第8話 腹腔鏡手術

 2021年4月2日

 柄にもなく私はワクワクしていた。

 心配して病院に来てくれていた両親には申し訳ないけれども、ワクワクしていた。

 前日、六人部屋の病室でもすやすやよく眠れたし、朝の目覚めも爽やかだった。

 痩せたのである。私はこの日のために2.5ヶ月間頑張った。

 7㎏痩せたのだ。

 前日の診察で婦人科の先生にお褒めの言葉もいただき、私の心は晴れやかだった。


 手術着を着て、さきに刺してある点滴用の針を腕につけて手術室まで自分で歩いて行く。

 手術室はがらんとしていて飾り気のない室内に、麻酔やら心拍数を計測するためやらの機械が置かれていた。

 手術台のまわりには執刀医の婦人科の先生含む、四名くらいのスタッフが私を待っている。


――まるで悪の秘密結社の手術室みたいではないか。


 いや、悪の秘密結社が世の手術室を真似てレイアウトしただけで、こっちが本家本元の「手術室」である。私の感想はさすがに失礼だが、まあ口には出してないので赦して貰おう。


 手術台に横になり、マスクやらなにやらを取り付けられる。

「息を吸ってください。すぐに眠くなりますよ」

 そう声を掛けられたので、息を吸う。


――あ、林檎の香りだ。麻酔ガスは林檎臭か。私は林檎より柑橘の方が好……(ここで意識は途切れた)


 そして、次に目が覚めると、私は病室に戻っていたのであった。

 手術が終わって、手術室で一度、声を掛けられて返事をしたそうだが、全然覚えてない。

 手術で切除した皮様囊腫をみせて貰ったそうだが、もちろん覚えてない(惜しいことをした)。

 気がついたら病室にいて、痛み止めが切れかかったのか「いてえ」と思いながら、口に酸素マスクつけられて唸っていた。

 手術は「主観的には」一秒で終わったのである。

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