第4話 人探し
「旦那方、着きましたよ」
御者の優しい声で、ようやく目を覚ます。
幼少の頃から、父に連れられて馬車の旅はしていたが、やはりかなり疲れてしまう。
それに、家から王宮まではかなり距離があるのだ。
この旅も、なんだかんだで三日もかかってしまった。
……帰りもこれがあると思うと、少し憂鬱になってしまう。
「いきましょうか、エリヌス様」
「ああ」
この王都の入口から王宮までは、さほど遠くない。
あと少しの辛抱だ……!!
◆
……つ、着いた……。
長旅のせいもあり、想像以上に疲れてしまった……。
早く宿を取って、休みに行きたい……。
「カーディナリス家のエリヌスだ。通してくれ」
「ご身分を証明できるものは?」
「ん」
家紋が刻まれた首飾りを見せると、門番は軽く会釈し、すぐに通してくれた。
「ええと、エリヌス様……」
「なんだ?」
「その、こちらの件ですが……」
そう言ってオリーブは、懐にしまってあった手紙を大事そうに取り出した。
……ああ、そういえば、出発前に父から紹介状を渡されていたな。
恐らく、王国お抱えの騎士団かどこかで、剣術について学んでくるのだろう。
「もう王宮には着いたからな。後は好きにしてていいぞ」
「はっ。ありがとうございます」
「ただ、夕刻に食事会が入っているからな。それまでには落ち合うぞ」
「え、わたくしも参加してよろしいのですか……!?」
「当然だ。どうせなら、その場でコネでも作っておけ」
ちなみにだが、私はもともとそのつもりだ。
ここでコネを作っておいて、万が一、将来死亡フラグ回避を失敗したとしても、そこから救済されるようなコネができるかもしれない。
……まあ、あくまでも希望的観測なのだが。
それでも、コネがあるに越したことは無い。
「かしこまりました。貴重な機会をありがとうございます」
「ああ。それじゃあ、またあとでな」
私が手を振ると、指南役はいそいそと王宮へ入っていった。
……さて。
「私も、人探しをしないとだな」
手元の手紙をじっと見つめながら、そう呟いた。
◆
「…………」
適当に捕まえた執事の後を歩きながら、私はこれから会う人物について考えていた。
──バーベナ・ヴァーベイン。
数多くいる王家お抱えの魔法使いの中でも、特に有名な人物だ。
……まあ、主に悪い意味でなのだが。
どれだけ難解な魔術書・魔導書も一読しただけで理解し、ものにするほどの才覚がありながら、精通しているのは呪いや黒魔術ばかり。
そのせいで、他の魔法使いからも嫌われているのだとか。
では、なぜそのような人物が王家お抱えなどという肩書がつくほど出世したのか。
理由は、至極単純だ。
首輪をつけておかないと、危険すぎる。
こいつに好き勝手やらせていては、いつか国が滅んでしまう。
そう判断した王家の人間が、早いうちからこの称号を与えたそうだ。
……ところで、なぜ私がこれほどまでに、バーベナについて詳しいのか。
こちらも、理由は簡単だ。
二次創作でこいつ死ぬほど出てくるんだよ!!
例の小説では挿絵三回、表紙の隅に一回という登場回数なのだが、このバーベナ、物凄く美形なのだ。
しかも、イラストが美形に描かれているだけでなく、公式設定で『整った顔立ち』と明記されている。
さらに、黒魔術や呪いを扱うという設定上、二次創作の舞台装置として非常に便利なのだ。
二次創作をあさっていると、三回に一回は見かける。
それも、全年齢向けから少しはみ出した枠で。
そんな人物に、私は今から会いに行かなければならないのだ。
……嫌だなぁ。
キャラとしてもあんまり好きじゃないのに、まさか実際に会わなければならないという状況になるとは。
でも、会って損はない……はずだ。
だってこいつ、将来光堕ちするんだもん。
勇者の味方として、最強&最凶の魔法使いとして登場し、敵役の私と対峙することになるのだ。
となれば、私がすることはただ一つ。
今のうちから仲良くなって、敵対するような状況をなくすこと。
そうすれば、死亡フラグの一本や二本、折れてくれるだろう。
これもいわば、コネ作りの一環だ。
「エリヌス様。こちらが、バーベナ様の研究室でございます」
「ああ。ご苦労様」
忌避すべきものから離れるかのように急ぎ足で去っていく執事を、少し不思議に思いながら見送る。
そして、正面の扉に向き直って、すべてを理解した。
「やばっ、この部屋」
どす黒い装飾やら焦げ跡やらなんやらがついている扉を見つめながら、私はそんな感想をこぼした。
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