第2話 家族会議

その大声で、母が大急ぎでキッチンから駆けつけてくれた。


「どうしたの、お父さん!」

「お、お父さん?やっぱり私お父さんに見える?」

「私?何言ってるのお父さん、そりゃお父さんはお父さんに見えるよ」


母は真面目に答えている様子だった。

そして、母が私にいつも向けている視線とは違った。


(お母さんは嘘を付いていない…)


そう確信した。


「どうした?」


そう言って後ろから現れたのは私だった。


「えええ!私がいる!!」


私は、驚いた。

それは、鏡や写真以外で自分の姿を見たんだから…。


「あ、咲希おはよう。さっきからねお父さんがおかしいの」


母は後からやってきた私の姿をした何者かに話しかける。


「えええ!俺がいる!!」


私の姿をした何者かは、私を指さしてそう叫んだ。


「え、咲希までどうしたの?俺なんて言っちゃって大声出して」


母は混乱していた。


私も、混乱していた。

そして、一旦頭を落ち着かせこの状況を整理した。

私の姿をした何者かは私を見て俺と言っている。そして、父の姿をした私は私の姿をした何者かを見て私と言った…。


つまり、私と父は体が入れ替わった!


そして、私は私の姿をした父に指をさして確認する。


「あなたは、飯島直希!飯島咲月の夫で飯島咲希の父!」


私はそう言うと私の姿をした父は黙って首を縦に振り納得した様子だった。


そして、父も聞き返す。


「と言うことはお前は、飯島咲希!飯島咲月と飯島直希の娘か!?」


私は黙って首を縦に振った。


本当に私と父は体が入れ替わっていたのだった。


その確認合戦を見て母は目を大きく開け固まっていた。

まだ状況が掴めていないようだった。

無理はない。


「つまり、私とお父さんの体はなぜか知らないけど入れ替わっちゃったの」


私は頭では混乱していたが妙に冷静に母に説明できた。


「もう、2人とも冗談はよしてよ」


母はその説明を聞くと笑いながらそう言った。


その様子を見て私の姿をした父は口を開いた。


「飯島咲月。20歳の頃大学で飯島直希と出会い交際をしてからそのまま結婚。うちももにほくろが2つある!」


それを聞いた母は怒っていた。


「うちももにほくろが2つあるのはお父さんしか知らないはず、なんで咲希がそのことを!?お父さんバラしたわね!」


そう言うと私が母に睨まれた。

(そうか、今は私がお父さんの姿をしてるのか)


そして、父は多少声を荒げて反応した。


「今はこの姿だが、俺が本当の飯島直希だからわかるんだよ!信じてくれ!」


しかし、母はまだあっけれかんとしていた。


私もそれに対抗した。


「じゃあ私も。飯島咲月、私のお母さん。この前の数学のテストで私が30点を取り不機嫌になっていた!」


「なんで、お父さんがそのことを?と言うことは…本当に入れ替わってるの?」


私と父は黙って頷いた。

それを見た、母は意気消沈していた。

信じられないのも無理はない。


私も信じられないのだから。


そして、気力がなくなっている母は一言言った。


「とりあえず、朝ごはん食べようか…」


そう言われると、私と父そして母は無言で洗面所からダイニングへと向かった。

母は、ヨロヨロしながら歩いていた。


テーブルにはトースト2枚とバターそしてウインナーが朝ごはんとして用意されていた。


みんなイスに座ってとりあえず落ち着く。

そして、無言で朝食をとり始める。


いつも通り会話がなく食器の音だけがダイニングに鳴り響く。

しかし、今日は母が私の姿をした父に向かって話しかける。


「あ、あなた本当にお父さんなの?」

「だから、そう言ってるだろ」


父はトーストを頬張りながらやや苛立った様子でそう答えた。


「じゃあ最終確認。お父さんが私にプロポーズした場所覚えてる?」


続け様に母は父に不安そうに確認した。


「お台場で婚約指輪渡したろ、ちゃんと覚えてるよ」


父はウインナーを食べながら簡潔にそう答えた。


(え、お父さんプロポーズした場所お台場だったんだ…)


新たな発見をしたが、自分の声で喋られるとすごい違和感だった。


「ほ、本当に咲希がお父さんになっててお父さんが咲希になってたんだね…」


母は、確認を終えると落胆していた。

その様子を見て朝食を食べ終わった父は母に喋りかける。


「しょうがないだろ、俺たちだって入れ替わりたくて入れ替わったわけじゃないんだし…」

「そうよね」


母は納得できている顔ではなかったが納得しようとしていた。


「ちょっとトイレ行ってくるな」


父はそう言う。


(ト、トイレ!?!?)


私の姿で父がトイレに行くと言うことは…。

見られちゃう!!!


「お父さん!ちょっと待って!!!」

「なんだ?」

「お願い!トイレとお風呂だけは行かないで!」


私は、父を全力で引き留めた。


「んなこと言っても漏れそうなんだから仕方ないだろ」

「ちょっと!」


抵抗は虚しく父はそのままトイレに行ってしまった。

私は、恥ずかしさのあまり気が狂いそうになった。


しばらくすると、父はトイレから戻ってきた。

そして、イスに座り新聞を読みながら一言つぶやいた。


「これからどうする?」


至極当たり前な質問だった。

その質問で、恥ずかしくて気絶しそうだった私は我に帰った。


「戻るまでお互い休む?」


私はそう提案する。

しかし、父はその案は飲めないと言わんばかりの顔で喋り出した。


「んー実は今日大事な経営戦略の会議があるんだ。だからそれを欠席するわけにはいかないな。咲希お前も、お母さんから聞いたけど出席日数危ういんだろ」

「ま、まあ」

「じゃあ、もう俺は学校に行く。そして咲希お前は会社に出勤する。この選択肢しかないな」


予想はしていたが一番最悪な選択肢だった。

(私の学校での生活がバレちゃう!)

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