第8話 俺は別にサイコパスではない
「へぇ――」
豪快な剣が背中から振り下ろされた。野獣の如く一撃に僅かながら感心した。
「いいね。まさか王のあんたが一番まともな攻撃を繰り出してくるとは思わなかったよ」
最初に戦った騎士のようにわざわざ前置きなどしない。問答無用で斬りかかってきた。中々の豪剣だ。
普通なら避けるところだが解放した今の腕なら難なく受け止められる。
「貴様、我が剣を片手で受け止めるだと? 一体何者なのだ――」
信じられない物を見るような目で問われた。何者と言われてもな。
「俺はただの暗殺者だよ」
答えつつ刃を折り、そのまま王様の喉に突き刺した。
砕けた剣を構えたまま、その身が震え血反吐を撒き散らして王が倒れる。
「まさ、か、こんな、化け物を、呼び出して、し、ま、うと、は――」
その声は段々とかすれていき目の光も失われていった。王様は死んだ。
「さてと」
「ヒィッ!」
残ったのは姫だけだが――こっちに尻を向けながら情けない声を上げて逃げようとしていた。
「どこに行く気だ?」
「嫌――」
王女の正面に移動すると化け物を見るような目を向け尻もちをついたまま後退りを始めた。
最後まで戦おうとした王とは真逆だな。中々に見苦しい。
「あ、そ、そう! 素晴らしい! やはり貴方は思った通りの方です! 貴方こそこの国が望んだ救世主! どうか私と一緒にこの国をお守りください勇者様」
「……勇者ならもういただろう」
まぁ高橋は結局俺が殺したが、自分の身が危ないと考えて俺を勇者ということにして何とか乗り切ろうと思ったのか節操がないな。
「あ、あんなのは偽物ですわ。その強さを見ればわかります。貴方こそが勇者に相応しい!」
「あっそ」
「へ?」
もう十分だと思い、左手でその頭をチョップした。掌が頭にめり込み王女が間の抜けた声をあげ黒目が上を向いた。
「あ、ふぇ、こぼ、ぢ、るぇ――」
頭が凹んだままの姿で王女が倒れた。出血もないが粘土のように頭が凹んでは生きてはいないだろう。
「俺を殺そうとした相手だ。容赦する理由がないだろう」
この手のは下手に生かしておいても面倒なことになるだけだ。
さて、目につく限りで殺そうと思った相手は殺しきった。ふと見ると柱にもたれ掛かるようにしている委員長の姿。
呆然としているな。近づいて声を掛けようかと思ったが俺を見てビクッとその身が震えた。
「……私も、殺すの?」
狼狽した様子で俺にそんな事を聞いてきた。俺としては意味の分からない質問だった。
「どうして? 委員長は俺に殺されるような事をしてたの?」
「え? いえ、そんな覚えはないけど……」
そう答えつつも周囲の死体に一瞬目を向けすぐに背けていた。
そうか……この状況じゃ自分だけが殺されないわけないと考えてもおかしくないか。
「大丈夫。俺は暗殺者として育ったけど理由もなく目につく相手を全て殺して回るようなサイコパスでもない」
俺の答えに委員長が目を白黒させていた。
「じゃあ、他の皆は理由があったということ?」
「そう。俺には虐められっ子になり切るという課題があった。だけどそれと同時にもう一つ、卒業した暁には虐めに加担した相手を全て殺すこと――そう言われていた」
だから遅かれ早かれ委員長以外の全員は俺に殺される運命だった。本来は卒業まで待つつもりだったが異世界に召喚された以上その必要もなくなったわけだ。
「つまり私以外の全員が虐めに加担していたってこと?」
委員長が信じられないといった様子を見せる。そこまでとは思ってなかったようだ。
実際どのレベルまでを虐めと見るのかは難しい話かもだが、例えば見て見ぬフリをする程度なら殺しまではしなかっただろう。
だが、委員長以外は総じてネット上に悪口を書き込んだりどういう甚振り方が面白いかなどを書き込んでいた。
当然俺はその手のやり取りも全て監視していた。だから殺した。
「……こっちの世界の人を殺したのは?」
「向こうが俺を殺そうとしてきたんだから当然だろ?」
逆に聞き返す形になったけど、暗殺者の俺からしたら殺しに来た相手を返り討ちにするのは当たり前のことだ。
「……とにかくこれでやるべきことは片付いたし俺はそろそろ行くよ」
「え? 行くってどこに?」
「特に決めてるわけじゃないけど、地球に戻ることも出来ないようだからな。俺はこっちの世界での身の振り方を考えてみるよ」
地球に戻ることは既に考えていない。戻れないという点に関しては恐らく本当なんだろうと考えているし、正直無理して戻ることもないかなとそう思う。
将来は自分も暗殺者として生きて行くんだろうなと漠然と考えていた。そもそも既に家業も手伝っていた。
家族は俺を、暗殺者として生きていくために生まれたような逸材とまで語っていた。だけど、こうやって別の世界に召喚されたことで別な生き方にも興味が湧いた。
異世界に来ておいて何だが、ようやく普通の生活が出来るかもしれない。
その一点だけは召喚したこの国に感謝してもいいのかもしれない。
「みんなすぐにこの状況を受け入れるんだね。それが私には信じられないよ……」
「う~ん。そこは多分皆と俺は違うかな。他の連中は恐らくここにいた誰かの能力で、この状況を受け入れるように誘導されていたからな。洗脳に近いか」
「え! そ、そうだったの? でも私はなんともないし、それにその言い方だと鬼影くんは?」
「あぁ。俺、そういうの効かないからね。委員長も跳ね除けたみたいだけど、それが精神力の賜物かそれともあの姫が言っていたスキルの効果なのかはわからないかな」
「うぅ、本当わけがわからないよ」
委員長が頭を抱えていた。とは言え、俺たちはもう異世界に召喚されてしまった。それは変わりようのない事実だ。
「これから私は一体どうしたら……」
「それは――委員長自身が考えるしかないんじゃないか」
「……うぅ、こんな突然召喚なんてされて……て、そういえばこの状況!」
委員長があわあわしだす。確かにこのまま残っていたら委員長が怪しまれるか。
「それなら俺はこのまま出ていくから、やったのは俺だって素直に言ってくれていいよ」
「え? で、でも……」
「信用されるか気にしてるなら大丈夫だと思うぞ。恐らく死んじゃったけど王様とか姫とかこっちの人数は把握していただろう?」
「う、うん。最初に人数も言っていたし」
だろうな。何となくそんな気はしていた。
「その事は城中に伝わってると思うから一人足りないことには気づくと思う」
全員殺したし燃やしたのもいるけど形は残してるし人数の確認は可能だろう。
「それに委員長はすぐ死ぬようなことはない。そこは安心していいよ」
「えぇ……」
委員長は戸惑っていたけど、暗殺者の家系で育った俺は近く死にそうな相手はわかる。そういう奴には死相が見えるからだ。
委員長にはそれがない。
「じゃあ今度こそ行くよ。委員長も元気でね」
「……うん。私も何とか頑張ってみる。でもね、私は元の世界に戻る事を諦めないよ」
最後に委員長はそういった。目標を持つのは大事なことだ。生きる糧にもなる。
さて、俺は近くのダクトに潜り込みそこから適当に移動して城の外に出た。
ここから俺の異世界での新生活が始まるわけだが、まぁマイペースで生きてみるか――
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