15 対決、精霊!

 その後は中ボスも出ず、普通のモンスターを倒しながらミカルフのログハウスへ向かった。


「さて、ここまで辿り着いた訳だけど」

「やっぱ地図で示されてるの、この先だよなあ」


 恐らく異世界への扉だと思われるマークがある広場に行くには、ミカルフのログハウスを通る必要があった。


「とりあえず、入ろうか。いきなり襲ってくる可能性もあるから気を抜かないで」


 流石に家の中で襲う事は無いと思うが、一応警戒しながら扉を開ける。すると、自分の机に座り普通に飲み物を飲んでいるミカルフが居た。


「古大木に勝ったか。流石に君達の相手ではなかったね」

「やっぱりミカルフの仕業だったんですね。どうして私達に仕向けたんですか? 森の生き物を倒したり、好きに探索したりしても良いと言ったのは嘘だったんですか?」

「嘘では無いよ、それは約束しよう。こちらへ来なさい」


 ミカルフが入ってきた入り口と反対側の扉を開け、俺達を例の広場へ案内する。


「精霊によると、君達は異世界への扉を見つけたと言ったね?」

「ええ、そうです。私達の目標もその扉です」

「なら、あれを見ると良い」


 ミカルフが指差す先には、この森と世界観の中には全く似合わない、シルバーのSF的なデザインの両開きドアがどこでもドアのような形で鎮座していた。


「あれは、こちらとは異なる世界へと続いていると我々守護者に言い伝えられている。当然、森の守護者としてはそんな扉が開く事は容認出来ない」


 なるほど、話が見えてきた。


「つまり、この世界の生き物が存在する事は許容出来る。けれど、外の世界からの生き物が入る事は許容出来ない。そういう事ですね」

「そうだ。異世界は、到底自然とは言えない。だからこそ、我々守護者が存在してきた」

「なるほどな、森の守護者は扉の守護者でもあったと」


 確かに嘘は言っていない。あんな扉の先にあるのが自然だとは全く思えないし、森の守護者として止めるのが当然だ。


「もし扉を通りたいと言ったら?」

「残念ながら、私が止めるしかないね」

「そうですか。……仕方ない、みんな戦闘態勢!」


 ルースさんの掛け声で一斉に構える。ミカルフは紳士らしく準備が出来るのを待ってくれたようで、準備を完璧に終えるまで待っていてくれた。


「残念だね。でも、君達が引き返さないだろう事は分かっていたよ。……さあ、もう遠慮も対話もしないよ!」


 ボスゲージが出現し、《フーズル森林の守護精霊 ミカルフ》という表示が出る。……本当に精霊だったんだ、ミカルフ。


「とりあえず攻撃します!」


 初動に準備を掛けていたのでミカルフの対応は遅れるはず。まずさっさと初撃を食らわせようと思った……のだが。

 なんとミカルフはさっきまでののっそりした動きはなんだったのかと思えるレベルで素早く体を動かし、こちらを殴ってきた。その衝撃で俺は後衛までふっ飛ばされてしまった。


「いったた……」

「ムーンちゃん大丈夫!?」

「HPはまだまだ大丈夫です。けど、あの素早さは厄介ですね。パワーこそ無いですが素早く殴られたら吹っ飛んだりするのでジリ貧になりかねません」


 フルダイブVRにおいて、基本的にジリジリとした戦闘は不利だ。理由は戦闘の中で落ち着ける暇が無く、どんどん集中的が削られるから。もちろんリアルに比べれば体力などは補正が掛かるが、流石に精神には補正が掛けられない。というか掛けられたら困る。


「ダメージはともかく吹っ飛ばされるのはいかんともし難いね。とりあえず吹っ飛ばないようには気を付けるけど、近接アタッカーのムーンちゃん以外は距離を取るのが無難だと思う」


