第6話 俺の親友はどことなく面倒くさそう
ゴミも捨て終わり、席に返った俺は風雅に、この後なにをするか聞いてみた。
「この後?俺はなんでも良いけど、そろそろ帰ってもいいんじゃねーか?」
どこかめんどくさそうな――飽き飽きしているような風雅の姿に疑問を持ちながらも口を開く。
「あーおっけい。風雅が言うならそうしよう」
いつもならもっと遊んでいたのだけれど、なにかに疲れたのだろう。
奢られた立場として風雅の意見に反対することも出来ないしな。
「ん。なら俺は先帰るから2人で帰っててくれ」
「え?俺ら2人?」
「あれ?そう言ったんだけど、聞こえなかった?」
一瞬風雅の顔の裏で見たことのない表情が見えたような気が……。
それに、こんな風雅は見たことがない。
ずっとスマホとにらめっこをしていて、まるで俺たちと一緒にいる時間が面倒くさそう。
――あ、そういうことか。柳原と一緒に帰って距離を縮めろと言いたいんだな?
そして、風雅は柳原とあまり一緒にいたくないから、先に帰ると言った。
少し変わった雰囲気のせいで気がつくのが一瞬遅れてしまった。
「あーごめん風雅。仲が悪いコイツと帰るのが嫌すぎて一瞬戸惑っただけ」
「ちょっと。私と帰れることに感謝しなさいよ」
「嫌だわ。まぁ風雅にも色々用事があるようだし、致し方ないけど一緒に帰ってやるよ」
「なにその上から目線」
「身長差があるから上から目線にもなるのも必然」
「誰がチビよ」
「言ってねーよ」
コイツが平均よりもデカいのも合って、柳原と俺との身長差は5cm程度。
そんな言い合いをしている間にも風雅はスマホを片付けることなく、俺たちの席から離れていく。
「あ、じゃあな風雅」
風雅の背中に慌てて言う俺に対し、振り返ることなく軽く手を上げてくる風雅は片耳にイヤホンをしてワクドナルドを後にした。
正直風雅をDVしているこの女と一緒にいるのは嫌だが、風雅を守るためだ。頑張れ俺。
風雅が去った後、俺たちも帰ろうと言葉を口にして立ち上がり、鞄を手に持つ。
「私との放課後をあっさり終わらせちゃっていいの?柏野には絶対訪れない絶好のチャンスよ?」
「俺ら財布ないじゃん」
「あ……」
「バカだな」
「うるさいアホ。すぐ煽るのやめた方が良いよ。嫌われるよ」
「お前にしか煽ってねーよ」
「いらない特別をどうもありがとう」
「どういたしまして」
柳原も俺に続いて鞄を持って立ち上がり、肩1つ分の間を空けて隣を歩く。
嫌でも肩や手は当たりたくないので鞄は柳原側の方の手で持ち、柳原も俺と同じように鞄を肩にかけてワクドナルドを後にする。
一応先に出た風雅がどこにもいないことを確認してから家の方に向かって歩き出す。
「家まで送ってやろうか」
「え、なに。今更気を使うようになったの?無理あるくない?」
「人の優しさは素直に受け取れよ。それに柳原にとっては珍しい俺の優しさだぞ」
「あなたの優しさ以外なら全部受け取るわ。けど、柏野の優しさはちょっと……」
「うるせーなー。送って欲しいか送られたくないかのどっちかで言えよ」
「別にどっちでも良い」
「なら送ってく」
「どーもー」
気のせいではないと思うが、ワクドナルドに居るときよりも明らかに柳原の口調が強くなった気がする。
風雅が居たから口調を気遣っていたってのは少し無理があるか。1ヶ月前は風雅が居ようとお構いなしにずっと言い合ってたし。
「なに?私の顔になにかついてる?」
「いやなんも」
「ならなに?」
「ワクドナルドに居るときよりも口調が強い気がしただけ」
「あ、そう。気のせいじゃない?」
「ならいいんだけど」
絶対気のせいではないと思うんだがな。
まぁ柳原のことだしなにか隠しているのだろう。
なんなら先程の柳原の方が少し違和感があったから、こっちの方が違和感がないと言えば全くない。
「てか、私の家覚えてるの?」
「はい?覚えてますけども。流石に舐め過ぎだろ」
「柏野のことだから忘れているかと思った」
昔、風雅を私の家に連れて来てという無茶なお願いを言われた時、忘れないように地図を何十枚も送ってきたのを忘れたのか?
あんなのされたら嫌でも覚えるぞ。
「しっかり覚えてる」
「そ」
睨みながら言う俺に、柳原はどういう感情を持っているのか真顔のまま短く言葉を返してくる。
そんな柳原に首を傾げるが、特になにも言ってくることはないので無視して俺も前を向く。
商店街を抜け、町に入るとすぐに柳原の家が見えてくる。
先程家まで送ると言う提案はしたものの、柳原の家は俺の家よりも学校側にあり、その先に俺の家があるので必然的にここを通ることになる。
だから許可を取る必要はないのだが、言葉にした方が好感度が上がると思って言葉にしてみた。まぁ結果としては変な言い合いになってしまったのだけれど。
「んじゃ、送ってあげたことに感謝しながら寝ろよ」
「なら私と帰れたことに有り難みを感じながら寝なさいよ」
「断固拒否する」
「なら私も拒否します」
「そうかいそうかい。まぁまた明日学校で」
「はいはい。また明日」
お互いに真顔のまま別れを告げた後、俺は振り返って我が家の方へと歩き出し、柳原は俺が振り返った後、玄関を開けて「ただいまー」と俺には絶対に向けないような元気な声を親に向けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます