19 開店、クラフトショップ!

「よし、出来た!」


 今俺が居るのはギルドハウスの裏手、つまりギルドの庭兼クラフト作業場だ。作業していたのはここを譲ってもらったギルドへの家具製作とアクセサリー制作と武器クラフト。

 ちなみに家具製作に関してはクラフトレベル上げも兼ねて作った物をギルドにいくつか置いてある。正直最初の方に作った物はクオリティに納得行っていないが、流石に他人に披露出来るレベルになったのなら相手ギルドの方が優先である。


 数時間掛かったが、希望の物は全て作り終える事が出来た。正直今はクラフトが楽しいので全く苦にならない。作った物をインベントリに入れて相手ギルドへ向かう。

 指定した場所に辿り着くと、大通りに面した建物にギルドを構えていた。結局、あそこを譲ったからか景色より実利を取ったらしい。ベルを鳴らし名乗る。


「こんにちは、ムーンです! 先日のお礼の品を届けに来ました!」


 しばらくすると先日のリーダーが出てきた。


「おう、嬢ちゃん。ありがとな、早速見せてくれるか?」

「あ、はい。ちょっと待って下さいね」


 その場で1つずつ出そうとすると、リーダーに止められた。


「ああ、そこで確認すると大変だろ? 中に入って広げてもらって構わないぞ。茶でも出すよ」

「本当ですか? では失礼しますね」


 中は結構広々としていて、入る光こそ少ないが逆にそれがシックなバーのような雰囲気を醸し出している。そして、人数が先日のメンバーに加えて1人増えていた。全員男だ。


「お邪魔します。今日はよろしくお願いしますね」

「おいおいリーダー、ついに女の子に手ぇ出したのか? 見損なったぞ」

「んな訳ねえだろうが。道に立たせながら確認させる方が大変だろ」

「おお怖い怖い」


 ああ、こういうノリ良いなあ。最高に男子って感じがする。


「こっちのテーブルが空いてるよ。男ばっかで済まんな」

「いえ、こういう感じ好きですよ。昔は男の子とばっか遊んでたので」

「そうなのか? 見た目からは想像出来ないな」


 大丈夫、嘘は言っていない。むしろ誠実だと思う。ともかく、作った物を広げる。


「えっと、これが家具で、こっちがアクセサリー。そしてこれが武器です」

「よし、確認させてくれるか?」


 1人1人装備を持って確認していく。結構良い出来なので、どんな反応が来るのかワクワクしながら待つ。


「……こいつは驚いたな。こんな上質な装備、そんなに出回ってないぞ」

「私、腕が良いので!」


 えっへんと胸を張る。実際自慢するのが許されるくらいの質はあると思う。


「おいおいリーダー、とんでもねえの拾ってきたな! こんなクラフト出来る相手と知り合いになれるなんてさ!」

「ああ、本当だな。今後も頼んで良いか?」

「もちろん。あ、ちゃんとそれ相応のお金は取りますからね?」

「そりゃ当然だ。これからもよろしく頼むよ」


 うん、この人達良い人だな。結構好きだ。


「あ、そうだ。そっちの新しく入った方にもクラフトしましょうか? もちろん無料で」

「え、それは悪いよ。そもそも俺は勘定に入ってなかった訳だし」

「じゃあ武器だけでも。その代わり、今度店を開くので宣伝してください!」

「まあ、そこまで言うなら」


 お兄さんから剣と材料を出してもらい机に置く。周りから興味深げに作業を覗き込まれる。正直集中力が削がれそうだが、頑張って集中する。


「……よし!」


 その結果、納得の行くものが出来た。出回ったとして高額になるであろう品だ、これなら間違いなく文句ないだろう。


「はい、どうぞ! 中々の自信作です」

「おお、言うだけあるな。ありがとう」


 ステータスを確認したお兄さんから感謝される。うん、満足。


「それじゃ、お店が開いたら宣伝よろしくお願いしますね!」

「はいよ。俺等もまた利用しに行くよ」

「ありがとうございます。それじゃ!」


 こうして、足取り良くギルドへ帰還するのだった。


 ◇


 後日。「空いてる時なら庭の一部をお店として使って良いよ」というルースさんの提案と他メンバーの許可により、俺はギルドに店を構える事になった。その代わり、売上の一部をギルドに収めるという契約である。


「看板、こんなデザインでどうよ?」

「良いと思うぞ」


 看板には『クラフトお受けします! 装備、アクセサリー、家具』というポップな文字と価格や条件等の文字を踊らせてある。


「客、来ると良いな」

「ふふ、当てはある。大丈夫だ」

「マジか」

「もし人がそこそこ多かったら裏作業のヘルプ頼むな」

「もちろん」


 さて、あのギルドのお兄さん達は上手い事噂を流してくれるだろうか。


 ◇


 果たして、その効果はすぐに出た。というか、出すぎてしまった。よっぽど気合を入れて宣伝してくれたのか開店直後からそこそこの人数が集まっていた。そこから更に話題が話題を呼び今では行列がギルド外まで伸びている始末。初日からパンク寸前に陥っていた。


「ヤバい……ヤバいヤバいヤバい、どうしようこれ」

「落ち着け」


 俺はといえば半分テンパっていた。クラフト作業こそこなせているが、なにしろ今日の午前中だけでクラフトレベルが4上がるレベルの盛り上がりな上にまだまだ並んでいるのである。疲労感が凄い。


「とりあえず今日は今並んでいる人数で終了したらどうだ? それならなんとか凌ぎきれるだろ」

「ああ、そうする……ありがとうヤマト……」

「それじゃ、人員整理してくるわ」


 ああ、こういう時頼もしいなあ。自分1人なら確実にどうにもならなくなっていた。和希の存在が本当にありがたい。

 そんな事を考えながら休憩を終え、また行列の処理に追われるのであった。


 ◇


「だぁ、疲れたっ!」

「お疲れさま。これは……明日から対策を考えないと駄目だね」


 閉店後に入ってきて惨状を聞いたルースさんが困ったような声で話す。全く持って同感だ。こんなの持つわけない。


「やっぱり、人数制限を掛けるしかないんじゃないかなー」

「現実的にはそれしかないですよね……」


 出来れば全員にやりたいが流石に限度という物がある。パメーラの提案は正論だった。


「値上げするのはどう? 内容考えたら2割くらい上げても文句は無いだろうし、入るお金も増えるでしょ?」

「あー、確かに。レベルも上がって更に品質の高い物作れるようになったし、それはアリかもですね」


 カリンの提案に乗る。お金さえあればモチベが上がるという物だ。早速看板を書き換える。


「クラフトレベルを記載した上で料金を変更して、受付予約時間は午前中のみ、作業時間は5時まで、料金は2割増……っと」


 正直かなり条件はキツくなったが、今日の人数を考えるとこれでもどれくらいの人数が集まるのか正直分からない。


「これでなんとかなる量にまで捌けたら……良いなあ」


 祈りを込めて呟きながら、波乱に満ちたクラフトショップ1日目を終えたのだった。

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