 そう言ってルースさんが自身に≪グラビシールド≫を使う。防御力に劣る代わりに吹っ飛びづらいという、ミカルフ相手にはぴったりのスキルだ。


「ムーンちゃん、吹っ飛ばされて目が回ったりしない? 大丈夫?」

「それは大丈夫です。なのでパメーラさんは回復をお願いします」

「分かったよー。怖くなったらいつでも抱き着いて良いよ」

「それも大丈夫です」


 平常運転のパメーラの発言を適当に受け流し、何とか隙を見つけようとする。素早いミカルフ相手に動きが遅い大剣は相性が悪く、攻撃のタイミングが見つからない。ただこのままでもみんなの集中力が切れてしまう。


「今、行けるか!?」


 腕を振り上げたタイミングで大剣を叩きこむと結構な体力ゲージが減ったが、こちらも振り下ろした腕で吹っ飛ばされた。ワンチャン怯むのを期待していたが、そんな期待は打ち砕かれた。


「ムーンちゃん、大丈夫?《ヒール》」

「回復ありがとうございます」


 黙って回復してれば美人なのに。まあ素を出したら自分もそんなもんなので人の事言えないが。


「ごめんなさい、私がもっと攻撃出来てれば……」

「仕方ないよ、相性悪いし」

「精霊属性持ちだからか魔法も相性悪いんだよな……そうだ、良い手がある」


 和希が何か良い考えが浮かんだようで手を叩く。


「《ハンドスタンプ》を使ったらどうだ」

「却下」


 速攻で却下する。《ハンドスタンプ》は威力の高い近接攻撃魔法だが、ウィザードにとっては近接のリスクが大きすぎる。確かに物理属性だから効果はあるだろうが、そんな事はやらせられない。


「大丈夫、最悪回復して貰えば良いし」

「自己犠牲的な考えをやめろ。危ないからダメったらダメだ」

「でもこのままじゃジリ貧だろ? ルースさんにも限界あるし。《ハンドスタンプ》は今の俺の魔法の中でも最高クラスの攻撃力だし、やってみる価値はある」


 ダメだ、こうなった和希は止まらない。なら、俺がやるべき事は。


「分かった、仕方ないから後ろに付いてろ! 前はなんとかするからいかに攻撃当てるかだけ考えろ!」

「了解!」


 和希を後ろに付けてミカルフに向けて慎重に、かつ素早く向かっていく。


「ムーンちゃん、騎士装備も相まってなんだか男の子を守る姫騎士みたいでかっこいいね。ロールプレイも上手ー」

「そうですね、あはは……」


 後ろでパメーラと星奈が何か会話しているが良く聞こえない。集中出来ないからやめて欲しい。


「よし、範囲OK! 唱え終えるまで保たせてくれ!」

「了解!」


 ギリギリミカルフの攻撃が当たるか当たらないかという位置で止まり和希の詠唱が終わるのを待つ。いくらルースさんがヘイトを受けているとはいえ流石に棒立ちを許してくれる程甘くはない。重い動作でなんとか攻撃を弾き、捌ききれなかった分は星奈の神がかったエイムの弓でなんとかしてもらう。


「よし、準備OK! 行くぞ、《ハンドスタンプ》!」


 和希が魔法を放つと凄い勢いでミカルフが吹っ飛んでいき、体力バーが3割まで減る。と同時にオーラが吹き出てきた。


「削ったけど怒りモード入った! みんな気を付けて!」


 そうルースさんが言い終わる前に、ミカルフが凄い勢いでこちらへ飛んできていた。狙いは油断して離れた和希。このままだと直撃してしまう。

 せっかく大ダメージを与えてくれた和希を……


「やらせてたまるかあああああ!!」


 俺は自分でもびっくりする程素早く反応し、体を捻らせ横に移動しながら後ろに宙返りをして飛んでくるミカルフの正面に位置取り、大剣を食らわせる。空中攻撃は流石に効いたようで、ミカルフは地面に落ちた。


「……はっ!? 今だ、攻撃を!」

「了解!」


 チャンスは今だ。現段階で近接アタッカー最強のスキル《パワースラッシュ》を放つ。技を使うのに必要なスキルポイントがバカみたいに多いので、SP回復手段があまりない現状では本当にここぞという場面でしか使えない。


