28 作業小屋!

 翌日。ギルドハウスの庭に和希と2人で集まり、作業に取り掛かる。

 ちなみに。今日は他のギルドメンバーは居ない、というかこれからやる事も知らない。サプライズにしたいからだ。


「よし、始めるぞ!」

「なあムーン、黙って建てても良いのか? 無いとは思うけど万が一NGが出たらどうすんだよ」

「その時は取り壊す」

「マジか……」


 そう、今から作ろうとしているのは庭に置く家具と、作業場所兼クラフトショップの小屋である。大量に木材を集めたのはそれが理由だ。

 ちなみに、金属とかガラスは流石に買った物を使用する。金属に関しては既に必要な金具の形に加工済み。


「全く、いつの間にこんな作ってたんだよ」

「暇な時にコツコツと。まあそこまで手間掛からないし」


 実は小型の素材系アイテムは1つ作るといくつかまとめて自動的にクラフトされる仕様である。というか、この仕様が無ければ間違いなく心が折れていた。PPOは手作り感をウリにしているとは言え、流石に運営も必要な緩和くらいはしてくれている。

 この『大変だけど頑張れば届きそう』みたいな調整がPPO運営はかなり上手い。あくまで現行のバージョンでは、だが。とはいえ初期の方のバージョンでは良い感じなので今後の大型アップデートでもバランスが取れるように頑張って欲しい。


「さて、まずは柱から立てていくぞ」

「立てるって、そう簡単に出来るか?」

「まあ見てろって」


 まず長さを図りながら地面に印を付け、ドリルのような工具を使って柱の木材の大きさの穴を掘る。


「よし! この穴に木材差し込むぞ」

「お前のその体でどうやって? 気合?」

「んな訳ないだろ、死ぬわ。俺の答えは……こうだ! 《フロート》!」


 フロートはそこら辺の物を浮かせて盾に出来たりするスキルである。想定された使い方としては戦闘中にそこら辺にある岩などを持ち上げてガードしたりといった感じだが、別に対象に制限は無いのでこうやって木材を持ち上げたりも出来る。

 そして浮かせた状態のまま、横から縦に回す。これも浮遊してるから簡単にクルクルと回せる。こんな感じで大規模な物を動かすのに何かと便利なスキルなので、クラフターの間では話題になっている。


「これで上から落とせば……ほら、入った」

「なるほどなあ。確かにこれなら作業出来るか。けど、SPは大丈夫なのか?」


 スキルポイント、通称SP。スキルを使うのに必要なポイントで、基本的にタンクやアタッカーのスキルは消費量が少ない代わりにプレイヤーのSP上限も低い。逆に、ウィザードやヒーラーのスキルは消費量が大きい代わりにプレイヤーのSP上限も高い。

 つまるところ和希が何を言っているのかと言えば、SP上限が低い俺がそんな魔法を連発出来るのか? という疑問である。もちろん、対策はしてある。


「これを見ろ」


 インベントリから何本かのSP回復ボトルを取り出す。


「……もしかして、回復アイテムでゴリ押すつもりか?」

「その通り。ちなみにまだ何本もあるぞ」


 つまるところ物量作戦である。この手に限る。


「しかもそれ結構しただろ」

「金ならめっちゃ余ってるし。何なら店の運転資金から出てるから立派な投資だぞ」

「金持ちが! そして思考が経営者に寄ってきてやがる……」


 何とでも言え。それに素材確保と建築作業は自分でやってるんだから文句は言わせない。


「さ、壁を作っていくぞ。まず丸太を半分に割ってだな……」


 次々と指示を飛ばし材料を加工して、それを壁にしたり床に張ったりして組み立てていく。そうして作業を進めていき……


 ◇


「だあっ、終わった!」

「ヤマト、お疲れ。手伝いサンキューな。報酬は後で渡すわ」

「これでやっぱ取り壊してくれとか言われたら泣くぞ俺は……」


 まあ、自分が受け持ってるスペースなのでそんな事は無いと思う。


 そうそう、肝心の出来上がった小屋だが。


「いやー、結構良い感じに仕上がったんじゃないか?」

「ああ、結構好きだぞ」


 木で出来た小型のログハウスといった趣である。中は6畳程の広さで、カウンターを設置しても十分作業出来るスペースがある。また、大きな物をクラフトしたい時にはカウンターを外す事も出来る便利な設計である。

 窓からはギルドハウスと同じように景色を眺める事が出来るので、出来上がりを待っている客を飽きさせる事もない。


「うーん、我ながら良い出来だ」

「早速何か作ってみたらどうだ?」

「ああ。庭で使える椅子やテーブルを作ろうと思ってたんだ」


 早速最低限クラフトに必要な道具を出して作業に入る。


「えーっと……椅子は天然の木を座りやすく切り出したシンプルな奴で行こう。テーブルはさっきの作業で出た余りの板材があるからそれを使って……」


 設計図は無いので脳内で考えながら組み立てていく。この作業も慣れたものだ。


「お前さ、本当に手先器用になったよな」

「それは本当に思う。この体のお陰なのかな」

「けど、女になったから手先が器用になった、ってのもなんか変な気がするよな」

「それな。まあ、女になるのが既におかしいから何が起こっても不思議じゃないだろって言われたらそうなんだが……」

「そりゃそうだな」


 2人で笑いあう。そんな感じで話をしながら椅子とテーブルのセットを作り終えた。


「ほら、どうよ? 結構良いと思うんだけど」

「うん、自然! って感じで良いな」

「なんだその小学生みたいな感想は……まあ良いか」


 語彙力の無さすぎる感想に思わず笑ってしまう。嫌いじゃない。


「さて、明日みんなどんな反応するか楽しみだな」

「1日空けたらいきなり建物が生えてるんだからびっくりするだろうよ」


 さあ、明日の反応が楽しみだ。そんな事を考えながら、今日の作業を終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る