3 俺はどこまでも強くなる


「聖剣の適合値が上がった?」


「ああ、少しだけだけど……ま、十年やって、やっと3なんだけどさ」


 俺は苦笑した。

 アリシアは首を左右に振る。


「あなたが努力したからよ。おめでとう、カイン」


 言って、俺に唇を重ねる。


 ……七年の間に、俺たちは恋人同士になっていた。


 アリシアはもともと魔族に滅ぼされた国の王女だったそうだ。

 復讐のために剣を取り、憎しみのままに魔族を斬り続けてきたんだとか。


 そんな過去を打ち明けられ、俺も勇者パーティだった過去を打ち明け、少しずつ距離が接近し、今はこうして恋人同士になっているわけだ。


 俺にとってかけがえのない存在――。


 つらい魔族との戦いも、彼女がいるから頑張れる。


 幸せを、実感できる。


 アリシアの方は二年前にとある戦いで負傷し、以前のように剣を振るえなくなり、すでに戦いからは引退していた。


 今はもっぱら俺の身の回りの世話や装備品の点検など、サポートをがんばってくれている。


「いつもありがとう、アリシア」


 俺は彼女を抱き寄せ、ふたたび唇を合わせた。


 早く彼女と平和に暮らせる世界にしたい――。


 それもまた俺にとって大きなモチベーションだった。




 いくつもの想いを背負い、俺の戦いは続く。


「ひいっ」

「た、助けて――」


 人々が、魔族に襲われている。


 平和な村が、今は地獄絵図だった。


 食い殺された多くの人々。


 破壊された家屋や荒れ果てた畑。


「やめろ!」


 俺は暴れまわる魔族たちの群れに走っていった。


「スキル【斬撃】【刺突】【薙ぎ払い】」


 剣術系のスキルを連続して繰り出し、魔族を次々に斬り伏せる。


「こいつ!」


 攻撃魔法がいくつも飛んできた。


「スキル【鉄壁】」


 すかさず防御系のスキルを展開。


 魔族の魔法をすべて跳ね返す。


 以前は使えなかった聖剣の固有スキル【吸収】を、今の俺は使いこなせるようになっていた。


 ここ数年で俺が【吸収】によって会得したスキルは、合計で500に迫る。


「仕上げだ――」


 俺は聖剣を掲げた。


 無数のスキルも、今の俺の実力の一端に過ぎない。

 今の俺の真価――『聖剣使い』としての真の力は、別にある。


「っ……!」


 力が全身に駆け巡るような感覚があった。


 聖剣の、力だ。


 以前は、この力は外部に放出するのみだった。


 聖剣の『力』を衝撃波や魔法攻撃などに変換して放つ。


 それが俺の唯一の攻撃方法。


 だが今は、まったく違う。


 聖剣ラスヴァールの『力』が『外』ではなく、俺の『内側』に入ってくる。

 数えきれないほどの実戦経験の中で、俺が身に付けた力。


 俺が磨き上げた力だ。


 だんっ!


 地面を強く踏みしめ、さらに加速する。


 俺の速度は一気に十倍以上に上がった。

 人間の限界速度を圧倒的に超えている。


 まさしく獣――。

 一瞬にして魔族たちに肉薄した俺は、


「【フォトンソード】!」


 聖剣を真横に振るった。


 ざんっ、ざしゅっ!