「これで……終いだあ!」


 渾身の一撃を放ちミカルフにダメージを与えるが、ミリだけ残ってしまった。


「《クイックアロー》!」


 そこに星奈の素早い矢が飛んできて、ミカルフとの戦闘は終わった。……決め台詞吐いといて決められなかったので、なんだか恥ずかしい。

 一息つくと、ミカルフが口を開いた。


「強いね……君達は」

「ミカルフさんも十分強かったですよ」

「はは……ありがとう。……本当はね、守護者としてより、君達の力を確かめたくて戦ったんだ。この扉の先には、何があるのか分からない。そんな場所に君達を送り出したら、本当に死んでしまうかもしれない。だから君達の力を見ておきたかったんだ……でも、これで安心して逝ける。……ありがとう」


 そう言ってミカルフは事切れた。


「「「「「ミ、ミカルフーッ!」」」」」


 ああ、ミカルフ。お前は良い奴だったよ……


 ◇


「ミカルフ、なんだかんだで良い人だったね……」

「俺結構好きだったんだけどなあ、アイツ」

「分かります。インパクト強かったですもんね」

「紳士なゴリラだったよねー」

「それでも最初のボスがイケボゴリラはどうかと思うけどね」


 各々感想を口にしていると、キーアイテムを手にれましたというログが出てきた。


「なんだろうこれ。『《異世界への宝石・蒼》異世界への扉を開ける為の宝石。これが光り輝く時、次の世界への扉開く』……だって」

「要はアレか、『アップデート待ってね』って奴か」

「身も蓋もない言い方しないで……」


 更に演出と共に大きいテキストが出てきた。


『1章 Clear To Be Continued……』


 とりあえずここで1章は終わりか。妥当なような短いような……


「とりあえず運営としては2章が実装されるまでは他の要素を楽しんでね、って事なんだろうね。準大型アプデもするらしいし」

「えっ、そうなんだ」

「うん、今日入ってくる前に告知来てたよ」


 ルースさんの発言に素で驚いてしまう。そういえば色々出来事が連発してロクにニュースが確認出来ていなかった。後で確認しなければ……


「じゃあこの後打ち上げって事で、1度街まで戻ろうか!」


 星奈の発言にみんな同意して帰路に着く。別にテレポすれば良いんだけど、雰囲気である。


「そういえばさー、戦闘中のムーンちゃんカッコよかったね。普段からは想像出来ないくらい啖呵切って、ヤマトくんを守ろうとしてさ。騎士装備なのもあって姫騎士みたいだったよー」

「……あっ」


 パメーラに指摘されて気付いたが、そういえばすっかりロールプレイを忘れてしまっていた。戦闘中に星奈と喋ってたのはそれか。余裕が無かったしな……


「あはは……つい。ヤマトと私は長い付き合いなんです。なので、うっかりああいう口調が出ちゃう事が……」


 うーん、我ながら言い訳が苦しい。


「でも、ああいうの私好きだよ? ムーンちゃんにとってヤマトくんが大切な存在なんだーって思ってさ」

「……それは、そうですね」

「だから私、ヤマトくんとの恋路を応援してるから!」


 和希と2人で同時に突っ込む。


「いや、そういうのじゃないですから」


 パメーラがえー残念、失恋しちゃったんだねとか言っている。それは自分が残念なだけだろう……


「でも、わざわざ口調を変える必要は無いんだよ? ムーンちゃん。僕らの前だから遠慮してるんだろうけど、素で話せるならその方がきっと良いと思うんだ」


 ルースさんがそんな提案をしてくれた。こちらとしては正直ありがたい。流石に一人称が俺なのは許されないが、和希相手だけとはいえ普段の口調になれるだけでも大分楽になれる。


「そうだよー、出来るならそっちの方が良いって! 私の目の保養にm……」

「それじゃあ、遠慮無く」

「大丈夫か?」

「大丈夫。ああ言ってくれてるしさ。好意には素直に甘えとこうぜ」


 こうして、大人なルースさんの対応でPPO内での振る舞いが少し楽になった。後ろで尊い……とか言いながら死にかけてるパメーラの事は見なかった事にした。

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