20.上機嫌の代償


 さてそんな重臣たち。

 ゼインに重用されていることで、この国の貴族としては皆が高位にあって。

 さすれば挨拶の順番が巡って来るのも早かった。


 彼らもまたゼインと同じようにこうした慣例を苦手としているが、彼らが挨拶をしないと、いつまでもゼインに挨拶出来ない者たちがいるせいで、一応はと全員が順にゼインの元へと顔を見せにくる。


 その顔がまた、どれもこれもにやついた締まりのないものだったから。


「フロスティーンのことはもう知っていよう。飽きるほど見てきた顔をわざわざ見せに来るな。早く下がって勝手に楽しめ」


 他の貴族には与えぬ言葉で、ゼインは急いで彼らを追い返すのだった。


 それもまたフロスティーンに以前とは違った興味を抱く彼らが、彼女と話したそうにしているのを感知して、阻止する狙いもあってのことだったけれど。

 ゼインが自身の本音を今宵のうちに追及するには至らない。


 一方で重臣たちはそんなゼインの素っ気ない態度にいたく喜んで、集まっては酒を酌み交わし面白おかしく語り始めた。


 それは計算ではなかったけれど。

 耳を澄ませた貴族たちを怯えさせるに十分な情報を与えることになる。


 その後の件も相まって、『陛下が王女を気に入った』という話は明日には広く知られるところとなるのだが。



 今はまだ夜会中だ。


 冷やかしの彼らが現われなくなろうとも。

 まだまだ貴族らの列は長く、二人が挨拶を受ける時間は続く。


 そうして一人、また一人と挨拶にやって来る貴族らを追い返すたびに。

 ゼインとフロスティーンは目を合わせるようになっていた。



 ──緊張はなさそうか。疲れも見えないな?



 にこりと微笑むフロスティーンは、化粧のせいか、明る過ぎる照明のせいか、普段より艶めいて、飲んでもいない酒に酔っているようにも見えた。



 ──そうだな。たまには着飾らせる日があっていい。



 フロスティーンは何も語っていないのに、一人納得するゼイン。

 上機嫌のおかげでワインも進み、これまでの夜会ではあり得ないほどに気が緩んでいたところはある。


 だからなのであろうか。


 しかしいくらここでゼインが気を張っていたとしても。

 自国にもここまでの愚者がいると想像することは出来なかったはず。


 だからそう。

 どうあれ、これを防ぐことは叶わなかったのだ。



「フロスティーン様は祖国にてなる異名を持たれていたとお聞きしました」



 ──あ゛?



 もうこの時点で、ゼインは射殺す勢いで、娘を睨みつけていたのだが。

 娘にはフロスティーンしか見えていなかったようで、まだ言葉が続いてしまう。



「それで何故そのように当然のお顔をされて、ゼイン様の妃に収まろうとされているのでしょうか?フロスティーン様はこの国に厄災を導くおつもりですの?」



 ──愚かな。この場で星屑にしてくれよう。



 機嫌が良かったからこそ、怒りに満ちたゼインの思考は過激なものとなる。

 そこには僅かではない酔いも加わっていたかもしれない。







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