18 クラフト開始!
一通り喜んだ後、早速楽しみにしていたクラフトに取り掛かる事にした。場所はもちろん庭……ではなく、屋内。せっかくのクラフトを見てみたいという事で、みんなで集まっているからだ。こうやって見られながら作業するのはちょっと緊張する。
「よし、まずは簡単な武器の強化から行こう」
俺は自分の背負っていた武器を取り出す。アイテムメニューを出してクラフトを選択。するとクラフトモードに入る。ちなみに、クラフト中はダメージは食らわない仕様だ。
強化先を指定を選ぶと、まずはクラフト作業に必要なハンマーや砥石や鉄板等が、そしてインベントリから強化用に必要なアイテムが自動的に出てきた。ちなみに、アイテムは手持ちで足りた。
その後、眼の前に作業手順のような物が出てくる。
「よし、まずは鉄板の上に剣を乗せて発火草を擦り付け武器を熱すると……」
正直こんな物で熱は足りるのか?と思いつつ擦り付ける。
「おおー……」
武器が熱されて真っ赤になり、周りから声が漏れる。これだけでこんなになるとか発火草すごい。
「えっと、次は冷める前にハンマーで上鉄鉱石を砕いて、その破片を熱した剣の上に偏り無くまぶした上で叩く……と」
何その雑な手順。ゲーム用に省略されてるのは分かるが、正直少し心配になりながらも手順を実行する。出来るだけ偏りを無くすように意識する。
「おー、大体全体にかかってるんじゃないか?上手じゃん」
「だろ?」
次に冷めない内にさっさと剣を叩く。どんどん破片が吸収され、冷める頃にはきちんと一体化していた。
「しっかしこれ、かなり表面ざらざらなんだが砥石でなんとかなるか?」
「まあ、とりあえずやってみようよ」
砥石を手に取り水に濡らしてひたすら剣を磨く。すると、意外な程のスピードでピカピカになっていく。まあ、そりゃゲームだから単純化はされるか。
そして磨き上がった判定にされたのか、効果音が鳴って眼の前にウインドウが出てきた。
『クラフト成功!《兵士の巨大剣》は《上等兵士の巨大剣+4》になりました』
成功!ステータスを見るとクラフトで上がったのは攻撃力+4らしい。
「やった、出来た!」
「この+4がクラフトでのボーナス分だね」
「平均はどれくらいなんだろ?」
「ちょっと調べるわ。えーっと……大体最初だとみんな1か2が多いみたいだな」
「えーっ! ムーンちゃん凄い!」
なるほど、平均より少し良いのか。これは幸先が良い、やろうと思えばこれで稼いでいける。
「ねえねえ、もっと作ってみようよ! ピアスとか!」
パメーラがそんな提案をしてきた。うーん、あんまり気乗りしないけど気になりはする……
というのも、PPOのアクセサリー枠は2つあり、おしゃれ枠かステータスの上がる実用枠か。ぶっちゃけステータスが上がる方はデザインが微妙だし、性能も誤差レベルなので微妙。しかもスロットはお守りなどと同じなので使う意味がかなり薄いのだ。
だが、クラフトでデザインを変えられたりするなら話は変わってくる。
「うーん……まあ、気になるから良いですよ。作ってみましょう」
今度は強化では無いのでクラフトメニューから新規作成を選択して、アクセサリー欄から守りのピアスを選択する。シンプルに防御力を上げる奴だ。
「よし、まずは鉄インゴットを大雑把な大きさに切り出すのか」
鉄インゴットに丸いホログラムが表示され、どこまで削れば良いかを示す。それを目安に熱されたナイフのような物を使って削っていく。万が一触れても温かいだけなので安心である。
「よし、これで大体丸くなったかな? 次はどうするんだろう」
手順にはこれを更に細かく削って形を整えながら薄くするという指示が出ている。ここでデザインを変えてみれば良いんだろうか。けど、全然アイデアが浮かばない。
「デザインを変えたいんですけど、どんな形が良いんでしょう?」
「ハートとかどうよ。割と王道だし初めてなら想像しやすいだろ」
「ふむ、確かに」
それなら仕上がりはともかく形で大失敗はしないだろう。和希のアドバイスを受けてハート型に整えていく。
「ムーン、前からこんな器用だったっけ……?」
「正直、それは思ってました」
