第24話  ~㉔~ 

 日曜日になった。

 目覚ましの鳴る音で、今日はバス釣りにいく日だったなあと気づいた。普段、学校にいくときはなかなか起きないのに、こんなときだけは、眠い目をこすりながらも起きるんだ。

 俺はいいロッドや、リールがほしいなあと思いながらも、最初に買った安いやつを使い続けていた。ルアーだって新しいのは買っていない。なにしろこのあいだ買ったワームがよく釣れるんだもの。

 早朝のよくすいている道路を、全速力で自転車を飛ばしてみた。

 前を見ると、ナオがいた。

 自然とナオとため池まで競争のようになった。

「俺、今、おならしたよーん。音、聞こえなかったあ?」

前をいくナオが、またふざけたことをいっている。

「うるせー! 絶対ぬいてやる!」

俺はペダルに力を入れて、全力でこいだ。

 勝負はナオの勝ちだった。

ナオは走るのも速いからか、やっぱり自転車も速かった。俺たちはハアハアと息をきらせて、その場にへたり込んだ。

「ア、アキオが俺に勝つなんて百万年はえーよー。ハアハア」

「なんだとー。つ、次は絶対勝つからなあ。ハアハア」

次に競争したら絶対に俺が勝つと思いながらも、足がしびれてしばらく動けそうになかった。これじゃあ勝てそうにないや。

「おまえら。こんな朝早くから何やってんだよ。ほら、もうみんなきてるぞ。早く仕度して釣ろうぜ」

ジュンちゃんは釣りを中断して、俺たちのとこにきて、そういった。

 アッちゃんも、ソウタも、先に釣っているみたいだった。遠くの方に二人が見える。

「アッちゃんはなんと、一匹もう釣り上げたぞ。ソウタは一回バラした。今日はなんか調子いいぞ。おまえらも早くした方がいいぞ」

そういうと、ジュンちゃんは釣りに戻った。流れ込みをねらってるらしかった。

 本当に今日はよく釣れる日だった。少し曇った感じの空をしているからなんだろうか? あれからジュンちゃんも、ソウタも、一匹ずつ釣った。ソウタの釣ったのは結構でかかった。

 俺と、ナオだけ、まだ一匹も釣れてないので、二人でふてくされていた。今日は不思議とナオと馬が合う日だったんだ

 俺はワームの使い方もだいぶん慣れてきた。ブラックバスのいそうなところ、例えば立木が見えてるとこなんかに、そっとワームを落とすんだ。その落とした瞬間にバスがかかることが多い。

 いつかこのため池で、雑誌にのってるようなボートで釣ってみてえと思いながら、ぼんやり釣っていた。ぼんやりしていたからかどうかわかんないが、今日はもう二回もバラしていた。あわせるのはまだ難しい。ちゃんとあわせたと思ったのに、バレるときはバレるんだ。

 ナオも結局釣れなかったみたいだ。

 帰るときになって、とめてある自転車の前で、みんなで集まってちょっと話をしていた。最初はバス釣りの話をしてたけど、結局みんなの恋バナになっちまってた。

「ぼく。ここに宣言するよ」

ソウタが手を上げて、いきなり何かをいい出した。

「トモちゃんに、今週、ついに俺、コクることに決めたんだ」

俺は、「はあ、何いってんだ。ソウタのやつ」と思って、バカなこといってんなあって顔してた。けど、みんなは違っていた。

「おおー。すげえ。ソウタやるなあ。がんばれよ。ソウタ」

と、アッちゃんはマジでテンションが上がっている。

「おまえが泣くとこも期待してるからなあ。ソウタ。そういやアッちゃんもこのあいだ成木田さんにふられてたよな。やっぱりアッちゃん成木田さんねらいだったんだな」

ジュンちゃんはアッちゃんのことをおもしろおかしくいい、アッちゃんの肩をぽんぽんと叩いた。

「うるせえー! ふられたわけじゃあねえって。別にねらってるわけでもねーし」

と、アッちゃんはジュンちゃんの手を払っていった。

「なんだよ。何マジになってんだよ!」

と、ジュンちゃんはびっくりしている。

「まあまあ。お二人さん。まあ、いいじゃあねえかあ。それよりアキオ。アキオはどうなんだよー。斎藤さんねらいなんだろー? がんばれよーん。アキオもさあ」

ちょっとさっき空気が変になったけど、こういうときナオがいてくれると助かる。けど、それで俺をいじってくるってえのはどうなんだよ?

「違うって。サヨカちゃんは関係ねえって」

「じゃあ。宮中さんはやめといた方がいいみたいだぞ。ライバルが多いんだそうだ。まあ、おまえには無理だと思うからさ」

と、ジュンちゃんが決めつけたようにいう。

「だから、宮中、いや、アオイちゃんも、何も関係ねえって」

「アキオ。そんなこというなよ。ぼくと一緒にコクろうよ」

「バカか。ソウタ。そんなことできるわけねえだろうが!」

サヨカちゃんにも、アオイちゃんにも、コクるだなんて考えたこともないよ。ソウタは、罪のない顔をして、よくそんなことがいえるなあ。

 アッちゃんはずっと黙ったままだ。

 しかし、アッちゃん、成木田さんのこと、やっぱりマジだったんだな。あのとき以来、アッちゃんは英語の勉強をがんばっていた。いつもなら垣谷先生にあてられると、「わかりません」っていってたのに、今はがんばって答えようとしていた。

 ソウタは俺にとっちゃ宇宙人みたいに思える。コクるだなんて、その積極的さはすげえよ。まあ、相手があのトモちゃんなら、いい結果は難しいとは思うけどなあ。

 俺もちょっとはがんばらないとなと、自転車のペダルに足をのせた。

帰りはゆっくりとこいだ。サヨカちゃんや、アオイちゃん、成木田さんや、トモちゃん、占い部やクラスの女子たちの顔が、浮かんできては消えていった。

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