第48話 戦い方


「……俺が勝っちゃったら、父ちゃんたちに何かされたりしないかな?」


「たぶんエルオくんはそんなことをしないと思うよ。属性魔法を持っていない僕にもそんなことはしてこなかったからね」


 エルオくんたちは僕みたいな属性魔法を持っていない人を悪く言っていたけれど、自分と同じ属性魔法を持っている人に対してはそれほど悪い感情を持っていない気がする。


 ……ちゃんとオズの名前は憶えてくれていたみたいだし、僕みたいに名前が分からなくて無能とか属性なしとか呼ばれなかったもんね。うん、でも僕もちゃんと名前を憶えてくれたはずだからもう大丈夫!


 ゴード師匠にも貴族の子供とは問題を起こさないように言われていたけれど、模擬戦で手を抜いてもきっとエルオくんたちは喜ばないと思うな。


「オズ、頑張って!」


「おう、あいつも魔法は結構強そうだったけど負けねえぞ!」




「それでは模擬戦を始めます」


 午後の実技の授業が始まって、オズとエルオくんの模擬戦が始まる。今日は2人の模擬戦を見学している同級生が大勢いるみたいだ。2人とも強くて目立っているからね。


 もちろん僕とモニカもフィールドの外で見学しているし、エルオくんの友達であるシュリオくんとガストくんも見学をしている。


「エフォートはどっちが勝つと思う?」


「たぶんオズかなあ。まだみんな僕たちの戦い方に慣れてないみたいだしね。でも属性魔法は同じくらいすごいから、エルオくんが勝つ可能性も全然あると思うよ」


 この1週間でよく分かったけれど、僕はともかくオズやモニカの戦い方は普通の属性魔法の使い手とは根本的に異なるみたいだ。他の同級生はエルオくんたちを含めて、基本的には模擬戦の開始位置から動かずに魔法を撃ち合っている。


 お互いに防御の魔法で相手の魔法を防ぎつつ、相手の防御を破る強力な魔法を撃つのが基本的な戦術みたいだ。だけどオズやモニカみたいに武術を学んで、高速で動きながら魔法を放ってくる相手にその戦法が通じないのは当然かもしれない。


 とはいえ、エルオくんも属性魔法だけだったら、オズやモニカと同じくらい発動時間が短くて魔法の規模も大きい。いったいどっちが勝つのだろう?






 ビーッ!


 戦闘不能を告げる模擬戦場にある魔道具の音が鳴り響く。


「やったぜ!」


「くそっ……!」


 オズが1本目に続けて2本目を取って、この模擬戦はオズの勝利となった。


 確かに結果的にはオズが2本連取して圧勝に見えたけれど、エルオくんがその戦い方を変えてきた。前回までの僕との模擬戦やその後の別の同級生やシュリオくんとガストくんたちとの模擬戦では、他の同級生たちと同じようにスタート位置の白い円から動かずに魔法を撃っていただけだった。


 だけど今回のオズとの模擬戦だと、オズやモニカと同じように模擬戦が開始すると同時にスタート位置の白い円から動いた。その動きも速かったから、たぶん身体能力強化魔法も使っていた気がする。


 もちろん獅子龍王流の武術を学んで鍛えているオズよりはだいぶ遅かったけれど、的が動くようになっただけでだいぶ厄介になったみたいだ。


 とはいえ、エルオくんは身体能力強化魔法を使っての戦闘はまだあまり慣れていないらしく、結果的にはオズが2本を先取した。身体能力強化魔法はそれほど集中せずに発動できるけれど、属性魔法はそれなりに集中力がいるらしく、動きながら属性魔法を撃つのは少し難易度が上がると2人から聞いている。


「ちっ、俺の負けだ。だが、この戦い方も多少の感覚はつかめてきた。次は負けないぞ!」


「お、おう! そっちの火の魔法もすっげー格好良かったぜ! また模擬戦をやろうな!」


「ふんっ……」


 良かった、どうやらオズとエルオくんが揉めるようなことはなかったらしい。エルオくんもオズに自分の魔法を褒められて少し嬉しそうだ。


「オズ、おめでとう」


「おう、モニカ。やったぜ!」


 モニカと一緒に模擬戦が終わった2人の方へ近付く。


「2人ともとってもすごかったよ!」


「おう、サンキュー」


 僕もオズとエルオくんに声を掛ける。


「……貴様だけは認めないぞ!」


「えっ!?」


「オズとそっちの女はまだいい。だが、平民の上に属性魔法を使えない貴様だけは絶対に認めないからな! 今度は必ず俺が勝つ!!」


 そう僕へ向かって宣言すると、エルオくんは踵を返して、シュリオくんとガストくんの方へ戻っていった。


「……なんか目の敵にされているみたいだな」


「むう~あの子嫌い!」


 オズの言う通り、なぜか僕だけエルオくんに睨まれた。やっぱり属性魔法を使えない僕をまだ認めてくれないみたいだ。


 ……僕はエルオくんとも仲良くしたいから、ちょっと悲しい。

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