 三体の魔族の首が同時に跳ね飛ばされる。


「な、なんだ、こいつ――」

「速すぎる! 人間なのか――」


 残りの魔族たちが驚いている。


 俺はなおも聖剣を振るった。


 一振りごとに確実に魔族が倒れていく。

 一方で奴らの攻撃は俺に当たらない。

 かすりもしない。


 魔族すら凌駕するパワーとスピードで、俺は奴らを圧倒した。

 やがて下級魔族のほとんどを討ち果たしたとき、


「人間ごときに何やってるんだ、てめぇら」


 現れたのは、他の魔族よりも大柄な個体だった。

 身長は五メートルくらいか、すさまじい威圧感を放っている。


「言っておくが、俺をそいつら下級魔族と一緒にしない方がいい。この俺は中級魔族だ」


 そいつ……中級魔族が言った。


「貴様など指先一つで粉々にできる」

「……やってみろよ」


 言いながら、俺は緊張していた。


 適合値が上がったことで、俺は下級魔族には余裕で勝てるようになった。

 だが、いきなり中級魔族にも通用するだろうか。


 といっても、逃げ場はない。


「やるしか――ない!」


 俺は聖剣を手に突進した。


『力』が俺の全身に注入され、手が、足が、筋力が飛躍的に増大する。

 スピードが一気に上がる。


「ほう!? 人間の限界値を超えた動きができるのか、てめぇ」


 中級魔族がうなった。


「だが、俺には通じねぇ――」


 俺を上回る速度で繰り出される攻撃。


 やっぱり、いきなり中級魔族戦は無茶だったか!?


「――いや」


 俺はいずれ魔王を倒すんだ。


 こんなところで立ち止まれない!


「おおおおおっ……!」


 聖剣を手に駆けだす俺。


 その全身が淡い輝きに包まれた。


「適合値が……さらに上がる……!?」


 聖剣がうなった。


「7……10……15……」

「おおおおおおおっ!」


 俺は咆哮とともに駆け抜けた。

 中級魔族のスピードを、ついに上回る。


「ありえねぇ!? 人間が、こんな動きを――」

「これで」


 俺は渾身の力で地面を踏みしめ、その反動で前方に跳ぶ。


 今の俺ができる最速かつ最強の突進技――。


「【ブラストブレード】!」


 破壊の名を冠した剣技が、奴を両断した。




 夜、俺は一人で草原にたたずんでいた。

 空には美しい満月が輝いている。


「まだ信じられないよ……この俺が一人で中位魔族を倒したなんて……」

「すさまじい勢いで強くなっているな」


 俺の言葉に聖剣ラスヴァールが答えた。


「お前は、大した男だ」

「へへへ」


 なんだか誇らしい気持ちだった。


 と、そのときだった。


「ぐっ……うううっ……」


 突然、俺の全身に激痛が走った。


 力が入らなくなり、その場に倒れこむ。

 見れば、腕が、足が、へし折れていた。


 ……力が入らないのは当たり前だ。


「聖剣の強化に体がついてきていない」


 聖剣が忠告する。


「聖剣の、強化に……?」

「もっと鍛えないと、聖剣の力を使うたびに体を壊すことになるぞ」

「――じゃあ、もっと鍛錬するさ」


 俺は大きく息を吐き出した。


 これくらいの痛みで、へこたれてたまるか。


「アリシアの元には戻らないのか?」

「こんな状態で戻ったら、余計な心配をかけるだろ?」


 俺は苦笑した。


「もう少し強くなってからにするよ。留守がちで悪いけどな……」


 本当はこういうときこそアリシアに会いたい。


 けど、会ったら甘えてしまいそうで――戦う決意が鈍りそうで。


 俺は、一人を選んだ。




 それから三年が過ぎた。


「馬鹿な、人間ごときが上位魔族である俺を圧倒するだと――あり得ぬ!」

「上位魔族? それがどうした」


 俺は一刀のもとにそいつを斬り捨てる。


 三年の間、俺は魔族たちを斬って斬って斬りまくった。

 聖剣との適合値はとっくに100を超えている。


 つまりは――標準的な勇者以上の数値ということだ。


 言い換えれば、俺が聖剣を使った際の戦闘能力はすでに勇者レベルをも超えている、ということだった。


「だけど――足りない」


 魔王やその腹心たちの戦闘能力は、通常の上位魔族などはるかに超える。


『上位魔族に無双できる』程度の力じゃ駄目なんだ。

 もっと……もっと圧倒的な力が必要だ。


 実際、魔王の腹心と先日戦う機会があったが――完敗だった。


 単なる上位魔族と腹心との間には信じられないほどの隔たりがある。


 そして上位魔族と魔王との間にも――。


 だから、まだまだ足りない。

 だけど、諦めない。


「俺は……もっと強くなる……見てろよ、魔王――」




 そして、俺の進化は一気に加速する。




***

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