第3話 学校、会社への準備

私は、父の案を全力で否定した。


「そんなこと絶対無理でしょ!第一私、お父さんの会社のことなんて何にも知らないししかもそのなんちゃら会議みたいなの重要なんじゃないの?」

「まあ、確かに重要な会議だ。だけど発言してもらいたい内容のカンペは渡すし出席しないよりはお前が出席したほうがマシだろ。あと、会社の事とか困った事とかは秘書の鈴木になんでも聞いてくれなんとかなるから」


父は、私を会社に行かせるつもり満々だった。

私はそれに必死に反論する。


「ええ!そんな社長なんてできないよ!第一お父さんも学校なんて行けないでしょ!やっぱり休もうよ!」

「学校なら任せてくれ。なんとかするから」


(マジでこの人お互いの人生を歩むつもりだ!)


「ええ、でも…」

「もう、学校の時間だし俺の会社のミーティングも始まる。咲希今日は頼んだぞ。こっちも学校なら任せろ」


私に拒否権はなかった。

そして、今日からお互いの人生を歩むことになった。



「じゃあ、お父さん。私今日から体が戻るまでで飯島直希になるから伝達事項とかない?」


私は、父の飯島直希を演じる覚悟を決めた。


「そうだな、とりあえずスマホとかpcとかの色々なパスワードとかは今紙に印刷して渡す。そして、社員の顔写真付き名簿も今日の会議で発言してほしいカンペに挟んでおく。それ以外にわかんないことがあったら秘書の鈴木に聞いてくれ」

「分かった」


私はすんなり返事をしたが社長なんてこなせるわけがないと思い心臓がバクバクだった。


「咲希からは、何か伝達事項ないか?」


伝達事項か…。挙げたらキリがない。だけど時間はないし絞って言うしかない。


「とりあえず、学校では目立たず大人しくしてて…。あと違和感ないように勉強して。あとは友達の梨沙には優しくして…」

「よし、それだけか?」

「あと、驚かないで…」

「うん…?まあ分かった」


父は、私の言葉の意図が読めていないようだったがとりあえず伝えたいことは簡潔に伝えられた。

正直、私が社長を演じるより父にいじめられてる学校生活を知られるほうが数倍嫌だった…。


父と話し合っていると、洗い物をしていた母が喋り出す。


「もう、どうするか決めたの?もうどっちも時間なんじゃない?早く2人とも着替えたら?」


母は入れ替わっていることを受け入れたのか妙に冷静になっていた。

母のその言葉で、私たちは着替えようとお互いの部屋へと足を運んだ。

もちろん、恥ずかしいので父には着替えてほしくなかったがこの際どうにでもなれという気持ちだった。


父の部屋に入ると書類の山でいっぱいだった。

そこで、ワイシャツを着て背広を羽織る。


でもネクタイの結び方が分からない!


私は、急いで父を呼んだ。


父は、もう高校の制服に着替えていた。


「お父さん、ネクタイの結び方わからない。あと持ち物もわからない」

「ちょっと待ってろ」


父は、急いで私のネクタイを締め父の普段の仕事用具をビジネスバッグに詰めた。


「ほら、これでいいだろ!パスワードの紙とか会議のカンペも入れといた。あと、今日の時間割はこれでいいのか?」

「ありがとう。うん。時間割は合ってる」

「よし、行くか」


2人で別々の姿で玄関へと向かう。


そして、私は父の革靴、父は私のスニーカーを履き準備万端をなった。


玄関前にはもう社長の迎えの車が止まっていた。


「健闘を祈る」


父が私の姿でそう一言言うと私のいつもの通学路を後髪を靡かせて歩いて行った。


(何気にこんなにお父さんとじっくり話したの久しぶりだな)


そう思いながら私は玄関前に止まっている黒い高級そうな車へと乗り込んだ。


こうして、私と父お互いの入れ替わり生活が始まった。

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