第50話 お掃除


「おお、すごいな。こんなに部屋が綺麗になったのは本当に久しぶりだぞ」


「……すげえ汚かったもんな」


「モニカもあんなに汚いお部屋初めて見た……」


「………………」


 オズとモニカとリオネ先生と一緒に今週の学園のことを話しながら道場を掃除していった。普段リオネ先生が獅子龍王流の武術の鍛錬をしている道場の真ん中以外の部分はだいぶホコリをかぶっていたけれど、箒で掃いたり雑巾がけをすることによってだいぶ綺麗になった。


 問題はそのあとの道場の奥にあったリオネ先生の部屋だ。道場の奥にそのままつながっていて、台所や寝室や居間のような部屋がいくつかあったのだけれど、どの部屋もすさまじく汚かった。


 それはもう物が散乱しているとかいうレベルではなく、汚部屋と呼んでも過言ではないくらいに物が散らかってホコリは溜まり、挙句の果てに部屋の隅には謎の草なんかが生えていた。


 今日の午後の休み全部を使ってなんとか4人がかりで部屋を綺麗にすることができたと言えば、ここがどれだけ汚い部屋だったのか少しは想像できるかな。どうやらリオネ先生は掃除がまったくできない人らしい。


「3人のおかげでとても助かったぞ。どれ、礼にこの街で売っている菓子でも出してやるとしよう」


「やったぜ!」


「やったあ~!」


「ありがとうございます」


 今日の午後はずっと掃除をしていたから、さすがにもう学園の寮に帰らないといけない時間かな。だけど掃除をするのも普段動かしていない動きをしていたから、少しは鍛錬になっていた気がする。


 それに僕たちの組手の相手をしてくれたり、獅子龍王流の武術をお金を払わないで教えてくれるんだから、これくらいの掃除なんて本当に安いものだ。


「うお、なんだこれ! 甘くてうめえぞ!」


「あまくておいしいね!」


「うん、おいしい!」


「最近売り出した砂糖を使った菓子らしいぞ。部屋の中がこれほど綺麗になるのはいいものだな。さあ、遠慮なく食べるといい」


 リオネ先生が出してくれたお菓子はクッキーのような小麦粉と砂糖をあわせて焼き上げたお菓子らしい。口の中に入れると砂糖の甘さがふわっと広がってきた。


 僕たちの村だと甘いものはあんまり手に入らないから、森で一時期だけ採れる果物くらいしか甘いものを食べることができない。砂糖を使ったお菓子なんて本当に久しぶりに食べた。もちろんオズとモニカは初めて食べる砂糖の味にとても驚いていた。


「それだけうまそうに食べてくれるのなら、出してやった甲斐があるな。何せ結構な値段のする菓子だし、私も久ぶりにちょっくら狩りをしてきたぞ」


「えっ!? リオネ先生は狩りをしていんですか?」


「ああ。対人戦はなかなか機会がなくて難しいが、凶暴で人に害を与える魔物ならば問題なく、良い実戦経験にもなる。肉は自分で確保できるし、余った肉や素材なんかはそこそこの値段で売れるからな」


「すご~い!」


「もしかしてリオネ先生は冒険者だったりするのか!?」


「ああ。冒険者登録はしている。魔物の素材を売る時には冒険者に登録をしていたほうが高く買い取ってもらえるからな。お前たちも冒険者に興味があるのか?」


「はい! リオネ先生、俺は将来冒険者になるつもりなんだ!」


「ほう、オズは冒険者志望か。確かに冒険者には夢があるが、その分とても危険な職業だ。一瞬の油断で命を落とすし、しっかりとよく考えて決めるんだぞ」


「押忍!」


「う~ん、モニカはまだ分かんない……」


「僕はたぶんお父さんの畑を継ぐから、冒険者にはならないかな」


 冒険者かあ……夢はありそうだけれど、その分危険も多そうな仕事みたいだ。僕は今のところはお父さんの畑を継いで、村のみんなを守れるくらい強くなりたい。


 それにしても、リオネ先生は冒険者なんだ。普段は道場で鍛錬をしていてお酒を飲んでいたけれど、ちゃんと働いていたみたいだ。確かに危険が多そうだけれど、魔物との戦いは実戦経験にもなるし、武術を学びながら冒険者になる人も多い気がする。


「どちらにせよしばらくは学園に通うのだから、すぐに決めることじゃない。学園で学びながら、ゆっくりとどうなっていきたいかを考えるといいさ。そういえば3人で狩りに行きたいと言っていたな。良い実戦経験にもなるし、この街から近くてそれほど危険な魔物がいない場所を教えてやるとしよう」


「やったぜ! リオネ先生、ありがとう!」


「先生、ありがとう!」


「リオネ先生、ありがとうございます」


「そうだな、明日はまた道場に来るということだし、来週はその場所を案内してやるぞ」


 ありがたいことに、来週は狩りをできる場所にリオネ先生もついてきて案内してくれるみたいだ。さすがに見ず知らずの土地でいきなり狩りをするの危険だからとても嬉しい。

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