第11話 頭の予感

 ゴーガンたちは仲間の死体があった場所に先ず向かい、そこからターゲットの後を追うことにした。


 幸いゴーガンの仲間には小動物限定だが使役できるスキル持ちがいる。ネズミを利用し既に目星は付けさせているということだった。


 後は仲間の案内で舐めた真似をしてくれた奴に報復するだけだ。


「それにしても酷い有様だね」

「……あぁ。そうだな」


 仲間の死体を見てミトラが眉を顰めた。ゴーガンも言葉では同意したが同時にどんな奴かが気になっていた。


 なぜなら殺し方が鮮やか過ぎたからだ。恐らく仲間たちは反撃などする暇も与えられず瞬殺されたことだろう。


 下手したら殺されたことにも気づいていなかったかもしれない。傷口も鮮やかなもので人を殺すという事に全く躊躇いが感じられない。


「ひでぇよ頭。こいつ娘がいたってのに……」


 少し離れた場所から呼ばれゴーガンが様子を見に行った。仲間の足元には眉間を矢で射抜かれた女盗賊の死体が転がっていた。


 しかもこの矢、明らかに仲間が所持していた物だ。弓は握ったままだった。その状態で死んでいる。


 眉間に刺さった矢が同じであることを踏まえると矢はこちら側から先に射った可能性が高い。


 その矢を利用して反撃――ゴーガンは考える。相手は弓使いか? だがさっき転がっていた死体は明らかに鋭い刃物で殺られたものだった。


 相手は剣などの刃物を扱い同時に弓も使うのかもしれない。だがゴーガンはどこか違和感を覚えていた。


 どちらにしても――母親が殺されたのは確かだ。娘はセラという。現在十三歳であり盗賊行為には加わっていないが母が殺されたと知ったらどんな顔をするか。


「あんた! 殺す前にセラの目の前に突き出してやろうよ」

「うん? あぁ、そうだな……」


 ミトラの提案にゴーガンが相槌を打つが、これほどの手練を相手にそんな余裕があるか。勿論彼にも頭としてのプライドがある。


 それ相応の修羅場も潜ってきたつもりだ。遅れを取るつもりはないが――と、ゴーガンは改めて気を引き締めた。


「とにかく追うぞ」


 仲間たちを促しゴーガンは先を急いだ。仲間が使役したネズミの後を追いかけゴーガン一行を先導した。


 そもそも追いつけるかが心配でもあったがどうやら対象は途中で足を止めているらしい。


「頭、あいつですぜ」


 ネズミを使役した仲間に言われゴーガンも相手を確認した。


 ターゲットは切り株に腰を掛けていた。ぱっと見は随分と若い、というよりもゴーガンからみたらどこか幼さの残る少年といった印象だ。

 

 こいつが仲間たちを? と疑問符が頭に浮かんだのも束の間、ゴーガンは少年の側に何かが吊るされていることに気がついた。


「あんた。さっさと片付けてしまいましょうよ」

「そうですぜ。全員で一気に――」

「いや、ここは先ず俺が行く」


 ミトラや他の仲間が息巻く中、ゴーガンは決意めいた顔でそう言った。


「いいか。お前たちはこれから何が起ころうと手を出すな。全て俺がケリをつける」

「あんた……」


 ゴーガンの表情からミトラは何かを感じ取ったようだ。


「この人の言う通りにするよ。あたいらはここで控えてるんだ。いいね?」

「へ、へい」

「頭バッチリ決めてきてくだせぇ!」

「……あぁ――」


 仲間や妻の期待を一身に背負いゴーガンが少年に近づいていく。


「……誰?」


 少年が一言そう聞いてきた。発音がどことなく辿々しい気はしたが、気にせずゴーガンが口を開く。


「俺は盗賊団【猛牛の群れ】の頭だ。仲間の死体を見つけたがあれをやったのはお前か?」


 ゴーガンが先ずそれを確認した。この状況で間違いはありえないと思ったが念のためだ。


「――そうだ」


 少年は一言だけそう返してきた。直後その目に鋭い光が宿る。ゴーガンはゴクリと喉を鳴らしつつ少年に向けて行動に移る。


「あんた――その節は仲間がとんでもないことをしでかし本当に申し訳ありませんでしたーーーーーーーー!」

「「「「「えぇええぇえええぇええぇええ!?」」」」」


 なんとゴーガンの取った行動はこれでもかと言えるほどの見事な謝罪だった。それを見ていたミトラや仲間たちの声が重なり、少年もまた目をパチクリさせていた――

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