11 森の精霊!

 早速5人でフーズル森林へ向かう。ちなみに、和希とルースさんとパメーラさんは行きの途中で挨拶済みだ。レベル上げもしていたので大して苦もなくフーズル森林まで辿り着いた。


「なるほど、ここが」

「とりあえず入り口らしき場所は開いてるが、それ以外は木が密集してて入れない、って感じだな」

「ま、とりあえず入ってみよう」


 タンクのルースさんを先頭にして進む。


「なんか静かだね。どうしたんだろうか」

「私も思ってました。モンスターの1体や2体出てきてもおかしくなさそうなんですが」


 薄暗い森というシチュエーションに反してモンスターは全く出てこない。とはいえ警戒を怠らずに進んでいくと、突然大きな影が現れた。


「下がって!」


 ルースさんの声で一同が戦闘態勢になる。立ちはだかった影は全長2メートルくらいはある人型。攻撃に備え……たのだが。


「いやいや、私は敵ではないよ。安心してくれたまえ」


 そいつは、イケボで紳士なゴリラだった。


「あなたは……?」

「私はこの森の守護者。みんなからはミカルフと呼ばれているよ」


 まあ、確かにゴリラは森の精霊とか言われる事もあるが。それにしたってメインストーリー最初のNPCが2メートル超えのゴリラとか運営は攻めすぎだろ。ちなみに、PPOの重要NPCは他社製のセリフ生成AIを使っているのだが、まさかAI開発会社も初めて使われるNPCがゴリラだとは思わなかっただろう。


「とりあえず私に付いてきなさい。こちらへ」


 そう言われ、一同顔を見合わせる。


「行くしか……無いよなあ」

「まあ、見た目はゴリラだけどNPCだしねー。多分敵対はしないよ」

「ゴリラのNPCってのも凄い……」


 結局、話が進まないので付いていく事にした。


 連れて行かれた先は、ミカルフの住んでいるログハウスであった。巨体に似合う大きさの自宅だが、人間サイズのテーブルも用意されている。友好的なのは本当のようだ。パーティを代表して俺がいくつか質問をしてみる。


「さて、君たちの用事は分かっているよ。この森の宝を探しに来たんだろう?」

「良くご存知ですね。まだ情報は見つかったばかりなのに」

「噂話などは精霊が運んできてくれるからね。すぐに分かるのさ」


 うーん、見た目がゴリラじゃなければ本当に精霊っぽい事を言ってるんだけど。まあ、確かに印象には残るけどさ。


「私達はこの森を探し回るつもりなんですが、止めないんですか?」

「私はこの森の守護者と言ったね。守護者の役割はこの森を生物以外から守る事。もちろん君達人間も生物の一部だ。だから、森の生き物を君達が倒しても構わないし、逆に君達が倒されてしまってもこちらは何もしない。この森における生命の営みとはそういう物なんだ」

「はあ」


 とにかく、ミカルフ的にはこの森の探索をするのは大丈夫らしい。こんなボスボスしい見た目してるのに。


「じゃ、遠慮なく探させてもらいます。俺達はこれで」

「ああ、気を付けて。何かあったらまた訪れなさい、歓迎するよ」

「ありがとうございます。それでは」


 そう言って俺達はミカルフのログハウスを後にし、ここに来るまでの道の途中にあった分岐点を目指す事にした。


「紳士だったね、ミカルフさん」

「最初は絶対敵だと思ったんだけどなー」


 そんなルースさんとパメーラさん。


「いいや、あれは後で敵対するパターンと見た。だってあの見た目で森の守護者で、冒険者と戦わない訳無いだろ」

「確かに一理あるね。けどミカルフ、ちょっと可愛いから戦闘するのは嫌だなあ」


 そんな和希とちょっとズレた感想の星奈。ちなみに俺は和希と同じ意見。絶対戦うよアレ。


「私も戦うと思います。というか、そうじゃないとヒントもくれない何のために用意されたのか分からないですし、そんな無意味なキャラを最初のメインNPCにするかな? と思うんです」

「確かに、それは言われてみれば。戦わなくても後で何らかのキーキャラクターになるのかもしれないね」


 ミカルフに付いて話しながら分岐点まで戻り、作戦会議を始める。


「さて、ここから分岐先に進む訳だけど、ヒントも何も無いんだよね。どうする?」

「多分しばらくは一本道だよな」

「普通に進むしかないねー」


 という訳で、そのまま進んで行く。段々木々が生い茂って、ちょくちょくモンスターとのエンカウントもするようになった。とはいえ、レベル上げは済ませているので苦戦する事はなかった。俺の攻撃が空振りする事以外は。逆になんで他のみんなは空振りしないんだ、本当にVRゲーム初心者か?


 そうして進んだ先に、突如レンガ造りの廃墟が現れた。


「あー、絶対これだねー。何もないとかあり得ないよ」

「そうだね。けど入り口が見つからないなあ」


 そう言ってルースさんが考え込む。


「おい、ムーン。お前こういうの得意だったろ」

「あ……ええ、任せておきなさい」


 うーん、なんか女の子喋りしてる時に和希に話しかけられると調子が狂うな。気を付けないと。

 そんな事を頭の片隅に置きながら、入り口を探す。確かに一見どこにも無いように見える。というより、本来ありそうな場所が壁のように巧妙に偽装された扉になって閉まっていると考えるべきか、となると。


「どこかにスイッチは無いか探してみましょう。私もこっちで探します」


 そう言って全員でスイッチを探し始める。自分でも歩きながら探していると、小さい穴に引っかかった。ちょうど腕が入りそうというくらいの隙間。うつぶせになって腕を突っ込んでみると、取っ手に触れた。ビンゴ。


「スイッチ見つけたかもしれません! 今起動します!」


 取っ手を引っ張ると、予想通り壁の一部動き扉1枚分くらいの大きさの通路が現れた。


「おお、でかした」

「これで進めるねー」

「ありがとう。さあ行こうか」


 和希とルースさんとパメーラさんが喜ぶ中、何故か星奈だけが複雑そうな表情を浮かべている。近くへ行って他の3人に聞こえないくらいの声で話す。


「どうした? 何かあったか?」


 

「……横になって床のスイッチ動かすとき、パンツ見えてたよ。私の他には見てる人居なかったけど、今後は気をつけてね」


 

 ……出来れば聞きたくない報告だったなあ。今後は気を付けよう……

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