超ニコニコ結婚式~その二~
さて、もう最終選考も通過してしまった以上は、覚悟を決めないといけなかった。
今から一ヶ月半後には、幕張メッセの大舞台にて、大勢が見守る中で結婚式を挙げることとなる。それに対して、どんなネガティブなコメントが飛んでくるかと思うと、正直胃が痛くなるような思いだった。
ニコニコ動画の画面で、弾幕のように流れてくる誹謗中傷……そんなイメージが、脳裏をよぎる。
(マジか……マジかぁぁぁ……!)
だが、全ては大事な大事なお嫁様のためである。
彼女が望むのであれば、たとえ火の中水の中であろうと飛び込んでやる! そういう気持ちで今回の話にはOKを出したのだ。今さら嫌とは言えなかった。
超会議運営からのメールは、さらに今後のスケジュールのことについて書いてあった。
三月中旬~四月上旬 Skypeにて打ち合わせ二回程度。
四月中旬 都内で直接お会いして打ち合わせ一回程度(フィッティング含む)。
ということで、にわかに忙しくなってきた。
気持ちを何とか平静に保ちながら、粛々とすべきことをこなすべく、私は新しいスケジュールが決まる度にその内容を随時手帳に書き込んでいくのであった。
※ ※ ※
やがて、協賛社や特別ゲストについても色々と決まっていった。
まず協賛社は、キャラクター系のアクセサリーやグッズを製作、販売している会社U'TREASURE(ユートレジャー)である。
お嫁様はすでにU'TREASUREさんについてはよく知っていたのだが、私は不勉強なため初耳だった。この超結婚式を機に、そういう会社があるんだ、ということを知ったのである。
我々夫婦のための結婚指輪を用意してくれるとのことで、実に楽しみな話であった。
そして特別ゲストだ。
なんと、サンリオから、あのキティちゃんが当日応援に駆けつけてくれる、というのだ。
実を言うと、自分は特にサンリオには興味が無かった(嫌いというわけではない)し、お嫁様もサンリオで好きなキャラはクロミちゃんであったので、特段キティちゃんが応援に来ると聞いてすごくテンションが上がったわけではないのだけど、それでもあの天下のキティちゃんである。すごいね、すごいね、と二人で面白がっていたりした。
そんなこんなで、二〇一九年三月二十五日、ニコニコ超会議の発表会が行われた。
この発表会については、お嫁様は用事があったので、私だけがニコニコ動画で視聴していた。
心臓がバクバク鳴っていたのを憶えている。
何せ、この発表会において、新郎新婦の名前はまだ出さないとはいえ、超結婚式の概要について紹介をする、というのだ。
そこでは、新郎は作家、新婦はコスプレイヤーということで紹介する、と事前に聞かされていた。(ちなみに――お嫁様はこの当時コスプレ活動を積極的に行っていた。今は本人の意思で、コスプレイヤーとしての活動はやめて、別の道を模索中であるが、超結婚式の時は駆け出しコスプレイヤーとして頑張っていたのである)
作家、と名乗るのもおこがましい自分が、作家として紹介されるのは恥ずかしいものがあった。それに、心ないコメントが飛んでくるのではないか、という恐怖感もあった。とにかく、ネットに対する警戒心が強かったのである。
発表会が始まり、各ブースやイベントの紹介が次々と重ねられてゆく。
なかなか、超結婚式の紹介は始まらない。
(頼む……早く終わらせてくれ……神経がもたない……)
胃がキリキリと締め付けられるような苦しみを覚えながら、スマホを片手に、ずっと画面に意識を集中させていた。
そして、ついに、超結婚式の紹介が始まった。
今回は作家とコスプレイヤーの新郎新婦、と紹介されるに至って、画面上にコメントが流れてきた。
『作家? 誰だろ』
『漫画家かな。○○とか』
(うああああ、すみません、無名の小説家です……へっぽこ作家です……!)
穴があったら入りたい気分だった。
幸い、ニコニコ動画の画面上に流れてくるコメントに、マイナスなことを書く人は一人もいなかった。そのことに、あれ、意外とこんなものか、と拍子抜けするのとともに、どこかホッとしている自分がいた。
それでも、長時間、胃がキリキリと締め付けられるような思いをして画面と睨めっこしていたので、超結婚式の紹介が終わった瞬間、ガクンと体の力が抜けるような感覚に襲われた。
(こんなんじゃ、超結婚式本番なんか、もっと大変なプレッシャーがかかるだろうな……)
そんなことをぼんやり考えたりしていた。
※ ※ ※
その後、三月二十七日にSkypeを使ってのオンライン打ち合わせを行い、細かな話を詰めていった。
そして、四月三日に新宿のU'TREASUREさんで指輪のサイズ合わせ(および超結婚式の時に流すプロモーションビデオの撮影)を行うことで次のスケジュールは決まった。
……といったことと同時並行で、実はこの頃、もう一つ重要なイベントが決まったのである。
それは、ディズニーでの結婚式だった。
結局のところディズニーランドホテルでの結婚式、シンデレラ城で行われるウェディングについては、空き日程がないため難しい状況であったが、唯一、二〇一九年中に式を挙げられるプランがあった。
ホテルミラコスタでの式。
ディズニーシーの中で行われるウェディングプランだった。
年内は、九月に一日だけ空き日程があり、他は全部埋まっている、という状況。
お嫁様はディズニーランドホテルでの式に憧れを抱いていたので、まだ迷っている様子であったが、私はもうこれを逃すと(超結婚式は別として)式を挙げる機会は無い、と踏んでいた。(結果として、二〇二〇年から世界は一変してしまったので、本当にこの時に決断して良かった、と今でも思っている)
こうして、ミラコスタでの挙式についても契約を進めることとなった。
春に超結婚式を行い、秋にディズニーシーでの結婚式を行う。
なんだかとんでもない年になってきたな、と私は思っていた。
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