004:ドラゴンの性事情なんて知らないんだからー!

 私は洞窟どうくつの出口を目指して進んだ。

 どこに出口があるか分からないから、ただひたすらに、真っ直ぐに進んだ。


 体に飾った宝石のおかげで、薄暗い洞窟に明かりを照らしてくれる。少しは進みやすくなっていた。

 お洒落しゃれだし、非常食ひじょうしょくだし、松明たいまつ代わりにもなる。

 なんて万能ばんのうなの。この世界の宝石はっ!


 それにしても冒険者どころか魔獣の1匹にすら遭遇そうぐうしないなぁ。

 洞窟だから虫とか蝙蝠こうもりとか、その辺りの生き物とかもいるかもって思ったけど、それすらもいないなんて……。

 世界に私一人だけみたいな感覚だ。怖っ!!


 いやでもあり得るぞ。

 こんなに生き物に遭遇そうぐうしないんだ。

 本当に私一人だけかも……。


 待て待て待て、落ち着け私。

 ここでネガティブ思考になってはいけない。

 イケメン冒険者に会うんだろ?

 だったら足を止めずに進むしかない。まあ、足なんて生えてないんですけど。

 だって私ミミックだからー!!


「カパカパカパカパカパカパカパッ」


 もうこの笑い方にも慣れてきたもんだ。 (順応性じゅんおうせいが早い)


 でもな〜、さすがに独りってのも刺激が足りないよね。

 せっかくだしこの世界の生き物とか見てみたい。

 猫とか犬とかウサギみたいに可愛くて小さくてもふもふの生き物とかいるのかな?

 それこそ異世界ということでフェンリルとか?

 大きなもふもふとか最高すぎりゅ。全身もふもふに包まれたいっ。

 なんなら私を背中に乗せて運んでほしい。

 もふもふに包まれながら移動か〜。夢のようだ。

 いいな〜、フェンリル。会いたいな〜。

 イケメン冒険者が連れてたらなお最高だな〜。


「きゅぅぅぅぅうん」


 な、なんだ?

 どこか遠くから可愛らしい鳴き声が聞こえたぞ!

 私はこの世界で一人じゃなかったんだ! 私以外に生き物がいたんだ!

 嬉しい。嬉しいぞ!


 声からして子犬って感じだ。

 あっ!

 もしかしてフェンリルかも!?


「きゅぅぅぅぅう〜ん」


 ま、また聞こえたぞ!

 こうしちゃいられない。早速フェンリルに会いに行こう!

 もしかしたらフェンリルを連れてる冒険者もいるかもだし!

 運命の人に会えちゃったりして〜。一目惚れなんかしちゃったりして〜。


 ぐへへがへへっ。


 よっしゃー!

 イケメン冒険者カモ〜ン!

 イケメン勇者様はもっとカモ〜ン!


「きゅぅぅううう〜ん!!」


 おっ! さっきよりも鳴き声が大きくなってる。

 洞窟だからなのか鳴き声が反響してるなぁ。やけに大きいや。

 でも近付いてる証拠でもあるぞ。

 くぅうううー!!

 はやる気持ちを抑えられないよぉー!!


 私はガシャガシャと飛び跳ねながら、可愛らしい鳴き声がする方へと向かう。


「ぎゅぅぅうううお〜ん!!!!」


 この先の曲がり角。絶対そこにいる!

 あと少し!

 もう少しでフェンリルに会えるぞ!


 私は曲がり角を曲がった。

 この体にはもう慣れたものでカーブなんてお手の物よ。

 スピードを一切落とさずできちゃうんだから!


 初めましてー、フェンリルちゃ――


「――ぎゅぅうおおおおおおおんっ!!!!!」


 脳内に響き、残り続ける鳴き声。

 まるで時間が止まったかのような感覚を味わう。

 衝撃的な光景を前に体は1ミリも動いてはくれなかった。

 それでも体が動かなかったことは、不幸中の幸いと言えるだろう。

 なぜなら――私の瞳に映る衝撃的な光景は――


「――ぎゃおすっ! ぎゃおす!!」

「ぎゅぅうぁあああああんっ!!!!!」


 ドラゴンとドラゴンの交尾シーンだったからだ。


 ド、ドラゴン!?

 ドラゴンって交尾するんだ。ちょっと興奮した。 (だいぶ興奮した)

 と言うか、初めてドラゴン見たんだけど!

 すごい! ゲームとかアニメで見た通りのまんまだ!

 すごくでかい! そして生々しい光景だ。

 まさか見せつけられてしまうなんて……。

 なんて言うか……その……す、すごいなドラゴンの交尾って……。


「――ぎゃおすっ! ぎゃおす!!」

「ぎゅぅうぁあああああんっ!!!!!」


 って、なに私は覗き見みたいなことしてるんだ。

 まあ、今は動きを止めて頭 (蓋)も閉じてるから、ただの宝箱にしか見えないと思うけど……。

 でも、のぞき見してる罪悪感ざいあくかんってのはあるよね。

 この場合はバレずにここから去るのが正解だろう。


 ドラゴンさん。すみませんでした。

 私はここから静かに去りますね。どうぞごゆっくり続けてください。

 今日のことは忘れておきますので〜。 (一生忘れられない)

 それでは〜。


 私はドラゴンにバレないようにゆっくりときびすを返した。

 跳ねなくても移動する術を知っている。

 すり足をしているように動くのだ。

 こうすることによってガシャガシャと音を立てずに移動することが可能なのだ。


 いや〜、初めての遭遇そうぐうがまさかドラゴンだなんて。

 それも交尾の最中のドラゴン。

 ドラゴンカップルだな、ありゃ。


 メスのドラゴンってあんなに可愛い声出すんだなぁ。

 子犬と勘違いするほどに可愛い鳴き声っ。


 それにしてもこんな場面に遭遇するなんて、運がいいのか悪いのか。

 いや、絶対運はいいな。

 ドラゴンの交尾なんて滅多に見ることできないだろうし。

 と言うか前世のゲームとかアニメのシーンでもドラゴンの交尾シーンなんて見たことなかったぞ!!

 まあ、規制やらなんやら大人の事情でできなかったんだろうなぁ。

 いや〜、いい経験したわ〜。いいもの見れましたっ。


 ――ん?


 なんだろう?

 違和感いわかんを感じるのは気のせいか?

 さっきまであんなにあえいでたのに、メスドラゴンさんのあえぎ声が全く聞こえなくなったぞ。

 なんでだろう? オスドラゴンが力果てちゃった? フィニッシュした感じ? 俗に言う賢者タイムってやつ?

 だとしてもこの違和感は…………まるで、何かにじーっと見られているような……。

 物凄い視線の正体って……ドラゴンさんじゃないよね?

 ま、まさかね……も、もしかして私の存在に気付いちゃった?


 ゆ、ゆっくり……ゆっくりと……。


 私は振り向くことにした。

 この違和感の正体を確認しなければいけないと思ったからだ。


 ゆっくり、ゆっくり……っと。


 あっ――


 私の瞳に映ったのは――


「ギャオォオオオオオオス!!!!!」

「グォォォォォォオオオス!!!!!」


 ご覧の通り、誰がどう見てもご乱心らんしんのドラゴンカップルさんだ。 (そりゃそうだよね)


「キィイイイイイイイイ (ひぃいいいいいいいい)」


 た、助けてー!!!!

 私どうなっちゃうのー!?

 食べられちゃうよー!!!

 いや、食べる肉なんてないか。

 それじゃ、私よー!!!

 交尾を邪魔した腹いせにー!! (なんか卑猥ひわいだ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る