の寮だ。聖バルドル魔術学院は全寮制なので、貴族平民問わず全学生が入寮している。
(バルコニー付きの部屋なんて、平民にしては贅沢だよね。さすが実家が宝石商なだけある)
精霊国には階級制度がある。国に貢献した家は今でも貴族に取り上げられる。また、平民だから貧乏という訳でもない。ワーグナー家のように爵位はなくとも裕福な家は多い。平均して平和な国といえる。
ノエルはバルコニーから下を見下ろした。
(この高さなら、ノエルは死ななかったんじゃないのかな)
決して低くはないが、ノエルの身体機能があれば、充分着地できるのではないかと思えた。
ユリウスの話から察するに、ノエルの魔法能力は決して高くない。だが、それを補うに余りある優れた身体能力を有している。それは日常生活を送っているだけでわかった。
(前の私は運動神経悪かったから、余計に感じるんだよなぁ。この娘の体の機敏さに頭が付いていかない時がある)
だとしたら何故、ノエルはバルコニーから飛び降りたのか。
自殺以外に理由があったのかもしれない。
(魔石の影響? 行動を操作するほどの力なんかないはずなんだけどなぁ。ノエルに一体、何があったんだろう)
ノエルがユリウスに魔石を貰いに行く、なんて話はシナリオにない。ノエルの自由な行動は、ここが現実世界だからなのか、神様の言う世界の滅亡に関係があるのか。
(調べてみないと、わからないかぁ。何を切り口に探ればいいかも、わからないんだけど)
「ノエルー! おーい!」
眉間に皺を寄せて考え込んでるノエルを呼ぶ声がした。
足下に目を落とす。
マリアがノエルに向かい手を振っていた。
「今、部屋に行こうと思っていたの。暇なら一緒にお茶しよう! 気分転換にもなるよ」
(マリアの笑顔、良き。今日も主人公は元気だ)
とは思うものの、マリアの性格設定にも若干の疑問がある。
(三つの性格が全部混じっている気がするんだよね)
初めて会ったあの日以来、マリアは毎日ノエルの元に顔を出してくれる。ノエルの体調を気遣いながら、着替えだ部屋の掃除だと、甲斐甲斐しく面倒をみてくれている。
如何にも世話焼き自立系キャラなのだが、時々見せる甘えた表情は庇護欲を誘う天使系にも見える。呪いについてあれこれ詮索してくる辺りは、好奇心旺盛キャラにも感じる。
(まぁ、人間なら性格が一面しかないってことはない。ゲームみたいに決まった会話しかしないわけじゃいんだから)
付き合う時間が増えれば、何気ない日常の色々な側面が見えて然るべきだ。
ノエルを見上げて、マリアが心配そうな顔をした。
「ノエル? どうしたの? やっぱり調子悪い? 無理しなくって大丈夫よ」
「そんなことないよ。そろそろ部屋の外に出たいし、今、降りるね」
ノエルはマリアの元に向かった。
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