微笑む七つのお地蔵さん

野林緑里

第1話

 そのお寺の前にはお地蔵さんが七体あった。


 お地蔵さんたちの 顔はいつもにっこりと微笑んでおり、 毎日のように通る子どもたちを見守り続けけていた。


 子どもたちもまたお地蔵さんたちを見かけると明るい声であいさつをする。


 春にはお花がきれいだとかざってあげる。



 夏には熱かろうと水をかけてあげる。


 秋にはおいしいよと果物や樹の実をあげる。



 冬には寒かろうと毛糸のマフラーを巻いてあげる。


 けれど、いつの間にか子どもたちの姿が消えていき、お地蔵さんたちに話しかける人がいなくなっていった。


 それでもお地蔵さたちは微笑みをやめずにそこいる。


 春は桜の花びらが降り注ぎ


 梅雨には雨が降り注ぐ


 夏には日差しが降り注ぎ


 秋には落ち葉が降り注ぐ


 そして


 冬には雪が降り注ぎ、寒そうにしながらもなおほほえみ続けている。


 そうやって何年も何十年も過ぎた頃、


 お地蔵さんたちがずっと見てきた景色が変わっていった。


 明かりが灯らなくなった家は朽ち果てていき、いつの間にか消え失せる。


 舗装された道には草が生い茂っていき長く伸びていく。


 やがてお地蔵さんの視界を遮るようになっていった。


 それでもお地蔵さんは微笑むのをやめない。



 何年も


 何年も


 7体はそこにい続けていた。


 そんなある日のこと



 ようやく人間が現れた。


 リュックを背負った若者が生い茂った草木をかき分けて訪れたのだ。


「こんにちわ」


 若者は7体のお地蔵さんに話し掛ける。


 お地蔵さんはただ微笑んだままで若者を見る。


「ずいぶんとまたせたね。ようやく君たちを解放しにこれたんだよ」


 若者がそういいながら被っていたキャップを取る。


「ぼくが誰かって? ぼくは君たちを助けに来た者だよ。さて準備はいいかい?」


 そういうと若者はなにやら奇妙な言葉をつぶやき始めるではないか。


 それでもお地蔵さんは微笑んでいた。


 微笑んでいたはずだったが、そこではじめて表情が変わった。一瞬悲しそうな顔をしたかと思えば、能面のように無表情になる。やがてお地蔵さんの閉ざされた目が見開いたかと思うと、お地蔵さんを形どっていた石の塊がボロボロと崩れ落ちていった。


 そこから次々とお地蔵さんではなく、着物を着た7人の子供の姿が現れたのだ。


 子どもたちは茫然と立ち尽くしていたかと思うと、自分の身体を動かし始める。


 最初はぎこちなく動いていたがやがて走り始めるではないか。


「やった! やった!」


 思いっきり大喜びした子どもたちは若者たちの方へと集まっていった。


「ありがとう! お兄さん! ぼくらの呪いを解いてくれてありがとう」


「ありがとう! ぼくらの“大罪”許させたんだよね?」


「それはわからないよ。でもね。もうあまり“大罪”

 起こしちゃダメだよ」


「うん! わかった! じゃあね。お兄さん」



 そういって7人の子どもたちはどこかへも消えていった。


 それを見送った若者は背伸びをするとすでに朽ち果ててしまったお寺に背を向けて歩きだす。


「とりあえず、“七つの大罪”の冒して閉じ込められちゃった子どもたちは成仏させることできたな。お次は誰を成仏させなきゃならないんだって?」


 そういって若者はスマホを覗き込む。


「そっか。今度はあっちのほうに彷徨ってる霊がいるみたいだね。きりがないよ。へんな世の中じゃん。まあ、いっか」


 若者はスマホをポケットへ入れると歩き出した。





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微笑む七つのお地蔵さん 野林緑里 @gswolf0718

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