026:レベリングの旅へ、いざ参る

 私はカニの魔物とエビの魔物の交尾を見てしまったあの場所まで、足を一歩も止めることなく戻って来た。

 本当はネズミさんたちのところに戻ろうかとも思ったけど、私を追いかけて来たクラーケンがネズミさんたちに危害を及ぼす可能性も考えてここに来たんだ。


 ふぅー。もうここなら大丈夫だろう。

 クラーケンが追ってくる気配もない。

 はぁー、本当に助かったー!!

 地獄から生還したぞー!!!


 今だけは喜びを噛み締めさせてくれー。

 何度死を覚悟したことか。

 三途の川でイケメン冒険者に会っちゃったし。

 本当に生きててよかったよ……。


 キングラットの時もそうだったけど、この世界のモンスターって逃げ道を塞ぐんだな。

 私みたいな弱者にとっては最悪の習性だよ。


 これから先もクラーケンみたいな強いモンスターに遭遇しないとは限らないよね。

 それにクラーケンの縄張りの壁を上った時に判明したことだけど、出口までかなり時間かかりそうだよな。

 上の層に――出口に近付くに連れてモンスターが弱くなっていけばいいんだけど……。

 そうとも限らないよね。


 生きるためにもこれからは修行しなきゃかな。

 レベルアップは必須。もうあんな地獄のような思いはしたくない。

 そのためにも弱いモンスターと戦って倒して、魔石を食べて……。

 移動の際には宝石とか見つけて、それを食べて、って感じで地道にやっていくしかないよな。

 魔法とか習得できればいいんだけど、脳内の声がそれを教えてくれるはずないし。

 まあ、何事も頑張るしかないよね。

 なんだか、これって自分磨きのようなものよね。

 イケメン冒険者に会う未来は絶対なんだから、それまでに自分磨きをしなきゃよね。

 きっと強くて可愛いミミックちゃんに一目惚れすること間違いなしよ。


 よしっ。今後の方針も決まったし、早速レベリングの旅へレッツゴー!!

 と、言いたいところだけど……今はゆっくり休ませてくれぇ。

 もうくたくたのくたくたで……。 (ふかふかのベットで寝たい)


 まずは寝よう。

 ここは元々カニの魔物とエビの魔物の縄張りだったから、他の魔物は寄って来ないはず。

 念には念を、物陰に隠れながら寝るけど。

 なんだか、物陰に隠れるとレアアイテムが入ってそうな宝箱だな。

 まあ、そういう宝箱って大体ミミックなんだけど。

 そして私もミミックなんだけどね。

 それじゃ明日も生き抜くために……おやすみー!!!



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 んがーっ。

 ん、ん……朝か?

 いや、朝なのか昼なのか夜なのか、ここじゃわからないけども。

 なんかぐっすり眠れた気がする。

 疲れてたせいかな。

 イケメン冒険者の妄想をしてる余裕もなかったぐらいだったし。


 どっこいしょ。

 私は一歩前に出た。この行動は今の私にとってベットから起き上がったかのような行動だったからだ。

 ミミックになったからと言って人間らしさが完全に失ったわけじゃない。

 細かい部分だけどしっかりと人間らしさが残ってるし、残そうと意識しているのだ。


 さてさて、起きて早々あれなんだけど……レベリングの旅へレッツゴーだ!

 モンスターの警戒はもちろんのこと、落ちてる魔石も見逃さないようにしないとね。

 せっかくの朝食だ。美味しい魔石を食べたいなあ。


 私はアイススケートをしているように滑りながら移動してモンスターや魔石を探した。


 すいすーい。

 楽ちん、楽ちーん。

 壁も滑りながら上れちゃう万能ミミックちゃ〜ん。

 って、歌ってる場合じゃないぞ。

 早速見つけた……ヘビの魔物だ。 (10メートルくらいありそうだ)


 うわぁあ。ヘビかぁ。

 ミミックになっても嫌悪感あるもんなんだな。前世の時も嫌いだったからなぁ。

 クモとヘビとハチは本当に嫌い。

 そう言えばゴキブリとかは余裕だったな。

 あっ、でもゴキブリが余裕になったのは大人になってからだったかな。

 なんだろう。社会の闇を知ってしまったからかな。

 ゴキブリとかどうでもよくなってしまったんだよね。

 って、そんな話してる場合じゃない。

 どうするよ。あのヘビ。


 戦う?

 それとも逃げる?


 逃げたとしてもまたどこかで遭遇したら戦うことになりそうだし……だったら今戦う方が賢明かな?

 まあ、レベルアップの旅だしね。

 好き嫌いせずに戦うとするか。


「キィイ、キィイイイ! (おいヘビ野郎!)」


「シャァー!!!」


 うぉお。ヘビらしい鳴き声だ。

 って、鳴き声に感心してる場合か。

 戦ってやるぞー!!!


 不意打ちって手も考えたけど、相手は1体。

 ここは正々堂々真っ向勝負で戦って、自分の実力を図るいい機会だと思ってる。

 だからこうしてヘビの正面に立ってるんだ。

 嫌悪感も恐怖心も押し殺して。


 そうじゃなきゃこの先、生きていけない。

 生きていくための自信をもう一度取り戻したい。

 そしてイケメン冒険者に会うんだ。

 イケメン冒険者に会っても恥ずかしくない自分でいたいんだ。


 そのための糧となってもらうぞ、ヘビの魔物よ。


「シャァーッ!!!!」


 ヘビの魔物が襲いかかって来た。


 おっと!!

 巨体の割にはなかなか速いな。

 それにあの牙に噛まれたらヤバそうだ。

 でも……こっちとらお前くらいの大きさの触手を8本同時に相手して来たんだよ!!!


 ヘビの魔物の首元目掛けて跳躍。

 そのまま口を大きく開けて噛みつく。


 必殺――噛み付き攻撃ボックスファングッ!!!


「シャァアアアー!!!!!」


 ヘビの魔物の断末魔が洞窟内に響き渡った。


 ――ボトッン。


 ヘビの魔物の首が落ちた。

 それと同時に断末魔が消え、直後、ヘビの魔物の体が粒子となって消失していく。


 まさか一撃で……一撃で倒せるだなんて……。

 クラーケンの触手と比べたらもろすぎじゃないか?

 いや、クラーケンが強すぎるのか。

 このヘビの魔物だってスピードもパワーも申し分なかったし。

 でも私の方が強かった。

 戦える。戦えるぞ。

 ヘビの魔物くらいのモンスターとなら戦えるぞ。


 粒子となって消失したヘビの魔物の体から深緑色の魔石が出現した。

 私は舌を使って魔石を掴み、そのまま躊躇することなく口の中へと放り込んだ。

 この戦いの報酬としていただく権利が私にはあるからだ。 (躊躇なんてしてらんなーい)


 ――ガリガリボリッ!!


 さあ、レベルアップしたまえー……って、これだけじゃしないよね。 (うん、わかってた)

 味も絶妙にまずいし、経験値全然詰まって無さそう。

 まあ、レベリングの旅は始まったばかりだ。

 気長にやっていこう。

 次の獲物を探しにいくぞー!!

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