不足

萩谷章

不足

 はるか離れた星から、地球の調査のために調査員が二人派遣された。調査員二人は、精密機器を多く積み込んだ船を月のそばに停め、地球を観察していた。

「いくつも色があって、なかなか綺麗な星だな」

「そうだな。でも、文明はさほど進んでいないらしいぜ。大まかな調査は船からでもできるが、詳しい調査は降り立って行わないといけないから、どうしようか」

「問題はそこだ。文明が進んでいない星には、我々がこの姿のまま行っても攻撃を食らうのが常だ。かといって、『人間』とかいう生き物に擬態しても、どこかで怪しまれるだろう」

 二人はしばらく考え、やがて一人が口を開いた。

「そうだ。文明の進んでいない星には、決まって『神』を信じているやつらがいる。これまでそういった星では、それぞれの星の神に擬態することで、上手くいったらしい」

「どういうことだ」

「神に擬態し、下界に降臨したというふりをするんだ。そして、星のやつらに『しばらくぶりに下界に降りてきたが、どうだ、君たちの世界は上手くいっているか』といったことを尋ねるんだ。すると、色んなことを話してくれる」

「なるほど。上手い方法かもしれんが、神というのは上から見守ってくれる全知全能の存在と聞いたことがある。それなのにものを尋ねるとは不自然じゃないか」

 この疑問に、提案した方の一人は笑いながら答えた。

「いいんだ。文明が進んでいない星は、神を全面的に信じているから、神が何を言おうとそれに疑問は抱かない。そういうものさ」

「そうか。まあ、色々考えるよりやってみた方がいいのかもな」

 かくして、二人が地球に降りてからの調査方針は固まった。そのため、まずは船で行う地球の大まかな調査を進め、その中で神がいるという推測は正しいか、どのような神がいるのかを調べることにした。

 二日ほど精密機器に向かい合い、調査員二人は地球に降り立つ準備が整った。

「地球に神がいてよかった。これで調査は上手くいくだろう」

「どの神に擬態しようか。想定より多くて驚いたが、私はこれなんか面白いと思う」

 そういって、一人が調査資料の中のある写真を示し、それにもう一人が賛成した。

「いいんじゃないか。私もそれは印象深くて気になっていたんだ」

「そりゃよかった。私が擬態して降りよう」

 緊急時のために一人を船に残し、もう一人がついに地球に降り立った。場所は、地球で最も巨大な陸と海に挟まれた、緩やかな曲線を描く細長い陸地である。

 船での調査よりはるかに時間がかかるかと想定されたが、地球に降りた調査員はなんと数分で船に戻ってきた。

「おい、どうした。何か忘れ物か」

 調査員は擬態したまま、深刻な顔をして答えた。

「いやあ、せっかくの計画だが、考え直した方がいいかもしれない」

「どういうことだ。何が問題だったんだ」

「降りたはいいが、やつら、『アシュラだ、アシュラだ』と笑って何やら小さな板をこちらに向けるばかりで、話しかけようとすると逃げるんだ。そのうち、治安維持部隊らしいのが集まってきて、とっ捕まりそうになった。なかなか厄介な星だぜ」

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不足 萩谷章 @hagiyaakira

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