2 『荷物持ち』の俺は聖剣を受け継ぐ
「まだ闘志を失っていないならば――魔王と戦う意思が残っているならば、私を手に取れ。そして戦え」
そう言われても、俺は戸惑うばかりだった。
「俺はただの荷物持ちだぞ? 聖剣なんて使えるわけないだろ」
「それでも――もうお前しかいない」
聖剣が告げた。
「すでに新たな勇者の素質者は存在しない。魔王軍との戦いの中で、アベル以外の素質者はすべて死に絶えた」
「じゃあ、聖剣を扱える人間はいないってことか……?」
「だが、お前は勇者とともに旅を続け、ずっと勇者とともにいた。他の人間よりも聖剣に対する適性が生じている」
「俺……が……?」
「勇者クラスのような高い素質はないが、それでも普通の人間よりはずっと聖剣との適合性がある。お前しかいないのだ」
聖剣が熱く語る。
「……それって、勇者候補は死に絶えたし、多少なりとも聖剣を使う素質があるのが俺しかいないってこと」
「そのとおりだ。勇者に比べれば、お前の素質は低い。勇者の素質を仮に100としたら、お前は1か2くらいだろう。それでも――他の人間は素質0なのだから、他に私を振るえる人間はいない」
「ゼロよりマシ、かよ」
俺は吸い寄せられるように剣に手を伸ばした。
地面から引き抜く。
「く……ううっ……!」
力を――感じる。
この聖剣の力を。
生まれてこの方、一度も感じたことのないような圧倒的な力があふれてきた。
これなら――
「いくぞ、ラスヴァール。俺に力をくれ!」
目の前の魔族を倒すのに、数分とかからなかった。
俺は聖剣を手に、一人で魔族との戦いを始めた。
この気持ちが復讐心なのか、使命感なのか、それともただ状況に流されているだけなのか。
俺自身にも分からない。
半ば虚無感で、俺は戦い続けた。
――最初は、敗北ばかりだった。
それはそうだろう。
俺は戦いの素人だし、そもそも勇者アベルとは違う。
アベルはもともとの戦闘能力の高さに加え、【吸収】という聖剣のスキルを操ることができた。
文字通り敵のスキルを吸収して会得する、というものだ。
戦うほどに強力なスキルを次々と手に入れ、さらに強くなっていく――。
だからこそ、アベルは魔王軍の魔族たちと戦い続けることができたんだ。
だけど、俺はそのスキルを上手く扱えなかった。
敵のスキルを覚えることができない。
勇者としての素質が低すぎて、スキルが発動しないんだろうか。
なら、スキルなしで戦うしかない。
戦っては敗れ、戦っては敗れ、戦っては敗れ、戦っては敗れ――。
敗北をひたすら繰り返しながら、経験を積んでいった。
そんな戦いを続けて三年――ある出会いがあった。
「魔王軍と戦ってるっていうのは、あなたのこと?」
声をかけてきたのは、一人の女騎士だ。
年齢は俺より一つ二つ下で、おそらく十六、七歳くらいだろうか。
ツインテールにした赤い髪にツリ目がちの青い瞳。
快活な雰囲気の美少女だった。
彼女はアリシアと名乗った。
「あたしたちも同じよ。よかったら、一緒に戦わない?」
ずっと一人で戦ってきたから、こうやって他人と話すのも久しぶりだ。
「勇者が魔王の軍門に下って二年――魔王軍と戦う人間も随分と減ってしまった」
どうやらアリシアは『レジスタンス』の一員らしい。
魔王軍に抵抗する勢力は、わずかながら世界各地に点在しているのだ。
「大半は殺されたからな」
俺は小さくため息をついた。
と、
「待てよ。本当にそいつは戦力になるのか?」
そいつらの一人が言った。
「半端な実力なら、かえって足手まといになるぜ? 対魔王軍戦力では最強格の一つと言われる、俺たちパーティの、な」
「……じゃあ試してみるか?」
俺は聖剣を抜いた。
勇者としての素質が低い、とはいえ、魔王軍とずっと戦ってきた経験がある。
人間相手なら、負ける気がしない。
実際、その男はかなりの使い手だったみたいだけど、俺は圧勝した。
「くっ……強い――」
男がうめく。
それから、俺に向かって深々と頭を下げた。
「疑って悪かった! あんたは強い! よかったら仲間に入ってもらえないか!」
「俺は――まあ、いいですけど」
仲間と一緒に戦うなんて、勇者パーティ以来だ。
いや、あのときの俺は単なる『荷物持ち』だった。
戦力じゃなかった。
だから、本当の意味で『仲間と一緒に戦う』のは、これが初めてになる――。
彼らは強かった。
だけど、魔王軍は甘い相手じゃない。
俺と仲間たちは敗北の繰り返しだった。
一年後、仲間の一人が死んだ。
二年後、さらに二人の仲間が死んだ。
三年後、三人を残し、仲間は全滅した。
四年後、五年後――。
いつしか、俺の仲間は女騎士のアリシアだけになっていた――。
敗北続きの闘いの日々に変化が起きたのは、アリシアと出会ってから七年後のことだった。
下級魔族五体を相手に、俺は聖剣を振るい続け、死闘の末にこれを倒した。
「はあ、はあ、はあ……」
精魂尽き果てるとはこのことだろう。
けれど、五体を相手に勝ったのは初めてだったから、強い充実感を覚えていた。
と……、
「開花したか」
聖剣の言葉とともに、刀身に数字が映し出された。
『3』となっていた。
「この数字は……?」
「お前の聖剣適合値だ」
俺の問いに答える聖剣ラスヴァール。
「聖剣……適合値?」
「通常の勇者は100前後。そしてお前は今まで『1』だった」
「3になってるけど……?」
「上がったのだ」
聖剣が告げる。
「本来、適合値は一度決まったら不動だ。ゆえに、少しでも適合値が高い者を『勇者』として選定してきた」
「俺が選ばれたのは、地上にもう適合値の高い者が残ってないから――って前に言ってたな」
「その通り。だが今、お前の適合値はわずかだが変化した」
聖剣が語る。
「これ以上は上がらないのか、それともさらに上がっていくのか――もしも後者だとしたら、お前は私を今よりも使いこなせるようになるだろう。今よりも聖剣の力を引き出せるようになるだろう」
「今よりも――強くなれるってことか?」
「その通りだ」
「――よし」
俺はグッと聖剣の柄を握り締めた。
その可能性に賭けてみるか。
***
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