020:蛇が出るか鬼が出るか……って、タコ!?

 ぎゃぁああああああああ!!!

 やっぱりこうなるのねー!!


 私はカニとエビの魔物に追われていた。


 こんなお決まりのパターンいらないんだけどー!!!

 こればっか! こればっかじゃんかよー!


 カニとエビは2階建の建物くらいの大きさだ。 (怪獣かよ)

 大迫力すぎるんだけどー!


 それにめちゃくちゃ速いし、しつこいっ!!

 レベルアップした私と互角の……いや、それ以上のスピードだよ。

 追い付かれるのも時間の問題すぎるー!!


 辛うじて追い付かれてないのは、カニとエビが大きすぎるからだ。

 洞窟のあちこちに体がぶつかって思うように進めていない。

 もしもここが草原とか広野とか広々とした場所だったらと考えると……捕食されていたに違いない。

 カニとエビに食べられるだなんて嫌だよー!

 いや、カニとエビにじゃなくても嫌だー!

 あっ、イケメン冒険者ならいいかもっ!


 って、そうじゃない!

 そんなこと言ってる場合じゃなーい! !


 打開策を考えないと本当に食べられちゃう。

 魔石にされて食べられちゃーう!!


「ブリャブリャッ!」

「ブシュブシュッ!」


 ああー、なんて咆哮なの。

 とても怒ってらっしゃる。

 そうだよね。交尾を見られたんだもんね。

 見られたくなかったよね。


 でもあんなところでやってたあなたたちも悪いんだからねー!!

 ちょっとくらい自覚してほしいんだけど!


「ブリャブリャーッ!!」

「ブシュブシューッ!!」


 ひぃいいいい。

 怖すぎる。怖すぎるってー!!!


 このままだと、元拠点に――ネズミさんたちがいる場所にたどり着いちゃう。

 ネズミさんたちとは短い間だったけど、苦楽を共にした仲間だ。

 危険な目には遭わせたくない。

 だったら――


 急カーブ、そしてUターン。

 別ルートを進むしかないっ!!


 この道は分かれ道で進まなかった方だ。

 吉と出るか凶と出るか。

 はたまた蛇が出るか鬼が出るか。 (蛇も鬼も出ないでー!!)


 カニとエビは……本当にしつこいな。懲りずに追いかけてきてるよ。


 しつこい。しつこーい!

 あっちいけー。ついてくんなー!


「ブリャブリャーッ!!!」

「ブシュブシューッ!!!」


 ひぃいいいいいい。

 2体とも咆哮が怖すぎるってー。


 おっ、なんか広いところに出れそうだぞ。

 狭い一本道よりは撒けるチャンスがあるかもしれない。

 このまま一気に行くぞー!


 うおりゃー!!!!!


 ぬあ!?

 みずうみ!?


 私の瞳に映ったのはエメラルド色に輝く綺麗な湖だった。

 世界遺産になること間違いなしの美しさだ。

 って、今は湖に見惚れてる場合じゃない。

 早く逃げないとっ。


 この体は多分、いや、絶対に泳げない。前世でも泳げなかったし、絶対に泳げない。

 だから極力、湖には近付かずに撒かないと。

 相手はエビとカニ。泳ぎのプロフェッショナルだ。

 と言うことはここは奴らのホーム。

 どうやら私は凶を引いてしまったようだな。


 でも諦めないからねっ!!

 イケメン冒険者に会って、私の〝初めて〟を奪ってもらうまでは諦めるもんですかー!


 ――パシンッ、バシンッ!!!!


 突然、むちをしなるような音が私の鼓膜を振動させた。


 な、何の音!?


 私の視線は音がした方へ吸い寄せられるように動く。


 なっ!?

 ど、どういうこと!?

 カニとエビが浮いてる!?


 いや、浮いてるんじゃない。

 カニとエビにとてつもなくぶっとい縄みたいなのが巻き付いてる。

 その縄がカニとエビを持ち上げてるんだ。


 なんなの? この縄は。

 縄を辿ると……エメラルドグリーンの湖に繋がっていた。


 湖からぶっとい縄が出てて……カニとエビを掴んでいる。

 それで、カニとエビを湖に運んで……。

 うわっ、水しぶき、やばっ!

 カニとエビがめちゃくちゃ暴れてるぞ!?

 泳ぎが得意じゃなかったのか?

 いや、違う。何者かに攻撃をされて苦しんでるんだ。

 カニとエビ以外にもモンスターがいるっているのか。

 それも湖の中に……ぶっとい縄を使ったモンスターが。


「ブリャブリャーッ!!!」

「ブシュブシューッ!!!」


 カニとエビの魔物の悲鳴が洞窟内に轟く。

 それと同時にバリバリ、ボリボリ、と堅いものが砕かれるような音も聞こえてくる。

 と思ったら、すぐにその音は消えた。恐らくカニとエビは粒子になって消えたのだろう。


 まずいまずいまずいまずい。

 カニとエビの脅威から逃れられたけど、それ以上の脅威が!!

 早くここから逃げないとっ!!


 ――あっ、手遅れだ……。


「ルォオオオオオオーンッ!!!」


 私の前に立ち塞がった怪物を私は知っている。

 神話とかでよく登場する巨大なタコ――またの名を、海の怪物クラーケンだ。

 蛇でもなく鬼でもなくタコが現れたとか……なんて運がないんだ私は……。


「ルォオオオオオオーンッ!!!!」


 それに私のことを逃してくれそうにない感じが……。

 何度目だろうか。絶体絶命のピンチは……。とほほ……。

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