会食

 それから約1時間後。

 先程の数名はとある東京のお店の中で食事の為にやってきた。


 勿論個室座敷部屋。

 しかし入ると広がるのは一面水族館の通路のようなガラス張りに高値が付きそうな魚がうようよ泳いでいる。


 その中央にテーブルと座布団が人数分。

 そしてそれとは別に専属のシェフが数人と容姿端麗な女達が数人。


 そこへ5名ほどの男たちが入ってくる。


「いやー、山方さん、こんな所をよくご存知で」

「いや大津さん、たまたまです。私の知り合いの検事の一人に聞きしましてな」


 この男の名前は山方俊郎やまがたとしろうと言って最高検察長。

 そしてもう一人の男は警視総監である大津泰次郎おおつたいじろう


「ちょっとそこの君来なさい」


 二人はもうすぐ初老だというのに、座るとすぐに近くの女を手招いて自分の隣に座らせる。


「おぉ、中々良い身体じゃないか」

「こちらも腰回りがえろくて最高だな! がはは!」


 妻がいるというのに早速女に札束を渡すとすぐに二人は自分の元へと抱き寄せて触りたい放題。


 暫く耐えようとしたもう二人の政治家だったが、10回ほど二人が揉み終えるのを見ると一回咳払いを。


 二人は冷静になって咳払いの意味を思い出して一度手を止めた。


「おおっと、これはこれは失礼しました」

「そうでしたな」


 顔を赤く染める女二人としまったという表情をする山方と大津。

 そう、今日は目の前にまだ10歳の少年が座っているのだ。


 そりゃ政治家であろうと誰だろうと、女体の出るところが出た大人の悪戯あそびを見せるには些か歳が若すぎるので止めるだろう。


「失礼しました、神城殿」

「いや、問題ない。大人というのは性欲に忠実だと聞く。仕方ないだろう」


 まるで興味がないような瞳を見せながら、神城少年は当たり前のようにそう言い放つ。

 その言葉を聞いた二人は逆に恥ずかしくなって水を飲む。


 "一体どちらが大人だろうかと"


「いやいや、神城殿は本当に10歳の子供ですかな? 私が10歳時は、まだ駄菓子を食べて喜んでいたものですが」


 大津がそう言うと、神城はすぐに鼻で笑う。


「まぁ、そんな人生であればどれ程良かったかと思うが、生憎俺の人生はこんな物だからな、仕方ない。煙草吸っても?」

「⋯⋯ええ勿論ですとも」

  

 その場にいる全員が煙草に火をつけ、至福の一服を楽しむ。

 ゆっくりと3回程吸った後、神城が口を開く。


「それで? 俺をわざわざ日本に戻す理由はなんだ? 何か理由があるんだろう?」


 神城以外の数人は目線を合わせた。

 そう。現在、日本には数多くのスパイと外部戦力の過剰さが目立ち、正直なところ、いつ何が起こってもおかしくはない状況である。


 神城という世界規模で活躍している男が母国に戻ったとあれば、その間に狙われるリスクが大幅に減るだろう。

 しかしここで下手をすると、この男はすぐに機嫌を悪くしてまた日本を発ってしまう。


 この男は海の向こうでは英雄と何処へ行っても言われており、国の中枢連中は頻繁に神城に永住権を取ってほしくて仕方がないようだ。


 ハニートラップから様々な事を彼に行ったがまるで効くことはなく、何も起こる事はなかった。

 我らとしては一番の吉報である事間違いなしだ。


「いやぁ、最近自衛隊の方で神城殿の手腕を発揮してもらいたいとの声が多く。また、様々な箇所からの要望が絶えることはなくてですね⋯⋯」


 政治家二人のうちの一人である浅倉拓海が上手いこと神城に説明する。

 それをもう一人の臼井晴人が持ち上げながら話は進んでいく。


「自衛隊ねぇ」

「ええ、以前神城さんと一部の部隊が衝突したとお話はかねがね」

「2年ほど前でしたかな?」

「あぁ、アイツらは平和ボケしすぎて思考回路が終わってる連中だ。お前らと一緒だ」

 

 一瞬空気がピリッと張り詰める。

 まるで神城が全方位に向かって舐め腐ったように挑発しているようにも聞こえ、もしこの場に似たような大人がいたら間違いなくブチギレ回しているだろう。

 

 しかしそんな真似はしない。

 もう平均50くらいの中老である彼らは心得ているからだ。

 この少年の機嫌一つで──己の築き上げてきた人生と、家族の人生の終わりが見えることを知っているからだ。


「私達はそんな事は考えていません! 断言します!」

「そうです!」

「果たしてそうだろうか」


 全員が一人の少年対してなんとか納得してもらおうと様々な角度から持ち上げ、話を進める。


「現在では神城さんの仰る通りに話を進め、改善も見られています。どうでしょう? 今一度、貴方の手腕で部隊を改善して頂くというのは」


 肩肘をつき、もう片方は煙草へと向かう。そして、煙草を一吸いしながら神城は何か考えている素振りをみせていた。


 その姿を見た4人は、『もしかしたら』などといらぬ妄想が先行する。


「自衛隊ねぇ、彼処はどうも気に食わない。組織の練度はともかく、上下関係がうざったすぎる」

「そこはなんと言いますか、私達の方から伝えておきますので! 勿論、タダとは言いません」


 そう言って4人が出したのは個人的な誓約書。


 日本で何かあった場合、この四人が全面的にバックアップするという旨が書かれた誓約書だった。


「はぁ」


 神城はやっぱりと言いたそうな表情でその誓約書を読み通した。


「はいはい、とりあえず暇な時でいい?」

「勿論ですとも! 何かあればいつでもご連絡してください」


 それから本題がある程度終わりが見えたので、全員はそのまま食事を心ゆくまま楽しんだ。

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