第17話  ~⑰~

 放課後、俺とサヨカちゃんは、四組のカヨちゃんたち三人に、さっそく部員が集まったことを、報告しにいくことにした。

 帰る人や、部活にいく人でごったがえしている。

 四組にいこうと、廊下を歩いてると、向うからカヨちゃんたち三人がやってきた。

「今からそっちへいこうとしていたのよ。実はうれしい報告があるの」

「そうだぞ。すげえんだから」

「そうなの? 私たちも今からそっちへいこうと思ってたの」とカヨちゃん。

「えっ。何々? うれしい報告?」とナミちゃん。

「ええー。なんだろ? トモ、すっごい気になるんだけどー」

三人はほぼ同時にしゃべった。顔にうれしいと書いてあるような、好奇心いっぱいの表情で。俺たちにさっそく話せといっているふうに。

「じゃあ。サヨカちゃん。いつものように二組で部活しましょ? 話はそこでね」とカヨちゃん。

「ええ。じゃあ。みんな、いつものように二組の私の席にいって話そうか?」

「そっ、その前に、すっごい気になるー」とトモちゃん。

「なんなのよ。うれしい話って。早く教えてよー」とナミちゃん。

「そうね。それは二組にいってからのお楽しみね」

「そうだぞ。内緒なんだよ。内緒」

「あははは。内緒ってのはおかしいよ。アキオ」とナミちゃん。

「そうだよ。どうせ後で話してくれるんでしょ?」とトモちゃん。

「うるせーなあ。今はって意味だろ?」

三人は声を立てて笑った。サヨカちゃんもくすっと笑っている。

 また俺はいじられてしまった。まあいいかと、俺も頭をかいて笑った。

 サヨカちゃんは二組に入ると、すっと自分の席に腰を下ろした。俺たちも周りの開いている席をかしてもらい、座った。いつも俺はサヨカちゃんの前で、残りの三人はその横の席に座る。この時間になると、教室に残っているものは少なくていい。

 カヨちゃんたち三人は、サヨカちゃんが話し出すのを、今か今かと待ちかまえている。

 ナミちゃんが「で、話って何よー」っていっても、トモちゃんが「だから話って何?」っていっても、サヨカちゃんはずっと黙って、三人とにらめっこをしている。    

 こういうとき、サヨカちゃんはじらすのが上手い。

「あのさ。実はさ」

やっとサヨカちゃんが口を開いた。

「ふむ」

カヨちゃんたち三人の視線が、何かなあって、サヨカちゃんのプルプルの唇に集中する。

「やっと必要なだけの部員が集まったんだ。二年生の二人がさっき入部してくれたんだ。一人は二年三組の吉川一伽さん。同じく二年三組の小嶋健太朗さん。吉川先輩はダウンジングをやるそうで、小嶋先輩は水晶玉占いをやるそうよ」

「やったー。やっと部員が集まったんだね。話ってなんだろう、悪い話かなあって思っちゃったよー」とトモちゃん。

「よし! やったじぇい。これで占い部を立ち上げられるんだね。イエーイ」

とナミちゃん。

「よかったー。とにかくよかった。しかも部活らしく先輩ができるんだね。なんかそういうのにあこがれてたんだあ」とカヨちゃん。

 三人は本当にうれしそうだ。三人は席を立ち、ナミちゃんはガッツポーズをとり、トモちゃんとカヨちゃんは手を取り合って、くるくる回ってダンスみたいに踊ってる。

「俺のおかげだってとこもあるんだぞ。感謝してもらわなきゃなあ」

俺はみんながめっちゃ喜んでるのを見てると、なんかいいかっこうをしたくなった。

「んなわけねーだろ? アキオは何もしてねえだろ!」

サヨカちゃんがすかさずつっこんだ。

「だと思ったよ。一瞬、本気にしてしまったじゃん」とナミちゃん。

「何いってんだよ。アキオは。わ、私は、そんなわけねえと思ったけどさ」とトモちゃん。

「アキオって冗談上手いんだね。ほんとに笑っちゃう。あは。あははは」とカヨちゃん。

「ほんとにアキオのやつは。もう。ふふふ。おかしい」とナミちゃん。

「あははは。ほんと笑っちゃうよね。そんなわけねえのに」

と、トモちゃんも笑っている。

「ちぇっ。なんだよ。それ」

間違いない。今まで俺は知らなかったんだが、俺はいじられキャラだ。

 もう何もいわない方がいいんじゃあないかと思ったりもするが、不思議と悪い気はしない。よーし。このキャラでとおそう。ウケてるのか、笑われてるのか、どっちかわかんないけどなあ。