星奈の発言に同意する。なんか、以上に手先が器用になっている気がする。確かにPPO側の補正もあるんだろうけど、クラフトスキルが1の時点でそこまで期待出来るとも思えない。
つまり、これは恐らくこの体が器用という事なんだろう。確かにクラフトには都合は良いが……どんどんこの体に頼りそうになって嫌だな。まあ、かと言ってわざと不器用にクラフトする事も出来ないけど。そんな事を考えつつ作業を進める。
「よし、後は磨くだけ」
一心不乱に磨いていく。正直結構な自信作になりそうな気がする。磨き方が良かったのかどんどん鏡のようにピカピカになっていく。終わったら仕上げにフックを付ける。
そして、遂に完成した。
「……これ、めちゃくちゃ完璧に出来たんじゃないでしょうか?」
出来上がったのはピッカピカで形が完璧に整ったハートピアス。我ながら素晴らしいクオリティだ。
「驚いたね。これ、店売りしてても驚かないよ」
「ムーンちゃん、凄い!」
「うん、これは良いね」
「お前こんな才能あったのか……」
口々に感想が出てくる。なんか今日やったら褒められるな。何か良い事でもしたかな?まあ良いや。眺めるのをやめてテーブルへ置くと完成ウインドウが出てきた。
『クラフト成功!《守りのピアスα+15》が完成しました』
……+15?何かの見間違いだろうか。というかαって何だαって。
「えっと、ステータスは……防御力+15に攻撃力+5……」
元の守りのピアスが防御力+5なので、そこに防御力+10と攻撃力+5。合わせて+15。なるほど、納得……
「いやおかしくないですか!?」
とんでもないぞこれ。店売りアクセサリーどころかそこらのお守り超えてレアドロお守りの域に入ってるぞ。これを手に入れる為に洞窟に潜っている炭鉱夫が居るというのに。
「す、凄い……」
「クラフトスキル抜きでこれでやってけるんじゃないかお前。金に困らなくなるだろ」
確かにこれを売ったらかなり儲かる。脳内で薔薇色を咲かせる。
「良いなあ、私も欲しい……」
「ん?良いですよ。ほら」
星奈が欲しそうにしてたので手渡す。性能は魅力的だけどハート型だから使おうとは思えない。
「えっ!? 悪いよ!」
「いや、私は使えないですし。誰かが使ってくれた方が」
「じゃあ、1回ムーンちゃんが付けてみて似合わなかったらカリンちゃんに上げるっていうのはどうかな?」
またパメーラが意味の分からない事を言い出した。大体性能の問題なんだから星奈が納得しない……
「あ、良いねそれ。付けてみよう」
納得すんのかよ。でも確かに服選びの時考えると星奈もこういう奴だったわチクショウ。
「じゃあ、試しに。試しにですよ?」
念押ししてからインベントリを開いてピアスをセットして2人に見せる。
「……どうですか?」
「あ、ムーンちゃんが更に可愛い……」
「負けた。そのピアスはムーンが持ってて」
だから付けないってと思いつつ鏡を取り出して覗き込む。……正直、一瞬『あっ、可愛い』と素で思うくらい似合っていた。見た目的にも不自然じゃないし、性能も良いし悪くないのでは。いや、しかし……
「ヤマト、どう?」
「えっ!? どうって?」
「いや、付けてて似合ってるかって話」
「あ、ああ。別に不自然じゃないし似合ってると思うぞ」
「……顔逸らしながら言っても説得力無いんだが」
和希的には見るに堪えないらしい。
「まあ、けど良いと思うぞ。本当に違和感は無いし、デメリットに勝るメリットがあるだろ」
「だよなぁ」
結局、実利を取る事にした。和希はともかく普通に見れば似合ってるし、あまりにも性能が魅力的すぎる。
……どんどん男としての拘りをどこかに投げ捨てている気がするのは見なかった事にした。
ちなみに、その後『他の形で同じような性能のアクセ作れば良いんじゃね?』という和希のナイスな提案で色んなアクセサリーを作ってみたが、最高でもアイテム変化無しの+10くらいだったので諦めた。どうやらあれが改心の出来だったらしい。
あの時、どうして他の物で作らなかったんだ俺……後悔先に立たずとはこの事である。
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