039:悪夢再び

 必殺――闇のダークネス光線レーザービームッ!!!

 ――ヴォヲォーンッ!!!


「ゲゴォオオオオオー!!!!」


 私は闇属性魔法を発動してカエルの魔物を倒した。

 カエルの魔物は粒子となり消え、代わりに魔石が出現する。


 うん。いい感じだ。

 闇属性魔法の扱いも魔物との戦闘にも慣れてきた。


 スカルドラゴンとの死闘から半年くらいが経っただろうか。

 魔法と戦闘の特訓に注いだ約半年間だったと言えよう。


 この洞窟も10ヶ月くらいいる計算になるよな。

そろそろ1年か……。

 早く外に出て、雲ひとつない青空のようなイケメン冒険者に会いたい。

 そろそろ先に進んでもいい頃かもしれない。

 強い魔物にも試したい技がたくさんあるからね。

 それに私自身も強くなったしね。

 どこまで通用するのかも知りたい。


 この半年間で私のレベルは7レベ上がっている。

 私のレベルは今、24レベルになっているのだ。

 今までと比べてもペースが遅いのは当然だ。

 だって弱い魔物としか戦ってないからね。

 弱い魔物にはそれ相応の経験値が詰まった魔石がドロップする。

 だからペースは遅い。


 でもそろそろ1レベ上がりそうな気がするんだよなぁ。


 私は舌を器用に使い、カエルの魔物からドロップした魔石を口へと運んだ。


「キィイイ (いただきます)」


 相変わらずのミミック声。

 今ではこの声も可愛く思えている私がいる。

 もうすっかり心も体もミミックだ。


 ――ガリガリボリッ。


 カエルの魔石の味は、腐った硬い鶏肉って感じ。

 実際に腐った鶏肉とか食べたことないけど、そんなイメージよ。

 こんな不味い魔石じゃレベルアップも期待できな――


 《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル25に上がった》


 脳内に響く声が私の言葉を遮った。

 嬉しいお知らせに私の胸が高鳴る。


 うぉおおおおー、レベルアップした!!!

 やったー、やったー、やったー!

 やほっほーい、やほっほーい!

 レベル25だー!!

 そろそろだと思ったんだよねー。


 レベルアップしたということでもう少し暴れますかー、って昔の私なら調子に乗っていたかもしれない。

 そう、今の私は違うのだよ。

 なぜなら……賢くなったからさー!

 調子に乗った結果、良い方向に進んだことなんて一度もなかったからね。 (前世も含めて)

 だから今日はもう縄張りに戻ろう。

 今日も十分戦ったしね。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 で、私とネズミさんたちの縄張り――スケルトンの元縄張りに戻って来たわけだけど……いや〜、いつ見てもすごい。


 私の瞳に映っているのは、剣や防具、宝石や魔石などが一箇所にまとまっている金銀財宝の山だ。

 キングラットのコレクションに比べれば10分の1程度しかないけど、それでもかなりの量はある。

 あの頃に収集していたおかげで収集能力が高かくなったんだろうな。

 それにしてもどこから収集したんだろう。


 金銀財宝の山と言ったが、その半分以上はガラクタが多い。

 そのガラクタのほとんどが大人のおもちゃなんだけど、そのことに対してツッコミを入れないほど、慣れてしまっている私がいる。

 それもこれも毎日交尾しているネズミさんたちのせいでもあるけどね。

 でもひとつだけ言いたいことが私にはある――


 この世界、大人のおもちゃ製造されすぎじゃない?

 この世界の人間ってみんな欲求不満なの?

 というか大人のおもちゃの種類豊富すぎない?


