帰宅

 黒いリムジンに乗っている神城は、窓の外に見える一面自然豊かな山景色を見ていた。


 先日は高級ホテルに泊まっていた神城だったが、朝一になれば、こうして自分の家へといち早く向かったのだ。


 長い間、帰ってなかったな。

 約3年になるのか。

 アイツらは元気しているだろうか。


 神城はそう心の中で呟き、家へと到着した。


 明らかに黒一色の高級な門を通り抜け、一面花園が見える。両脇には花園で、その真ん中には車が通れる道になっており、その先には洋館が一つ。

 到着するとすぐにリムジンの周りは子どもたちの声で一杯に。


『お兄ちゃんー!!』

『会いたかったのー!』

『早く早く!』


 子どもたちの嬉しそうな声が聞こえる中、リムジンから降りた神城に大量の子どもたちが抱きつきにやって来る。


「ぐはっ!! お前ら飛び込み過ぎだ」

『だってー! 会いたかったんだもん!』

「そうか?」

『お兄ちゃんと3年も会えなかったんだよ?』

「そうだな、3年は長いか」


 神城は何処か穏やかな笑みを浮かべながら、子どもたちとの抱擁をしばらく続けた。





 それから約1時間後。

 神城は貴族の食堂レベルである長テーブルの手前にある玉座にも近い椅子に座り、数人の面々と一緒に手を合わせていた。


「若、お言葉を」


 そう言うのは一人の少女。

 綺麗な黒髪の少女はうっとりとした様子で神城へと話し掛ける。


「そうだな。皆、グラスを」


 神城の言葉でその場にいる数人が一斉にグラスを上げ、言葉を待っている。


「3年ぶりになる家族水入らずの食事だ。遠慮せずにいこう」


 そう言って食事はスタートした。

 長テーブルに並ぶ食事は様々なジャンルの高級な物ばかり。


 中華、フレンチ、和食など様々。

 この場にいるのは全部で8人。神城を含めれば9人だ。


 8人は必死に神城と喋るべく色んな話題を上げながら楽しい食事の時間を過ごす。


「若、そう言えば最近スポーツをやられているとか」

「あぁ、向こうの奴らがやたらとバスケをやりたがっていてな」

「なら、俺も練習するんで、今度やりましょうよ!」

「⋯⋯そうだな」


 色々な話題があちらこちらからと飛び交い、時間はあっという間に過ぎていく。


「梓、そう言えば新しい資格をもう取ったそうだな」

「はい! 若のお力で年齢制限が無いので、色々これからお役に立てるかと思います」

「流石だな。とはいえ、しっかり休んでいるか?」

「それは若もでは?」


 冗談交じりに笑う梓の言葉に、神城も思わずやられたと一笑する。


「もうお昼か」

「久しぶりにみんなで花園ピクニックしましょうよ!」

「錬、アンタ今ランチしたばかりじゃないの」

「知ってるよ! だから軽いお菓子とか持ってみんなで良い景色眺めながらもっと駄弁ろうって事を伝えようとしているんじゃん」


 8人が会話しているのを、神城は微笑ましく眺めていた。


 3年ぶりの実家はなんとも騒がしい。

 ⋯⋯しかし悪くない。

 しばらくしたらまた日本を発つだろうが、それまでしっかり三年分の時間を過ごせるようにしよう。


「まぁいいじゃないか、みんなで花園を出汁に駄弁ろう」

「若がそう言うならイイですけど」


 



「お兄ちゃん!」

「ん? どうしたんだ?」

「私ね、将来お医者さんになるの!」

「おぉ、いい夢じゃないか」

「お兄ちゃんが煙草を吸いすぎだから、いつか医者になって肺がんになったお兄ちゃんを私が助けるの!」


 花園で数十人の子どもたちと神城は微笑ましく会話していた。

 その会話を聞いていた錬と梓は笑いながらこう突っ込む。


「若、今の内から子どもたちに肺がんで心配されてちゃまずいのでは?」

「そうか?」

「俺達まだ10歳っすよ? まずいでしょ流石に」


 錬が腹を抱えて笑いながらそう言うと、梓も無言で頷いている。


「まぁ、そうか」


 花園で寝っ転がる神城の両脇に子どもたちがすっぽりとハマり、撫でてと催促。

 それに応え、沢山の子供たちの頭を⋯⋯付けていたリングを外してみんなを撫でる。

 

「はいはい」

 

 慣れたものだ。

 昔なら、こんな事絶対にありえなかったが。時間というのは恐ろしい。


「お兄ちゃん、しばらくいるんだよね?」

「んー、どうだろ。お偉いさん方の都合で暫くいる感じになりそうだな」

「やったー!」

「え、じゃあ⋯⋯明日もいるの?」

「まぁそうだな。家にいるかは分からないけど」


 そう返すと子どもたちはブーブー文句を言い始めてしまう。


「悪い悪い、出来るだけ居るようにするから」


『本当!?』「あぁ」

『絶対だよ!?』「約束する」


 まさか日本に帰ってきてガキンチョ共と一緒に過ごす事がメインになるとは思わなかったな。


「お兄ちゃん見てよ! これがね!」

「あぁ」


 子どもたちの終わらない喋りに俺は付き合い、日が暮れるまでみんなで寝っ転がって過ごした。





 そして夜の10時頃。

 

「若、お電話です」

「誰だ?」

「はい、空軍、磯崎ニ佐と仰っていましたが」

 

 梓から受話器を受け取った俺はそのまま耳に当てる。


「こんな夜遅くに人様の家に電話をかけるアホは誰かと思っていたが、まさかアンタだとは磯崎」


『おや? 年上に向かってその言葉遣い⋯⋯相変わらずだな、神城』


「うるせぇよカスが、死にたいのか?」


『おぉ⋯⋯怖い怖い』


「こっちも暇じゃないんでな、切るぞ」


『はいはい悪かった悪かった』


「⋯⋯で?」


『訓練の話だ。受けてくれるだろう?』


「よく今の流れで受けてくれるなんて思ったな?」


『話がまとまったんじゃなかったのか? 俺も頼まれてこうして電話を掛けているんだ』


「知らん、成り行きだ」


『公式の場じゃないからってそれはないだろう』


「本人たちでもないのになんで俺が受けてやらなきゃならねぇんだよ、特に空は」


『まぁ⋯⋯そうだね、アレは自分も責任を感じているよ、たかがガキの戯言に従えなかった自分たちの責任だとも思っているよ』


「反省しているなら結構。それで?」


『そんな感じを見るに、空は無理そうだな。最近だと⋯⋯いや、野田さんのところはどうだ?』


「野田さんねぇ⋯⋯プライベートで関わっているから、あまり仕事は嫌なんだけどなぁ」


『お、珍しい』


「ん? 何も珍しくないだろ?」


『大佐は優し過ぎるところがあるからな、確かに嫌なのはわかる』


「まぁ、あの人は人に甘く自分に厳しい人間だからな」


『どうだい? もう一度あの手腕が欲しいねぇ』


「考えておく」


『まぁどの道、君とは近い内に出会うと思うけどね』


「⋯⋯はぁ?」


『では夜遅くに失礼したよ、では』


 チーンと俺は受話器を置く。


「若、どうでしたか?」

「あのカスは近い内にぶち殺しておくから気にする必要はねぇ」


 ⋯⋯あのカス、覚えておけよ。

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