荷堂:行

第1話 樫木 想の通う学校

 突然だが、俺は今凄い困っている。

 簡単な話だ、誰だって放課後、学校の廊下を歩いていて突如とつじょ後ろの角から刃物持ったヒト型の何かに追われたら逃げるだろ。いつまで追ってくるんだこいつ……

 先輩は多分モノカゲじゃないとは言ってたけど、もし、モノカゲだったら死ぬとかふざけてるだろ!! 

 こいつと俺の距離的に体が振り返る間に絶対刺されるから反撃は難しいし、体力的にもそろそろきつい。かれこれあれこれ、もう一時間経とうとしている。先生に二回しか注意されていないのが奇跡だ。なんだこれ。

 あぁ……先輩の頼みなんて聞かなきゃよかった……あ、やばい、もう刺される……!

 死ぬかと思ったその瞬間、パーンっと弾ける音と共にその青いヒト型の何かは赤いペンキのように、いやペンキ? として地面に飛び散ってしまった。

「ごめんね~まさかモノカゲだとは思ってなくて~!」

 半ば放心状態の俺にそう話しかけてきたのは元凶である黒縁眼鏡にロングの赤みがかった黒い髪がトレードマークの先輩、双葉ふたば アヤ先輩だった。放心状態から戻った俺は先輩に助けられた事の感謝した。

 だが同時に「やっぱりモノカゲじゃねーか!!」と思いっきり口から漏れたツッコミも混ざっていた。否、不満だろうか。

 先輩は「ごめんごめーん!」と言いながらペンキのような影に手を伸ばしては回収している。ペンキのような影って? そう急かさないでくれ。死に損ないも良いところなんだ。

 言ってなかったが、アヤ先輩はモノカゲだ。知ってる? まぁいいけど。

 存在してはいるけれどしていないみたいな曖昧な概念的な何かだ。だからこそ今のモノカゲを倒せた。モノカゲというだけでも強いのだが、加えて今回はアヤ先輩の方が強かったらしい。モノカゲにはその幻影げんえい特有の能力がある。それは基本幻影が具現化した由来によって変わる。

 アヤ先輩の場合は人間の生死に関する考えから発生した。先輩はその人の数だけ存在するであろう膨大な量の考えや無意識を美しさとして捉え、芸術ですらあると見ている。

 故に、アヤ先輩の能力は言ってしまえばペンキだ。色はその対象を表し、アヤ先輩が思うようにアヤ先輩の思考に塗り潰されるように、押し潰されるようにアヤ先輩の芸術品うつくしさの一部となってしまう。このモノカゲもそうだった。そんなアヤ先輩は俺と同じ帰宅部だ。美術部ではない。

 アヤ先輩のペンキは特殊で本当のペンキではなく、影のペンキだ。アヤ先輩であれば回収できる。回収したペンキは先輩の力の一部であり、対象の情報そのものだ。今ちょうど回収し終わったみたいだ。

「このモノカゲは妬みと嫌悪感が混ざってる。最近多いね~、恋愛なのか何なのか分かんないけどさ。妬みや好意、恨み、辛み、憎悪……全部集まるとモノカゲになる感情ばっかだよ~」

「集まるとモノカゲになる……?」

「あれ、樫木かしき君に言ってなかったっけ? シンヨウは一定数集まると強くはないかもだけどモノカゲになるんだよ?」

「聞いてないですよ……」

 ため息を漏らすと「ごめんって」と謝られた。だからこの前からシンヨウが多いと思っていたのに最近はモノカゲも多くなってきなと感じてたのか……困ったな。

「まぁ、だとしてもこれは異常だ。いくらなんでも多すぎる。普通の高校の三倍はシンヨウがいる。必然的にモノカゲも増えてるし」

「やっぱり俺のクラスの女子が行方不明になったのも関係あるんですかね?」

「どうだろうね……でもここ、一年生の校舎に多いのは事実だ。きっと何かあるよ。私はこのモノカゲの情報を頼りに少し調べたい場所があるから調べておくよ」

「じゃあ、俺も一緒に……」

行きますと言おうとしたところで、

樫木かしき君、確かに私も君に手伝って貰うことはよくある。実際助かってるし。でもまだモノカゲの能力、上手く使えてないよね。強力なモノカゲだけどそのモノカゲを自分で上手く制御して使えないならまだ危ないから私は君を連れていくことはできない」

「……」

 その通りだ。実際にまだ上手くいったのはあれっきりで基本上手く使えていない。俺の感情が思考が具現化した幻影、仮面の幻影。

 確かにこのままでは邪魔にしかならない。ここは付いていくのは諦めて自分がしないといけないことをするしかない。

「それでいいんだよ。無理しないでいいから、私を助けてくれた君に恩を仇で返すような真似はしたくないってだけなんだ。ごめんね。それにもう遅いよ。早く帰った方がいい」

「そうですね……ありがとうございます。さようなら」

「うん、じゃあね」


俺には他に何ができるんだろうか。

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