このままでは地球が滅びてしまいます!

風戸輝斗

第1話 退屈で平凡でありふれた日々ってのが実は一番幸せなんだぜ?

 風俗習慣の効力なんてこれっぽっちも信じちゃいないが、未だにサンタを信じる精神年齢五歳以下の家族のせいで、七夕なる願望を汲々と綴り夜空に思いを馳せる児戯は我が家の恒例行事となっている。


 児戯は言いすぎだって? 

 ならそう言う君は、七夕に願いごとをして叶った試しがあるのか? 


 俺はないね。短冊に綴った欲望も、聖なる夜にソックスの中に突っこんだ最新ゲーム機が欲しいという願望も、一度だって叶った試しはない。


 要するに織姫もサンタも空想上の存在なんだ。


 まったく、メタフィクションなら始めからそう言えってんだ。


 おかげで親父みたいな残念な親が子に誤謬を吹き込んで、フィクションがあたかも現実のように現存しちまう。で、風習として根付いてくってわけだ。そもそも日本は仏教を信仰してるのに、なんでキリストの生誕を祝ってるんだろうな。


 半ば腐った思考だと自覚しているが仕方ないだろ。真理なんだからさ。


 世の中には気づかない方が幸せなことが仰山ある。


 しかし人間成長に伴い学問の裾野が広がっていくもんだから、否が応にも現実に直面してしまう。

 仮面を被ったヒーローも、地球侵略を目論む地球外生命体もいないという現実に大抵の奴は気づく。


 でも、もしもそんな奴等が本当にいたら、毎日が今とは比べ物にならないくらい楽しいんだろうな。


 君だってあるだろ、脳内で不審者を撃退する妄想をしたこと。


 とどのつまり、俺たちは危機ひとつ訪れやしない現実に退屈してるんだろうさ。


 無論、平和はいいことだ。


 けどまぁ、すこ~しくらい刺激があったっていいんじゃないかと俺は思うのだが、どうだろう。別におかしくないよな?


 ……なんて、思春期の高校生にありがちな残念な願望を胸の内に潜めながら悠々自適な日々を送っていたのだが、今にして思えばあの平和はすごく貴重なものなのだったと思う。 


 大切なものに失ってはじめて気づくのは人の性だ。俺もその一人だった。


 いいかみんな。よく聞けよ。


 退屈ってのは素晴らしいもんなんだ。


 欠伸を噛み殺しながら通学路を歩いて、ぼけ~と授業を受けて、ポテチ片手にゲームに没頭して。


 そんな日常に不満があるのならぜひ俺の元にきてほしい。嬉々として職務交代してやるからさ。


 さて、ここまで話して大方察しのいい方はお気づきだろうが、俺の日常は平和じゃないし普通じゃない。


 すべてが変わったのは二週間前。


 ひとりの少女との出会いがはじまりだった。


 ではイントロダクションはこの辺にして。


 記憶遡行の旅に出かけるとしよう――。


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