「そういうわけで、近いうちにみんなで石田先生にお願いにいくから、そのときはよろしくね」

「うん。いよいよ本格的に部を立ち上げるんだね」とカヨちゃん。

「そうそう。ナミたちもそういえばタロットカード買っちゃったんだよねー」

「うん。でも英語ばっかりでわかんないんだよね」とトモちゃん。

「そうなんだ。でもそういうのは自分の直感でいいからさあ」

「うん。占いは直感だよ」

「ちょっと。アキオは黙ってて。直感でいいの? サヨカちゃん」とカヨちゃん。

「うん。絵柄とか、そのカードの名前とかで、直感で判断するの。でも最初は本がないとわからないでしょ? 私、一冊くらいならかせるんだけどなあ。三人分はちょっとねえ」

「ナミはもう本も買っちゃったんだよねえ。だから大丈夫」

「私も自分で買うから大丈夫だよ」とカヨちゃん。

「同じく私も」とトモちゃん。

「うん。それなら問題なさそうね」

「どうしたの? カヨちゃん。急にうつむいちゃって」とトモちゃん。

「うん。私ね。わざとじゃないんだよ。わざとじゃないんだけど、気づいたら偶然アキオと同じようなタロットカード買っちゃってて。偶然なんだよっていおうと思って。なんだかそれが一番よく見えたの」

と、カヨちゃんは悪いことをしたみたいに、必死で弁解しようとしていた。

「そうだろ? 俺のが一番いいよなあ。本にも俺と同じのが説明されてるしさ」

「だからね。別にアキオのタロットカードがいいなあと思って、まねしたんじゃあないの。純粋にそれがいいなあって思っただけで、偶然……」

カヨちゃんは顔を赤らめて、少しあたふたとしている。

「わかってるって。カヨちゃん。カヨちゃんがアキオのまねなんてするわけないもんね」とナミちゃん。

「っていうか、最初にそのカードを買ったアキオが悪いよ。きゃはは」とトモちゃん。

「なんで俺が悪いんだよ。別におんなじカードでもいいじゃねえか。なんも気にしねえっつうの。サヨカちゃんだっておんなじの持ってんだし」

「ほんと? サヨカちゃん」とカヨちゃん。

「ええ。ほんとのことよ」

「そうなの? だったらいい。さっきのなし。アキオとじゃあなくて、サヨカちゃんとおんなじカード」とカヨちゃん。

「なんだよ? それ? ったく」

「ところでさあ。サヨカちゃんはタロットカード何に入れてるのー? 箱の中?」とナミちゃん。

「うん。私もそのこと聞きたかったんだよねー」とトモちゃん。

「私は、専用のケース、ポーチに入れてるけど」

「ええー。マジでー。そんなのあるんだー」とナミちゃん。

「サヨカちゃんさあ。もしよかったら見せてくんない? 今持ってたりする?」

サヨカちゃんは無言でうなずき、鞄の中を探しはじめた。そして黒いポーチを取り出した。

 俺も久しぶりにサヨカちゃんのタロットカードを見る。やっぱりいつも持ってきてたんだ。

「わあ。かわいい。月のマーク入ってる」とカヨちゃん。

「わあ。ほんと。感じいいじゃん」とナミちゃん。

「いいなあ。トモもかわいいのほしいなあ」

「いろんなタイプのが売ってるから、一度見てみるといいわ」

「ったく女子は好きだなあ。そういうポーチとかそういうの。そのまま箱に入れておけばいいじゃねえか」

「これはね。カードも傷まなくていいし、カードを浄化する、クリアにする、って意味もあるのよ。カードは神聖なものなのよ」

「だよね。アキオにはわかんないのよ」とナミちゃん。

「そうそう。アキオは箱のままでいいのよ。トモたちはポーチを買うから」

「それはそうと、サヨカちゃん。カードって、やっぱ学校にもいつも持ってこなきゃいけないのかなあ? サヨカちゃんもアキオも持ってきているし」とカヨちゃん。

「そんなことないわよ。別にアキオみたいにそんな厳しくしないでもいいのよ。ただ、カードに慣れるようにはしておいた方がいいわね」

「はあ? 俺が厳しい? どこが?」

「冗談よ。どうせあんたはみんなにみせびらかしたくて、持ってきてんでしょ?」

また三人は声を立てて笑っている。よほどおかしいらしい。ったく、しょうがねえやつらだ。サヨカちゃんまで俺をいじってくるなんてさ。

 もうどんなようにでも、好きにしてくれっていう気分だった。

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