第12話 何だか謝られた

 俺は城を出てから川沿いの山道を進んでいた。もっとも山道といってもそこまではっきりとした道はなく精々獣道がある程度といったところか。


 その途中で出くわした盗賊も返り討ちにし所持していた貨幣を路銀の足しにすることとした。


 それから暫く歩いていると小さな気配を感じた。見るにネズミがついてきているようだ。

 

 とは言え俺は暗殺者であって狂人ではない。ただついてきているだけのネズミをむやみに殺したりもしない。

 

 俺に危害がなければ放っておくだけだ。そのまま進んでいくと樹木が折れてる場所についた。


 へし折られたといったことか。だがこれぐらいなら――俺は手刀で断面を滑らかにし切り株にした。


 更に周囲の木々になってる果実に目をつける。水を汲みに行ってもいいが果物なら食事と水分を同時に摂れて合理的だ。


 地面を蹴り五メートルほど飛んで果実を幾つかもいだ。


 切り株に腰を掛けて小休止をする。果物は酸味が強かった。元いた世界のような品種改良されてない果実だ。糖分はやはり落ちるのだろうが腹に入れば問題ない。


「やめておいたほうがいいぞ」


 最後の一つを眺めながら背後に向けて言った。近づいてきているのはわかっていた。


 随分とでかい。俺は背中を向けていても相手の大きさや形がなんとなくわかる。


 これはきっと熊だろう。異世界でも熊の形にそう違いはないようだ。体長は約五メートルといったところだ。


「グォオォオオォオオオオオオ!」

「やれやれ」

「ォ?」


 忠告はしたんだが聞き入れてはもらえなかったようだ。仕方ないので振り向きざまに放った蹴りで首をなでた。


 ついでに詳しく見たが赤毛の熊だった。凶暴そうな顔だったが何もさせなかった。首がぱっくりと裂かれ大量の出血を吹き上げながら後ろに倒れていく。


「殺った以上、有効活用させてもらうか」


 殺した熊の毛皮を先ず剥いだ。その後は適当に植物を加工し丈夫な紐にした上で弾性のある木に熊を吊るし血抜きを始めた。


 毛皮も余分な脂などは取り除き天然の紐を利用して干す。熊の肉は夕食に丁度いい。


 毛皮は簡単に加工して風呂敷にでもするか。ただ肉をそのまま入れると匂いがつく。果実の汁やハーブをニオイ消しに利用するか。


 食用にするにしてもその方が食べやすいだろう。


 どちらにしても処理のためにもう少しここで休む必要があるか。

 

 改めて切り株に座って処理が終わるのを待つ。ふと何かが近づいてきているのに気がついた。


 それなりに数が多い。間違いなく人間だな。しかも相手は俺に近づいてきている。迷いがない。


 こっちの位置を把握しているか。なるほどあのネズミか。元の世界でも動物を利用するのはいたものだが、機械の手も借りずネズミの後を追ってくるなんてね。


 それがこの世界のスキルの効果なのかもしれない。この世界で生きていくならスキルについてもう少し情報が欲しいところでもあるか。


 そんなことを考えつつ相手の出方を待っていると、そのうちの一人が近づいてくるのがわかった。


 これだけいてやってくるのは一人か。様子見のつもりか。しかし妙だな。控えてる面々からは多かれ少なかれ殺気を感じるが近づいてきている一人からは全く感じられない。


「……誰?」


 まだ発音は完璧じゃない為、短文で質問した。


「俺は盗賊団【※※※※※】の頭だ。仲間の死体を見つけたがあれをやったのはお前か?」


 相手の言っていることはもう何となく理解できた。盗賊団のあとにつけていた名称までは把握出来なかったが特に問題ないだろう。


 重要なのは盗賊団の下りか。きっと先に返り討ちにしたあいつらの仲間だろう。


 つまり仇討ちということか。にしては――頭の様子がおかしいが、とにかく答える。


「――そうだ」


 頭が眉を顰めた。恐らく俺の発音に違和感を覚えたのだろう。


 とはいえすぐに表情を変えたかと思えば――


「あんた――その節は仲間がとんでもないことをしでかし本当に申し訳ありませんでしたーーーーーーーー!」

「「「「「えぇええぇえええぇええぇええ!?」」」」」


 いきなり謝罪をうけてしまった。立膝の状態で地面に頭を擦り付けて許しを乞うてきている。これには他の仲間が随分と驚いていた。


 つまりこの行動は頭が独断で行ってるわけか。しかし土下座とは違うがかなり近いな。これがこの世界の謝罪方法か。


 しかしいきなり謝罪されるとはな。さてどうしたものか――


あとがき

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