4 雑魚に大苦戦!
微妙な空気が漂う、和希はまだ顔をそらしている。このまま一夜を共に過ごすと思うと気が重い。まあ、言い出しっぺは自分なのだが。
「とりあえずこれで準備OKだな」
「ごめんな、志月の体の事考えたら俺が布団運ぶべきだった。危ない思いさせてすまん」
……うん?もしかして原因はそれ?
「なあ、さっきから目をそらしてるのってそれが原因?」
「そうだよ、良く見てるな、バレるか」
そう言って和希が苦笑するが、こっちはそれどころではない。勝手に向こうが恥ずかしがってると勘違いしてるとか、むしろこっちが恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「どうした? 下向いて。怖かったか?」
「いや、なんでもない! さっきの件とは関係ないから気にすんな!」
「そ、そうか。それなら良いんだが」
勢いで誤魔化す。和希はこんな状態になってまだ気が動転してると理解してくれたのか、それ以上の追及はされなかった。ありがたい。今答えると変な答えを返してしまいそうだ。
「それじゃ、俺は寝るよ。何かあったらすぐ呼んで大丈夫だからな」
「ありがとう、恩に着るよ。おやすみ和希」
そう言ってリビングから出て、自分の部屋へ向かう。パジャマに着替え、限界までズボンの紐を締めて布団に入る。……何故か、和希と一緒の家で寝ていると思うと変な気分になる。大丈夫、これは久しぶりに泊まるから少しテンションがあがっているだけだ。そう自分に言い聞かせ、深い事を考えてしまう前に寝る事にした。
気づくとリビングに立っていた。和希は居らず、家も今に比べて心なしかきれいになっている。体の制御は効かず、特に面白いとも思えない恋愛ドラマを眺めている。すると何の前触れもなく突然心臓が苦しくなり椅子から落ちて倒れこむ。そのまま何も出来ずに意識を失った。
部屋に朝日が差し込み目が覚める。……夢か。不思議な夢だった。まるで過去の誰かを追体験しているような……
「いや、まさかな」
頭の中に浮かんだあまりにも非現実的な考え方を振り払い、リビングへ向かった。
「おはよう」
「おう、おはよう。コンビニで朝ごはん買ってきたぞ」
「わざわざ買ってこなくても自分で行ってきたのに」
「お前、今の体じゃ行けないだろ」
「そうでした……ありがとう」
うっかり忘れそうになる、憂鬱。少なくとも服は買わないと駄目だ。
「とりあえずこれからしばらくの食事に必要な物は昨日のうちにamaz○nで注文しておいたから、もう大丈夫」
「あいよ、といってもこれからどうするんだ?」
何をするか、うーん……ここはやっぱりアレだな。
「現実逃避でゲーム」
「お前それで良いのか?」
和希が帰ってからPPOへログインする。就職クエストはお使いの部分まで済ませてあるので、入ってくるのを待っている間武器を選ぶ。アタッカーがフルに性能を発揮できる武器は近接武器がほとんどで、片手剣や槍や斧など様々な種類があるが、自分は大剣を選ぶ事にした。
理由はいくつかある。まずは元々重めの武器が好きな事。次に大剣は移動速度が遅くなるので慣れない体でも落ち着いて扱える事。最後に体が小さいので少しでもリーチを伸ばしたい事。これらを考えた結果のチョイスである。
「ムーン、お待たせ。武器は大剣か」
「ああ、他のゲームでも扱いなれてるしな。……なんだ、その微妙な目は」
「いや、その小さい体に大剣背負ってるのちょっとアンバランスだなと思って」
そう言われ周りを見ると微妙に注目を集めているのが分かった。うん、変に目立つのも嫌だしさっさと移動しよう。
「行こう。さっさとクエスト終わらせたいわ」
「了解」
指定されたフィールドは広い草原で、空にはきれいな青が広がっている。就職クエストはここで指定された敵を一定数倒せば良いらしい。ちなみに和希のウィザードへの就職クエストも兼ねているので、倒す数は2倍である。どうせ相手は雑魚だからと意気揚々に始めた……のだが。
「くっそ当たらねえ!」
「もっと近づかないと当たらないぞ。ビビりすぎだ」
「体の制御が上手くいかないんだよ!」
絶賛大苦戦中である。自分では距離を詰めたつもりが、歩幅の違いで思ったより移動出来ずに当たらないのでイライラする。なるほど、PPO運営が体格の変更を不可にする訳である。ちなみに和希のクエストは速攻で終わった。
「ムーンがウィザードにした方が良かったんじゃねーの?」
「うるせえ俺はアタッカーがやりたいんだよ! ああ当たらない……」
結局終わるまで2時間近く掛かり、終わった頃にはすっかり疲弊していた。ただ、なんとか就職クエストは終わらせる事が出来た。
その後、俺たちは街の食事処へ向かった。ここはゲーム内マネーで食事が出来る場所だ。全員が自由に会話出来るフリースペースの他、少しお高いが個室を借りれば他のプレーヤーが入ってこれない個室空間も利用することが出来る。今回は色々事情もあるため、割り勘で個室を借りる事にした。
手続きの間外で待っていると、女の子に声を掛けられた。
「ムーン……あっ、ごめんなさい! 名前が同じだけの人違いでした!」
その顔は、学校で良く見知った顔だった。というかムーンなんて名前良く居るんだから確認してから声掛けろよ。バレるとマズいので適当に誤魔化す。
「あ、大丈夫です。気にしないでください」
「おーいムーン、チェックイン出来たぞー」
「あれ? ヤマトだ。あれ、ってことはムーンは? でも女の子だし……」
ああもう面倒な事になった!
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