ニコニコ超会議2019で結婚式を挙げた時の話
逢巳花堂
超ニコニコ結婚式~その一~
これは二〇一九年のお話である――
「ねえ、花堂。こんなのがあるんだけど」
そう言ってお嫁様が見せてきたのは、平成最後の四月に行われる、ニコニコ超会議二〇一九の中で開催されるイベント「超ニコニコ結婚式」の募集サイトだった。
「ふうん、面白そうだね」
私はてっきり、お嫁様が冗談で募集サイトを見せてきているのだと思っていた。ニコニコ超会議の中で開催される、ということはどういうことか。それは、ニコニコ動画を通して、結婚式の様子をネット上に配信される、ということである。見知らぬ人達に観賞され、好き勝手にコメントされる――そんなの、恥ずかしいに決まっている。まともな神経をしていたら、こんな結婚式をやりたいと言うはずがない。そう考えていた。
ところが、私は、お嫁様のぶっ飛び具合をだいぶ見誤っていた。
何か言いたげな目つきで、私のことを見つめているお嫁様。
嫌な予感がした私は、恐る恐る尋ねてみた。
「まさか……出たいの?」
「うん」
即答だった。
私は悩んだ。一年前に結婚して以来、いまだ式を挙げられていない。だから、お嫁様が望むことは出来るだけ叶えてあげたい。だけど、こればかりは別の話だ。
デビュー作『ファイティング☆ウィッチ』を刊行した時のトラウマが蘇ってくる。あの時、ネット上には酷評ばかりが並んでいた。Twitterでわざわざ自分に絡んでくる人までいた。私にとってネット空間というのは、私を傷つける人間ばかりが存在する、怖い場所でしかなかった。そんなネット民達に、我々の結婚式を見せたら、一体どんな辛辣なコメントが寄せられることか……。
息苦しくなった。体が強張ってしまった。
「前にも話したと思うけど……昔、僕はネットで嫌な思いをしたことがあって、それ以来ネットの人々が怖いんだ。だから……ちょっと、キツいかも」
「そっかぁ。もちろん、これは二人の問題だから。花堂が嫌だって言うのに、無理にとは言わないよ」
そんな風にお嫁様はフォローしてくれたものの、どこか寂しそうにしていた。
ふと、思い直した。
お嫁様はディズニーランドで挙式したいと考えていた。ランドでの式は、パレードをやったりと非常に派手な内容であり、彼女はそういう中でギャラリーを交えて多くの人々に祝福されたい、と望んでいた。しかし、ランドの式はランド側で予約枠を開放しない限りは日程を押さえることが出来ない。結婚してからかれこれ半年以上、ディズニーランドホテルに何度も繰り返し問い合わせをしていたが、空き枠は一向に出てきていなかった。
そんな状況が続いていたので、私はお嫁様に申し訳なく思っていた。彼女の夢を叶えてあげられない自分が腹立たしかった。
だったら、お嫁様が望むのであれば、この超ニコニコ結婚式の話は受けてあげるべきではないだろうか。
「いや……やっぱり申し込んでみるよ」
「本当に? いいんだよ、無理しなくて」
「大丈夫。僕は平気だから」
そう言いながら、私はパソコンを立ち上げて、さっそく応募フォームに必要な情報を入力し始めた。
まあ、大丈夫だろう、とタカをくくっていた。何せ、応募フォームにはニコニコ動画での活動歴を記載する箇所があるのだが、私もお嫁様もニコニコ動画で活動したことは一切無かった。
まずは書類審査を通らなければいけなかったが、おそらく、選考を通過するのはニコニコ動画での活動歴がしっかりある人だけだろうな、と踏んでいた。我々なんかは、入り口で門前払いされることだろう、と思っていた。
なので――応募してから数日後――運営から「超結婚式一次審査通過のお知らせ」というタイトルのメールが届いた時には、本気で驚かされてしまった。
『逢巳花堂(おうみかどう)様
超結婚式 運営事務局です。
この度は、「超結婚式」へご応募頂きまして、誠にありがとうございます。
厳正なる審査の結果、一次審査を通過されたことをご連絡させていただきます。
つきましては、Skypeにて最終面談をさせていただきたく存じます。
最終面談の後、数組のカップルから一組に絞られ、最終決定とさせていただきます。』
このメールを見て、私は大笑いした。
まさか通るとは。
お嫁様もダメ元でと考えていたようで、その予想に反して選考を通過したことについては、驚いている様子だった。
とにかく、ここまで来たら、いい記念だし最終面談も受けてみるか、と思った。
二人とも気楽な調子で、Skypeによる最終面談へと望んだ。
そして、最終面談から二週間後。
『超結婚式 運営事務局です。
先日はお忙しい中、面談にご参加頂きましてありがとうございました。
厳正なる審査の結果、最終審査を通過されたことをご連絡させていただきます。
つきましては、超会議二〇一九内でお二人の『超結婚式』を挙げるお手伝いをさせて頂ければと存じます。』
最終審査まで、通過してしまった。
これは大変なことになった、と私は心臓がバクバクと激しく鳴るのを感じていた。あれだけ恐れていたネットの世界へ飛び込む、その覚悟を決める必要があった。
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