 ひとつだけ言いたいって言ったのにも関わらず、たくさん文句を言ってしまった。

 ツッコミを入れずに今日まで過ごしてしまった反動だろうな。 (致し方なし)


 さてと、そんな楽しい楽しい縄張りからそろそろ巣立つ時が来たかな。

 今日すぐに、ってわけじゃないけど、巣立つ準備をしよう。

 お洒落兼非常食用に集めて置いた宝石とか魔石がたくさんあるから、どれを体に埋め込むかとか考えなきゃだしね。

 全部持って行けないのが残念。まあ、魔物を狩すぎたってのもあるけど……。

 余った分はネズミさんたちに分け与えるからいっか。 (きっと喜んでくれるだろうしね)


 ということで、たる巣立ちの日までの残りの時間、後悔が残らない生活を心がけようではないか。

 まずはみんなに挨拶しておこう。

 言葉は通じないけど、この行動を見たらそろそろなんだなーって思ってくれるはずだしね。

 でもなぁ〜、ハッスルしてるところを邪魔するってのもなぁ〜。

 ハッスルしてないネズミさんを探すか……って、無理だな。 (多分いない)

 まあ、見つけたら声かけるくらいの気持ちでいいか。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ!


 なんだよみんな。地面が揺れるほどハッスルしちゃってさ〜。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


 おいおいおい。揺れすぎ揺れすぎ!

 地震とかと勘違いしちゃうじゃん。

 というか大事にコレクションしてる金銀財宝の山が崩れてきちゃってるよ?


 ――ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!


 って、え?

 もしかしてみんなのハッスルが原因じゃない感じ?

 地震!? 地震が起きてるの!?


「ズゥ! ズゥ、ズゥッ!」


 あっ、キングラットくん!

 めちゃくちゃ慌ててるけど、これって相当やばい地震?

 あわわわわ、どうしよう。テーブルの下に隠れなきゃ……って、ここにテーブルなんてないじゃんかー!


「ズウ! ズウ、ズウッ!!!」


 ん?

 さっきからなんなのよ。

 なんか教えようとしてるけど、もうわかってるから。

 地震でしょ、地震。

 今隠れるところ探してるのよ。


「ズウウーッ!!!!」


 キングラットくんが私を持ち上げてすぐに下ろした。

 その行動に驚いて硬直してしまったが、もっと驚くべき光景が私の視界に入った。


「キィイイイ…… (うそでしょ……)」


 私の瞳には半年前にも見た悪夢のような光景が映っている。

 半年前、ここで起きた悪夢――100体強のスケルトンが地響きを立てながら現れた。


 もしかして帰省ですか?

 あっ、もうここは私たちの縄張りになってまして……

 え? 他のスケルトンたちはどこに行ったかって?

 えーっとですね……それはお引っ越しをしてですね。

 とてもとても遠ーい場所に。

 だから、お帰りになってくれると助かるのですが……


 思念伝達などできない私の心の声が届くはずないのだけれど、心の中で弁明の言葉を並べ続けていた。


「KARAKARAKARA……」


 地響きは止んだけど、代わりにトラウマを思い出させる不気味な声が洞窟内に響き渡った。


 やばいやばいやばいやばい。

 もしかしたら、もしかしたらだよね?


「KARAKARAKARAKARA!!!!」


 スケルトンたちは1カ所に集まり出した。

 組体操でピラミットを作るように、次々とスケルトンを土台にしてよじ登っている。

 私の予想が正しければ、この行為は……


 スケルトンたちがひとつにまとまった瞬間、刹那の一瞬だけスケルトンたちの体が発光した。

 直後、100体強いたスケルトンが1体の人型の魔物へと姿を変えた。


「……………………」


 これはつまり合体だ。

 ジェネラルスケルトンでもスカルドラゴンでもない。

 もっと強大で、もっと凶悪な存在……


 スケルトンキングだ。

 丁寧に王冠とかマントとか杖とか、スケルトンキングとして相応しいもの身につけてるし。

 身長は日本人男性の平均よりも少し高いくらいか?

 スカルドラゴンは大きかったのにスケルトンキングは小さいんだな。

 まあ、大きさイコール強さじゃないからな。

 というかそれを証明するかのように、スケルトンキングからただならぬ禍々しいオーラが出てるのですが……。


「……………………」


 ひぃいいい。

 ちょっと待ってよ!

 無言が一番怖いんですけどー!!!

 無言の圧とか本当に無理なんですけどー!!!

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