5.天啓を得た王女
いよいよフロスティーンが待ち望む湯浴みの時が来た。
──お湯よ。見て、お湯なのよ。これ全部がお湯よ?白い靄が沢山~!
フロスティーンが大興奮していることなど、どこの侍女に分かろうか。
無表情で指示に従うフロスティーンに、侍女たちは王女なのだから世話をされることに慣れていて当然だと捉えてしまったが。
──え?ドレスを脱がせてくださる?それもお仕事なの。え?裸になるの?
フロスティーンが内心で戸惑っていることを誰も知らず。
──浸かってくださいですって?ここに入ればいいのよね?行くわよ~!
恐る恐る浴槽に足を踏み入れたフロスティーン。
──足が温かいわ。どうぞ肩まで?肩までですって?本当にいいのよね?入るわよ?いいのね?
侍女たちの様子に変化はなく。
フロスティーンは覚悟を決めて、勢いよく湯に肩まで浸かった。
──凄いわ。温かいに包まれている。すべてが温かいのよ。凄いわ。お湯って凄いのね。あぁ、お湯が。待って。お湯が流れてしまうわ。え?足すの?まだお湯を足してくださる?そんな……凄いわ。
温かさに包まれながら、フロスティーンの戸惑いは続く。
──え?洗ってくださる?そう、それもお仕事なの。ふふ。くすぐったいわ。どうしましょう。
身を捩りたくなったフロスティーンだが、それでも表情に変化はなかった。
おかげで侍女たちは、フロスティーンの身体を隅々まで磨くことが出来ている。
──気持ちがいいわ。凄いわ。魔法の手なの?
頭を洗われるときには、フロスティーンはその気持ち良さに目を閉じていた。
身体を洗う間、フロスティーンが無表情で侍女らの手を凝視するものだから、やりにくかった侍女たちは良かったと安堵する。
──こんなにも温かい場所があるなんて。本当に凄いのよ?爪の先まで温かいのだから。
爪の先で湯の温かさを感知したとは思えないが。
人知れず興奮していたフロスティーンは、手伝う侍女らから数度出たひゅっと息を呑み込む音には気付けなかった。
──お湯から出ても温かいわ。これは料理やお茶と同じなのよ。このドレスに秘密があるのね?
ぽかぽかと温まる身体に感動しながら、初めて袖を通したシンプルな室内着のワンピースの着心地の良さにも感激するフロスティーン。
──温かいだけでないわ。軽いわ。今なら空も飛べそうよ。
部屋に戻ってソファーに座り、髪を乾かしてくれるという侍女に身を委ねれば。
──これが髪の手入れなの?爪の手入れまでしてくださる?まぁ、足まで揉んで。肩も……。今なら何でも話してしまいそう。
そしてフロスティーンは天啓を得た。
──分かったわ!尋問の手段ね?
温かい食事、温かいお茶、温かいお湯に、温かい服。
すべては尋問のために与えられたと理解したフロスティーン。
隣国に嫁いできたこと。存在を疑われていること。
自分の置かれた状況を思い出したフロスティーンであったが。
侍女たちの手によるマッサージの気持ち良さには抗えず。
尋問のときを待たずして、気が付いたときにはふわふわの何かに包まれて眠っているのだった。
目覚めたフロスティーンは、次の天啓を得る。
それはもう悟りの域だった。
「天に召されたのね!」
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