043:突然のエンカウントやめてくれー (フラグ回収)
私の旅立ちの日がやってきた。
荷造りは滞りなく出来ている。
体には大量の魔石と宝石を埋め込んだ。
非常食兼お洒落よ。 (女の子は着飾ってなんぼなのよ)
この魔石と宝石の半分はネズミさんたちから頂いたものだ。
私が旅立つってことを察して渡してくれた。
本当に賢いし律儀だよね。
「チュウチュウチュウッ」
「チュウチュウチュウーッ!!」
「チュウッー!!!!」
でも交尾だけは常にしてるよな……。 (けしからんし、羨ましい)
そう言えば以前も同じような見送りをされたっけ。
みんな進化してるから、あの時よりも強烈だけど……。
でもなぜだろうか。
この光景が見られなくなるのは少し寂しいな。
それだけ長い時間を一緒に過ごしたってことか。
前回よりも離れたくないって気持ちが強くなってるよ。
でも私はここから旅立たなきゃいけない。
私の目的――イケメン冒険者と運命的な出会いをして、私の初めてを奪ってもらうために。そのままハッピーエンドを迎えるために。
それともうひとつ、私の命の大恩人であるネズミさんたちが、これから先も穏やかで幸せに暮らせるように、それを脅かす可能性がある魔物を私が倒すために。
私はここから旅立たなきゃいけないんだ。
きっとまた会えると思うし、私がイケメン冒険者と結ばれた時、そん時は結婚式にでも招待するからさ。 (友人代表のスピーチはキングラットくんに頼もう)
だからさよならは言わない。
「キィイイイ、キィイ (ありがとう、またね)」
これが一番ふさわしい言葉だろう。
言葉は通じなくても何となくでいい。何となく伝わってくれればいい。
「ズウウッ!!!」
「チュウッ!!!」
「チューッ!!!」
うん。しっかりとキングラットくんたちに伝わってくれたっぽいな。
それなら私は進むしかないよね。いつまでもここにいたら旅立ちたくなくなっちゃうからね。
それにしんみりとしちゃうのも嫌だしね。
よしっ、行くか!
私は一度も振り返ることなく半年間過ごした縄張りから旅立った。
見送りの声なのか、喘ぎ声なのか、どちらなのかわからない声がアイススケートのように滑りながら進む私の背中を押してくれている。
速い。速いぞ。今までこんなに速く滑れたことはなかった。
声援の力ってすごいんだなぁ。
いや、ゴールドボックスに進化したから身体能力がまた爆上がりしたのか。
でも今は、ネズミさんたちの声援の力ってことで。
――すいすーい。あっ、すいすーい。そーれ、すいすーい。
楽しいなぁ。荒々しい地面の洞窟でもすいすい進めちゃう。
華麗なジャンプだってお手の物よ〜。
高得点間違いなしのミラクルジャンプ決まったぜっ!!
あぁ、本当にミミックって能力最先端すぎるよ。
ミミックの乗り物とかあったら、乗り心地の良さとこのスピードで大バズりするんじゃね?
大流行間違いなしなんじゃね?
車よりも画期的な乗り物が出るとか革命的っ!
元の世界に戻れたらミミックで一発稼ぎまくるか〜。
って、ミミックは乗り物じゃねーし!!
「カパカパカパカパカパカパッ!」
あーあ、よかった。
我ながらノリツッコミも完璧、全く衰えを知らないわ。
って、そうじゃない。
前向きな気持ちで、ネズミさんたちと別れられてよかった。
正直泣きそうだったけど、もう大丈夫だ。
元気に笑えるし、ノリツッコミだってできる。
まあ、ネズミさんたちとは心で繋がってるからねっ。
だから私は決して孤独ではないんだよー!
今の私なら何だって出来そうだ。
ドラゴンでもクラーケンでもどんと来いやー!!
って、言いたいけどフラグになるのであまり大声では言いませーん。
でも何だって出来そうなのは本当。
まずはこの洞窟の出口を探そうかな。
それが出口を把握しとくのは得策よね。
ということで真っ直ぐ、このまま真っ直ぐ進むわよー!!
一気に出口まで行っちゃるわー!!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
はぁはぁ……無理。しんどい。長い。長すぎる。
どんだけ長いのよこの洞窟は!?
出口まで行っちゃるわー、って息巻いてから何時間も滑りっぱなしよ!?
いつになったら出口にたどり着くのよ。
せめて上り坂くらい出てきなさいよ。
ここまで長いとあれを疑っちゃうわね。
ほら、心霊的なあれ――永遠と続く廊下的な、あれよ。
もしくは一生出られない屋敷とか樹海とか……。
いや、ありえない話ではないんじゃないか?
ぐるぐる同じところを回ってる感じはしないけど、永遠と続く道を作り出すこととか出来そうだよね。
だってこの世界には魔法というものが存在するんだから。
そういった類の魔法を使って悪さする魔物とかいそうだよ。
私を妨害している魔物が……。
そいつを倒さなきゃ先に進めない的な……。
そんなことを考えた直後、私の目の瞳に緩やかな上り坂が映った。
考えすぎだったか。恥ずかしい。
私を妨害してる魔物とか……くぅー、恥ずかしい。
永遠と続く道とか……思い出しただけで恥ずかしい。
なんて妄想をしてたんだ私は。
妄想ならイケメン冒険者だけにしよう、って夜の数だけ決めてたのに。
たまにダンディーな酒場のマスターとかも妄想しちゃったり、それこそ勇者様とか妄想しちゃったり……ぐへへへ。
って、話が逸れすぎー!!!
待ち望んでいた上り坂よ!
まあ、出口ではなかったけど、それでも上り坂は嬉しすぎる。
出口に着実に近付いてるってことだもん。
ようやく上の層に行けるのね。
ああ、長かった。本当に本当にここまで来るのに長かった。
「キィイイイイー! (新たな層に進むぞー)」
私は上り坂をすいすいと上った。
この層ではどんな出会いがあるのかなぁ〜。
ネズミさんたちみたいに優しい魔物がいてくれたらいいな。
悪い魔物でもさ〜、出口に近付いてるってことは、弱い魔物ばかりになるんじゃね?
前世のゲームとかラノベの知識だとやっぱり最下層に行くにつれてさ、魔物も強くなっていくわけだし。
あれ? もしかして私、この層で無双しちゃうんじゃなーい!?
層で無双とかダジャレじゃないんだからさー。
「カパカパカパカパカパカパカ……あっ……」
拝啓、私の冒険を応援してくれている皆様へ。
どうやら私は数時間前のフラグを回収してしまったようです。
「ルォオオオオオオーンッ!!!!!」
何でこんなところにクラーケンがいるのよー!!!
突然のエンカウントやめてくれー!!!
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