048:ありがとうッス、パイセン!

 本日3度目の起床ー!!

 3度寝とか惰眠だみんむさぼってるわけじゃないよー。

 普通の起床、クラーケンとの戦闘後の起床、そして今の起床なのだー!

 私、ものすごく頑張ってる。あぁ、涙がちょちょ切れちゃうわ。だって女の子だもん。 (なんちゃって)


『覚醒したか』


 ――は?

 なに今の?

 突然脳内に声が!?

 おかしい。いつものレベルアップを告げる脳内の声さんとは全然違う。

 脳内の声さんは内側から再生される声って感じがするけど、今の声は外側から内側に再生された感じ。

 そもそも声質もまるで違う!

 いつもの脳内の声さんは女性の感じ……例えるなら留守番電話のアナウンスとかカーナビの案内の声とかに近い感じ。

 でも今流れた声は堅苦しそうな男の感じ。アニメとかドラマとかで偉い位置にいるキャラみたいな。誰かが喋ってる感じの。

 とにかく違うの。なんなの、今の声は……。


『思念伝達だ』


 し、思念……なんだって?


『同族なら当然のだろ。忘れたのか』


 同族……?

 って、なんだ!?

 でっかい宝箱が目の前に!?

 意識を失う前にはなかったのに。

 つまり、あれか? あれなのか?

 あの宝箱が喋ってるのか!?

 宝箱が脳内に直接喋りかけてるのかー!?


『宝箱ではない。我は擬態者ミミック。汝と同じ擬態者ミミックだ』


 目の前の宝箱は自分がミミックであることを証明するために、くちを大きく開き、大きな舌をウネウネと動かし始めた。

 その姿は私が知るミミックそのもの。私自身と同じミミックだった。


 本当にミミックだ。私以外のミミックを見たの初めて……。

 でも私よりもひと回り大きい気がする。色も少し違うよね。ちょっと暗めの色?

 あれかな? 性別によって違うのかな?

 このミミックさんは声の感じから男性って感じだし、私は絶対女だもんね。

 性別によって姿形が違うのね。


『否、我々擬態者ミミックには性別による違いなどない』


 え? そうなの?


なんじはゴールドボックスだろ? 我はだ。性別の違いではなく進化しているかどうかの違いだ』


 ということは貴方は、ゴールドボックスからさらに進化した存在のミミックってこと!?


『左様』


 うぉーすげー。先輩かー。ミミックパイセンってことッスね!!


『ところで自分以外の擬態者ミミックを見るのは初めてと言ったな』


 は、はい。そうッス!

 って、ちょっと待って!

 なんでさっきから会話が成立してんのさ!

 レディーの脳内を盗み聞きするとか一体どういうことなの?

 ミミックパイセンだからって許せないんだけどー!! (プンスカプンスカ)


『何を言っているかさっぱりだな。スキルによる効果で我と汝は繋がっている。それを通して会話をしているだけだ。盗み聞きだと思うのならば繋がりを切断すればいいだろ』


 そんなやり方知らないし!

 スキルとか初めて聞いたし!

 繋がってるとかセクハラだし!


『そうか。汝は産み落とされた孤児であったか。それ故の無知。仕方あるまい』


 あ、あのー。なんか納得されちゃっていますが……私孤児とかそういうのじゃなくてですね。

 まあ、説明すると長くなるんですが……というか分かってくれるのだろうか、私の状況を。


『誰にでも話したくないことくらいあるだろう。それが孤児なら尚更のこと』


 だから孤児じゃないってばー!!!

 って、あ、あれ?

 体が……はぁ……はぁ……。


『どうした?』


 突然の脱力感、そして風邪を引いた時のような倦怠感が私を襲う。原因は分かってる。

 お堅そうなミミックパイセンでも、私の異変に気付いてくれた。そして心配してくれている。

 孤児だという勘違いも含めて、ミミックパイセンは意外と面倒見がいいのかもしれない。


『さっきからそのというのはなんだ? 汝の異変の原因か?』


 あっ、いや、こっちの話ッス。

 私の異変の原因は、おそらく……ツッコミばかりしていたから、急にお腹が空いてしまっただって感じだな。十中八九そうだ。そうとしか思えん。

 ここに来るまでに石を食べ続けて、お腹いっぱいになってたはずなのに……。

 寝てる間に消化しちゃったんだな、きっと。


『…………』


 あっ、ひとりの世界に入ってまってましたッス。すいませんッス、パイセン。

 ぼっちはよくひとりの世界に入ってしまうものなのんッスよ。

 で、それでですね……ミミックパイセン。

 会ったばかりで申し訳ないんッスが、食べ物とかあれば、少しでいいので分けてもらいたいんッスが……。


『それならこれを食べるといい』


 ミミックパイセンは宝箱のような体の側面から、宝石や魔石などをかなりの量を出した。

 私が体に埋め込んだ宝石や魔石を出す時と同じだ。

 やっぱり私の目の間にいる宝箱は私と同じ種族のミミックで間違いない。

 今更疑ってはいないけど、私以外のミミックは初めて見たから、ちょっと驚きだ。

 それともうひとつ驚きが……。


 宝石と魔石出し過ぎじゃないッスか!?

 いくらなんでもこの量は……山盛りの盛り盛りッスよ!!

 いいんッスかこんなに!?


『遠慮することなどない。この宝石や魔石はもともと我に敗れた冒険者やを調査しにきた調査隊、それに魔物たちが所持していたもの。それのごく一部だ。だから遠慮などいらん』


 だとしてもッスよ。さすがに全部食べるのは無理ッスよ。半分でも無理な量ッス。

 って、ちょっと待って!

 冒険者って、今冒険者って言ったよね!?

 あと調査隊とかも!

 それに禁忌の洞窟!?

 気になる単語が盛り沢山なんだけどー!

 目の前の宝石よりも盛り盛りなんだけどー!?


 でも先に食事を……今のツッコミで左右の側面がくっつきそうなほどの空腹が襲ってきて……。


『まずはその空腹を満たすがいい。そのあとはレベルを上げて汝の体を直すがいい』


 は、はい。本当に申し訳ないッス。

 で、では、お言葉に甘えて……。

 心優しきミミックパイセンに出会えたこの奇跡に感謝を込めて……いただきます。



 ――ガリガリボリボリッ!!!



 私はミミックパイセンに感謝をしてから、目の前の魔石や宝石を食べた。

 知らない宝石に知らない魔石。色とりどりで形も様々。

 今まで感じたことのない味や食感のものもあった。

 でもそれをゆっくりと味わっている余裕はなかった。

 食レポのひとつでもやってあげたほうが喜ぶかも、などと考えなくもなかったけど、本当に余裕がなかったんだ。

 生きるために、ただただこの世界を生き抜くために、私は食べ続けた。


 《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル28に上がった》


 おかげでお腹は満腹。レベルも上がって体に負っていた傷が全て回復した。

 何もかもミミックパイセンのおかげ。

 本当にこの出会いには感謝しかない。感謝してもしきれないよ。

 ネズミさんに続いての命の恩人だ。

 私って本当に助けてもらってばっかだね。

 いつかこの恩をミミックパイセンにも返さなきゃだ。

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